父さん、俺はもう48歳なんだけど
父が亡くなり、四十九日が過ぎた。
慌ただしさしかなかった葬儀とは違い、今回の帰省には少しばかり時間がある。
誰もいなくなった実家を整理するため、俺は会社から有給を三日もぎ取ってきた。
「このトラクター、どうするかな……。」
納屋の中央に鎮座する古いトラクターを眺めながら、俺はため息をついた。
限界集落にある我が家は、無駄に広い米農家だった。
先祖には申し訳ないが、俺は米を作るつもりはない。
不幸中の幸いだったのかもしれない。
父が亡くなったのが稲の育成途中だったら、田んぼに残された稲をどうすることもできなかっただろう。
実った米を、そのまま無駄にすることになっていたかもしれない。
そんなことを考えながら納屋を片付けていると、隅に妙なものを見つけた。
「んっ?」
最初は、ただの鉄板が置かれているだけだと思った。
古い農家の納屋だ。
使われなくなった資材の一つや二つ、珍しくもない。
だが、近づいてみると違和感があった。
鉄板には取っ手が付いている。
そして、そこに結ばれた太いチェーンは、納屋の梁に取り付けられた滑車へと繋がっていた。
「……なんだ、これ」
腰を入れ、チェーンを引っ張ってみる。
ジャラジャラジャラッ。
錆びた金属音が、静かな納屋の中に響いた。
少しずつ、鉄板が持ち上がっていく。
これは、蓋だ。
「はぁ、はぁっ! はぁ、はぁっ!」
開けきった頃には、すっかり息が上がっていた。
めちゃめちゃ苦しい。
両手を膝について、荒い息を整える。
「……なんだ、これ」
開けている途中から気づいていたが、地下へ続く階段だ。
それも、素人がDIYで作ったような代物ではない。
蓋が開いた瞬間、連動するように照明が灯った。
「父さん……。何を作ってたんだよ」
顎を伝う汗を拭い、階段をゆっくりと降りていく。
一段。
また一段。
どれほど降りただろう。
かなりの深さまで来ているはずなのに、空気は湿っていなかった。
地下特有のカビ臭さもない。
どこかで換気が行われている証拠だ。
「ふぁっ!?」
ようやく階段を降りきる。
そこにあったのは、両開きの巨大な扉だった。
それも、自動ドア。
プシュー。
空気が抜けるような音がして、扉が左右に開いた。
地上の家は、茅葺き屋根の古民家だ。
納屋だって、錆びたトタン張りである。
世界観が違いすぎる。
「……なんだ、これ」
扉の向こうは深い闇だった。
一歩踏み出すのを迷っていると、眩しい光が灯った。
カシャン!
カシャン!
カシャン!
野球場の照明のような強烈な光が、順番に闇を切り裂いていく。
まずは右。
次に左。
最後に、頭上。
俺は、目を丸くした。
「か、顔? ……きょ、巨大ロボット?」
そこにあったのは、巨大な顔だった。
赤い目。
意味を感じさせない口。
鋼鉄のような肌が、鈍く光っている。
それは、昭和のロボットアニメを思わせる顔だった。
しかし、驚きはそれだけではなかった。
『ヒロシ、ここを無事見つけられたようだな』
声のした方を見る。
そこに、父がいた。
四十九日を過ぎたはずの父が。
うっすらと向こう側が透けている。
「幽霊?」
思わず呟く。
「いや、夢だよな。これ」
きっとそうだ。
三日の有給をもぎ取るために、ここ最近ずっと仕事を詰め込んでいた。
その疲れが、こんな訳の分からない夢を見せているんだ。
そうに違いない。
そうでなかったら、父は白衣なんて着たりしない。
俺の知っている父は、いつだって作業着姿だった。
『ふっふっふっ……。夢では、ないっ!』
目だって、こんなにギラついていない。
いつも父は眠そうな目で、一番安い煙草を吸っていた。
『人類は滅亡するっ!』
「……は?」
くわっと、父は目を見開いた。
古典的だが、頬をつねってみる。
しっかりと痛い。
残念だ。
『だが安心しろ!』
『人類を救う準備はできている!』
『お前は、このマッスィーンに乗って、暗黒帝国と戦うのだ!』
父は拳を力強く握ってみせた。
このロボット、売れるのかな。
どうせ遺産を残すなら、現金がよかった。
相続税とか困るぞ。
『地球の明日のためのスクランブルだ!』
『守れ! 友を! 倒せ! 敵を!』
俺は、巨大ロボットに背を向けた。
階段を上ってゆく。
『待て、ヒロシ! 帰ってこい! お前が人類の希望なのだ!』
何やら、父っぽいものが喚いているが振り返らない。
というか、会話ができているっぽい時点で、父ではない。
俺の知っている父は、もういないのだ。
「父さん……。」
ジャラジャラジャラッ。
古びた金属音が、静かな納屋に響く。
「俺、もう48だよ……。
子どもだって、もう大学生だ」
俺は、鉄の蓋をそっと閉めた。
******
「わっはっはっはっはっ!」
海王星近郊。
人類の知らぬ場所で、巨大な悪が動いていた。
「ヒャッハーロボよ! このメガドンアタックを喰らえ!」
天の川銀河の支配を目論む暗黒帝国である。
だが、人類には希望が残されていた。
三人の父親が遺した、三体の正義の巨大ロボット。
「合体するぞ! 明日はもう休めない!」
「そっと優しくな。ヘルニアに響く」
「地球より離婚の危機なんだけどなー」
それを操るのは、三人のおっさんだった。
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次回!
敵か味方か!
謎の魔法おばさん、現る!
今日も、課長のため息が一つ。




