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Minority  作者: 水上かなみ
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人ごみの中で

 どんな自分になりたいかは良く分からないけれど、どうなりたくないかは分かっている。


 例えば、悪くは無いけれど大して良くも無い大学を卒業して、就職活動に苦労しながらもなんとか貰った内定で中小企業に就職する。事務の仕事なんかをしながら、毎日怒られもせず、かといって褒められもせず精神を削りながらあくせく働く。そんなありふれた人生。

 つまり、今の私みたいな。


 なんの特徴も無い人生を送ってきたと思う。

 田舎の中流階級の家に生まれて、小中高とずっと成績は中の上。文化祭や体育祭や、色々合った気がするけれど、今思うと特別なことなんて何もなかったような気もする。

 大学は一念発起して、なんとか関東の私大に受かった。平凡な自分を変えたくて大学では色々やった。サークルにゼミに文化祭実行委員に……。けれど何処にいても、役職につくようなことはなかった。結局私はその他大勢のうちの一人でしかないんだろう。

 人当たりは良いから友達は多かったけれど、今でも連絡を取るような、親友と呼べるような人は数人しか居ない。彼氏もいたりいなかったり。全くモテなかったわけじゃないけれど、付き合った数はそんなに多くない。

 そうして大学を卒業してから三年。つまり今の会社に就職してからも三年。卒業後もそのまま関東に残って就職した。ようやく仕事には慣れたけれど、その分ただ毎日の単調さが強調されたような気がする。

 セクハラ上司がいたり、それなりに仲の良い同期やちょっとカッコいい先輩がいたり。たまの休みには同期の子と遊びに行って、先輩と目が合うとドキッとしたりして。そんな風に消費されていく毎日。


 どこまでいっても平凡。

 そりゃ生きるか死ぬかみたいな、そんな波乱万丈な人生は嫌だけれどさ。

 アフリカの国なんかでは今だって飢えて死にそうになっている子供もいるんだろうし、こんなことは贅沢だってもちろん分かっている。


 けれど、

 私は、普通ってのが大嫌い。

 平凡な自分のことも、大嫌い。

 こんな自分を、なんとか変えたいなって思っても、結局思うだけで何もしない。いつか何か劇的なことが起こるんじゃないかってただ待ってるだけ。そんな発想からして、もう月並みすぎて嫌になる。だって、どうしたらいいのか分からないんだもん。



「コラッ! なにボーっとしてんだ!」

 いつの間にか意識が飛んでいたらしい。後ろから上司に頭を叩かれてハッと気がついた。

 慌ててパソコンの画面に目を移して、慣れた手つきでデータを打ち込んでいく。画面の向こうにいる同僚の早苗と目が合うと、彼女は苦笑いしていた。

 あちゃー、やっちゃったな。と、私も苦笑いをかえす。

 昨日夜更かししたのが良くなったのかな。

 最近の私のお気に入り、再放送している深夜放送の海外ドラマ。レンタルで観ようかとも思ったんだけれど、お金がもったいなくて結局諦めてしまった。

 一人で生きていくのは、ありふれているけれど、それなりに難しい。お給料はそんなに多くないから節約しなきゃいけないし、家事だってしなきゃいけない。仕事にかまけて最近掃除はサボりぎみだけど。

 まだ若いのに、なんだかどんどん所帯じみていくみたいで嫌だな。そんな事を考えながらも、今度は怒られないように手だけは動かし続ける。

 時計を見るともうすぐ終業時間。よし、あとちょっと頑張ろう、と自分の頬を叩いた。


 なんとか定時までにノルマを終わらせることが出来た。サボっていた分があったから残業も覚悟していたんだけれど、人間やればできるもんだ! とガッツポーズ。もちろん心の中で。

 パソコンの電源を落として帰り支度をしていると、さっき苦笑いしていた早苗が話しかけてきた。彼女も今日の仕事は終わったみたいで、もうコートも着ていていつでも帰れる態勢だった。

