第一話「ボクは歴戦の戦士を見た」
あらすじ
作者にはシリアスを書く力が欠けているっ!
「そこの愚か者に[服従の首輪]をかけよ!!」
ああ、父上が怒ってしまった。
父上はあろうことか勇者を奴隷にするつもりらしい。
魔石に込められた魔力がを使う事で装備者に苦痛を与える首輪。
作り出すのは罰という名の拷問。生まれるのは道徳から外れた主従関係。
ゆえに[服従の首輪]。
「でも、そこまでしなくても……」
事前に『首輪をかける』とは聞いていた。
でもそれは呼ばれた者が悪人の場合ではなかったのか?
たしかに目の前の勇者は酔っぱらっていて話が通じそうもない。
それでも人間。お酒が抜けさえすればきっと話し合える。
きちんと事情を話せば快く魔王討伐に協力してくれるかもしれないのに一体何故こんな事を?
だがボクが疑問の声を上げる間もなく勇者に首輪がかけられてしまう。
「な、なんで?」
父上はそれほどまでに『ウヒャほへヒヒヒヒヒ。ホー!』に怒ってらっしゃるのか?
一方の勇者は物珍しそうに自分の首にかかった[服従の首輪]をいじっている。
自分の首にかかったモノが何であるかを理解していないのだろう。
「愚かなる勇者よ。自らの行いを悔い罰を受けるがよい」
「むふふふふ。ひょうれふねー」
……父上が怒るのも分かる気がする。
「痴れ者が!」
ああ、[服従の首輪]が発動する。
ボクはいたたまれなくなって思わず目を背けた。
「えへへへへへへ」
え?これは勇者の笑い声?
[服従の首輪]が発動する時特有のバチバチとした音も無い。
一体どういう事なのだろう。
恐る恐る見てみるとそこには首輪の無い勇者の姿があった。
首輪が無いなんて、一体何をしたというんだ!?
[服従の首輪]は契約した本人。この場合は父上でしか外せないはずなのに。
ボクは隣にいる護衛の袖を引っ張って何が起こったか聞いてみる。
「ハールマン、一体あの男は何をしたの?」
見れば護衛でさえもボクと同様かなり驚いている。
いつも眠そうな優男が今は警戒する戦士の顔へと変わっていた。
「……死にたい」
「ハールマン?」
「あ、いえ何でもないです。あの勇者が何をしたのかでしたね?私にも確実な事は言えませんがねぇ。どうやら首輪を別空間へ飛ばしたのではないかと」
「別の空間?」
「ええ、どうやら[古術師]か何かのジョブを持っているみたいですね。私もあんなスキルは初めて見ましたよ」
「君が初めて見るスキル……か。驚きだね」
「不死とはいえ私はまだ400歳にも至らぬ若造ですのでねぇ。別にそれほど驚く事でもないでしょうに」
「ボクを君と一緒にしないで欲しいんだけど」
そう、ハールマンは吸血鬼だ。
だから寿命が来るまで死ぬ事が無い。少なくとも吸血鬼の平均寿命の1000歳ぐらいまでは怪我や病気では絶対に殺せないだろう。
だからこそ吸血鬼の多くの戦闘経験と知識を持っている者が多いのだが、その吸血鬼であるハールマンでさえ知らないスキルを酔っぱらった状態で使うとは。
少なくとも彼が強い事はまちがいなさそうだった。
「貴様、何をした!!」
父上にとってもこの結果は予想外だったのだろう。
声に少し動揺が混じっている。
「ぬふぇふぇふぇ、アイへむヒョっくス―」
ダメだ。何を言ってるか分からない。
「この痴れ者が!!」
ああ、父上がさらに怒ってしまった。
「それにしても法王様、ちょっと魔王っぽいですねぇ」
ハールマン。君、主君に何て事を言うんだ。
「……父上を悪く言わないでよ」
仮にも臣下なのだから礼をわきまえて欲しい
「おっと、これは申し訳ない。なにぶん寝不足でしてねぇ」
「理由になってない気がするんだけど」
「さて、何の事だかサッパリですねぇ。そんな事より彼が私を殺せるかどうかの方が重要ではないのですか?」
「ハア、君は相変わらずだね」
ハールマンはボクや父上に対する忠誠心が薄い。
そもそも何でこの城で仕えているの?ってくらい忠誠心が薄い。
ボクのお爺様とウマが合ったとかいう理由でこうして城に使えていると本人から聞いたことがあるが、そのお爺様が亡くなってからはますます不真面目になった。
今はお爺様の遺言に従いボクの護衛兼世話係だが、ソレさえなければとっくにこの城からいなくなっていただろう。
1部の貴族はハールマンがこの城にいる事が気に入らないみたいだけど、当の本人が相当な手練れらしいので城にいる事に文句を言えないみたいだった。
……でも正直いっつも眠そうだから頼りない事この上ないと思う。
吸血鬼は基本的に夜行性なんで仕方がない事ではあるのだが、だったらもっと別の人を護衛に付ければいいのにと思わずにはいられない。
これじゃあ寝不足のハールマンが可哀想。
寝不足が祟ったのか最近自殺願望が出てきたみたいだし。
不死なんだから死ねるわけがないのにさ。
「おっと。法王様、今度は魔法を使うみたいですねぇ。対する勇者の方は歯牙にもかけないみたいですが」
「父上が魔法を!?」
さすがにそれはダメだっ!
父上の別名は法王。ヒューマンでありながら[召喚士]、[魔術師]、[裏魔導師]の3つの魔法職をレベル80代にまで極めている魔法のエキスパートだ。
さらに父上自身のも元Sランクの冒険者。その戦闘能力は高い。
いくら勇者と言えど無事で済むはずがないのだ。
「と、止めないと!」
「いやー、必要ないと思いますがねぇ」
「?何を言ってるの?」
「まあ見ていれば分かるかと。どちらにせよもう手遅れですしね」
父上の前で展開された魔法陣が発動した。
「っ!これは[二重詠唱]での[詠唱破棄]!?」
ボクも話にしか聞いたことが無い超高等技術じゃないか。
2つの魔法陣を呪文抜きで同時展開、術名だけを唱えて発動する大技だ。
「[イフリート]よ、強化されし汝が力で我が敵を打倒せ!!」
召喚された炎の魔人が勇者に向かって巨大化した拳を叩き込んだ。
儀式の間の温度が跳ね上がり、逆にボクの背筋が寒くなる。
「ふむ、今回は[召喚術] と[属性魔法]の二段構えですか。[イフリート]の一撃を火の上級魔法で底上げするとは。さすが法王と呼ばれるだけはありますねぇ」
「何冷静に分析してるのさ。アレじゃあ勇者が死んじゃうよ」
「王子、そういう事はアレ見てから言って下さい」
「え?」
それは一体どういう意味なの?
ボクがそう聞こうとした時だった。
なんと周りから『おおっ!!』という驚きにも称賛にもとれる声が聞こえ始めたではないか。
あわてて見てみればイフリートの拳が勇者の眼前で止められている姿がそこにある。
イフリートの攻撃を勇者を覆う膜のような何かが防いでいるらしい。
「アレは……結界?」
そうだ。アレは東国の[陰陽師]が使うという[結界]だ。
昔、小さい頃に見たソレと同じ形状をしている。
「でも、込められている魔力はあの時の比じゃない」
父上の一撃をいとも簡単に防げるほどの魔力が込められているのだ。少なくとも人間業じゃない。
「ニョほへほほー!!」
勇者はニコニコしながらお返しとばかりに魔方陣を展開する。
魔方陣の構築は流れるようにスムーズで父上と同じく詠唱は無い。
魔法職としてのレベルの高さを誇示するかのようだ。
そして勇者は何も言わぬまま術を発動。イフリートを氷の魔法で吹き飛ばした。
「そんな、[無詠唱]だって!?」
信じられない。お伽話にしか出てこないスキルだと思っていた[無詠唱]をよりにもよってこんなアンメルヘンな男が使うなんて。
世界の夢見る子供たちに謝って欲しい。
場の興奮と動揺が冷めない中、勇者はまるで何かを求めるかの様に父上に向かって手を差し伸べた。
まさか、まさか父上に命を差し出せと?
だが勇者の纏っている空気は至極穏やか。そんな風にはとても見えない。
ボクを含めた皆が見守る中、勇者はゆっくりと口を開いた。
「フョフらおみプーじから。お酒チョーダイっ!」
誰も、何も言わなかった。
「ハールマン。今のって一体どういう事?」
「……永眠したい」
「ハールマン?」
「あ、いえ何でもないです。今のが何かでしたね?言葉通りだと思いますよ」
「そ、そうか。でもさっきのお酒の催促だけは妙にハッキリ言えていたよね。もしかしてあの勇者、酔ってるフリでボク達を騙してるんじゃない?」
「いえ、それは無いでしょうねぇ。どちらかと言えばアレは性質の悪い酔っぱらいの証拠みたいなモノですし」
「そうなの?」
「ええ、店にもよりますが、あの一言さえ言えればどんなに酔ってもお酒をもらう事ができますからねぇ。あの男、きっと数々の修羅場を潜り抜けあの技を身に着けたのでしょう。歴戦の酔っぱらいと見て間違いないはずですよ」
技なんだ。
でもって歴戦なんだ。
「戦いにも……色々あるんだね」
「ええ、色々あるのです」
本当に世界は救われるのだろうか?
ボクは運ばれてくる酒樽を見てタメ息をつく事しかできなかった。
ども、谷口ユウキです(-_-)/
『プチトリ!!』でシリアス宣言しておいてさっそくコメディーに走り出しました( ̄ー ̄;
「シリアス」、なんて強大な壁なんだっ( 」―´)」
思わず『プチトリ!!』のシリアス宣言をコッソリ削除しちまったぜ(≧血≦;)
前にキャラやストーリーは作者の人柄とか聞いたんだけど真面目な話を書くのに苦戦するオレって……(._.)
ま、まあその話は置いといて、とりあえず今回は前回のプロローグより分量がチョット多いですねって話に行きたいと思いますo(^-^)o
いや、プロローグがバカみたいに長い本編のが可笑しいのかもだけど(=_=)
とりあえずコッチの1話分の分量はこの話くらいの予定です(>ω<)o
以上。後書きでした(^_^)/