「アキ、さっきはアンラッキーだったね」

「いやー、お恥ずかしいところをお見せしました」

 タイムカード押すと、私たちは連れ立って会社を出る。

「居眠り? 珍しいね」

「だねー。昨日夜更かししちゃったからかなぁ」

「彼氏さんと熱い夜でも過ごしたんですかぁ?」

 早苗がニヤニヤ笑いを向けてきたので、その頭に軽くチョップを入れる。

「私に彼氏居ないの知ってんでしょ! そうじゃなくて、深夜ドラマにはまっちゃってさ。ほら、先週からずっとやってるやつ」

「あっ、それ私も前に観たよ。主人公の兄がさぁ──」

「ちょ、ちょっと、私まだ観てないんだからやめてよ」

 耳を押さえながら抗議。

「えー、どうしよっかなぁ」

 意地悪に笑うその顔がムカついたので、もう一発頭を叩いてやったらようやく口を閉じた。


 話しながら駅前まで来ると早苗がちょっと歩調を緩めた。

 これはアレかな? 私も合わせてゆっくり歩く。

「ねーアキー、今日どう?」

 しばらく歩いていると、早苗が居酒屋が並ぶ通りの方を指差してそう切り出した。

 やっぱり!

 早苗は無類の酒好きで、事あるごとに飲みに誘ってくる。というか一緒に帰るときは必ずと言ってもいいかも。

「んー、今日はやめとく。行きたいとこあるし」

 そう返すと、早苗はガックリと肩を落とした。三回に一回は断っているから、これもいつものこと。

 誘われるのは嬉しいけれど、そう連日じゃお財布が持たない。

 そんなにお酒が好きなら家で飲めば良いじゃん。と以前言ったこともあるけれど、そしたら思いっきり否定された。

 早苗はお酒は好きだけど、一人で飲むのは嫌いらしい。早苗曰く、お酒は誰かと飲んでこそだとかなんとか。私はそんなに飲む方ではないので分からないけれど、そういうものなのかな?

 とか言っても、早苗はどうせ帰ってから一人で飲んでるんだろうけどね。

「私の誘いを断ってまで行きたいとこってどこよー!」

「なーいしょっ」

「あっ、やっぱり彼氏だ! そうでしょ!?」

「だから違うってばー」

 適当にごまかしながら、路線が違うので早苗とは改札で別れた。

 別に隠す理由は無かったけれど、なんとなく秘密にしている。私の趣味。


 帰宅ラッシュの電車に耐えながら、私は車内のくたびれた人たちをぼんやり眺めていた。誰もが疲れきったような顔をしている。もちろん私もそうなんだろう。

 ただ生きているだけでも、世の中には面倒なことが多すぎる。

 芸術家みたいに、自分のやりたいことを仕事にしているような人は違うのかも知れないけれど、平凡な私にできるのは、お茶くみ電話対応データ入力くらいなものだ。そんな楽しくもない仕事をし続けていたら、そりゃストレスも溜まる。

 ストレスは見えない雪みたいなものだ。ちょっとくらいならほっておけば溶けて消えていくけれど、それがずっと続けば、いつの間にか積もりに積もって身動きができなくなる。

 だから、そうなる前に溶かしておかないといけない。


 電車が繁華街につくと、一斉に下りる人の波に乗って私もホームに降り立つ。私の家はここから三駅先で乗換えだけれど、今日はここで降りる。

 改札を抜けて、しつこいキャッチの声を無視しながら夜の街をそのままズンズン歩いていく。きらびやかなネオンを振り切って、街の外れまで。

 しばらくすると、立ち並ぶ雑居ビルの隙間に地下へと続く薄暗い階段が見えた。

 そこが私の目的地。

 私は躊躇うことなく、人一人が何とか通れるかという細い階段を下りていく。しばらくするとやけに厳しい扉と、その上には裸電球に照らされた、何て読むのかも分からないくらい崩された英文字の看板が見えた。

 扉の前にある受付でお金を払って、引き換えにチラシを数枚貰う。そのままチラシをカバンに詰めながら、二重になっている扉を開ける。


 途端に、光と音の洪水が私の全身を包み込んでいった。


私の趣味全開な話を書いてみようと思います。

更新は遅いかもしれませんが、ボチボチ書いていきますw

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