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父さん、俺はもう48歳なんだけど

掲載日:2026/09/24




 父が亡くなり、四十九日が過ぎた。


 慌ただしさしかなかった葬儀とは違い、今回の帰省には少しばかり時間がある。

 誰もいなくなった実家を整理するため、俺は会社から有給を三日もぎ取ってきた。



「このトラクター、どうするかな……。」



 納屋の中央に鎮座する古いトラクターを眺めながら、俺はため息をついた。


 限界集落にある我が家は、無駄に広い米農家だった。

 先祖には申し訳ないが、俺は米を作るつもりはない。


 不幸中の幸いだったのかもしれない。


 父が亡くなったのが稲の育成途中だったら、田んぼに残された稲をどうすることもできなかっただろう。

 実った米を、そのまま無駄にすることになっていたかもしれない。


 そんなことを考えながら納屋を片付けていると、隅に妙なものを見つけた。



「んっ?」



 最初は、ただの鉄板が置かれているだけだと思った。


 古い農家の納屋だ。

 使われなくなった資材の一つや二つ、珍しくもない。


 だが、近づいてみると違和感があった。


 鉄板には取っ手が付いている。

 そして、そこに結ばれた太いチェーンは、納屋の梁に取り付けられた滑車へと繋がっていた。



「……なんだ、これ」



 腰を入れ、チェーンを引っ張ってみる。


 ジャラジャラジャラッ。

 錆びた金属音が、静かな納屋の中に響いた。


 少しずつ、鉄板が持ち上がっていく。

 これは、蓋だ。



「はぁ、はぁっ! はぁ、はぁっ!」



 開けきった頃には、すっかり息が上がっていた。

 めちゃめちゃ苦しい。


 両手を膝について、荒い息を整える。



「……なんだ、これ」



 開けている途中から気づいていたが、地下へ続く階段だ。


 それも、素人がDIYで作ったような代物ではない。

 蓋が開いた瞬間、連動するように照明が灯った。



「父さん……。何を作ってたんだよ」



 顎を伝う汗を拭い、階段をゆっくりと降りていく。


 一段。

 また一段。

 どれほど降りただろう。


 かなりの深さまで来ているはずなのに、空気は湿っていなかった。

 地下特有のカビ臭さもない。


 どこかで換気が行われている証拠だ。



「ふぁっ!?」



 ようやく階段を降りきる。

 そこにあったのは、両開きの巨大な扉だった。


 それも、自動ドア。


 プシュー。

 空気が抜けるような音がして、扉が左右に開いた。


 地上の家は、茅葺き屋根の古民家だ。

 納屋だって、錆びたトタン張りである。


 世界観が違いすぎる。



「……なんだ、これ」



 扉の向こうは深い闇だった。

 一歩踏み出すのを迷っていると、眩しい光が灯った。


 カシャン!

 カシャン!

 カシャン!


 野球場の照明のような強烈な光が、順番に闇を切り裂いていく。


 まずは右。

 次に左。

 最後に、頭上。


 俺は、目を丸くした。



「か、顔? ……きょ、巨大ロボット?」



 そこにあったのは、巨大な顔だった。


 赤い目。

 意味を感じさせない口。

 鋼鉄のような肌が、鈍く光っている。


 それは、昭和のロボットアニメを思わせる顔だった。

 しかし、驚きはそれだけではなかった。



『ヒロシ、ここを無事見つけられたようだな』



 声のした方を見る。


 そこに、父がいた。

 四十九日を過ぎたはずの父が。


 うっすらと向こう側が透けている。



「幽霊?」



 思わず呟く。



「いや、夢だよな。これ」



 きっとそうだ。


 三日の有給をもぎ取るために、ここ最近ずっと仕事を詰め込んでいた。

 その疲れが、こんな訳の分からない夢を見せているんだ。


 そうに違いない。


 そうでなかったら、父は白衣なんて着たりしない。

 俺の知っている父は、いつだって作業着姿だった。



『ふっふっふっ……。夢では、ないっ!』



 目だって、こんなにギラついていない。

 いつも父は眠そうな目で、一番安い煙草を吸っていた。



『人類は滅亡するっ!』

「……は?」



 くわっと、父は目を見開いた。


 古典的だが、頬をつねってみる。

 しっかりと痛い。


 残念だ。



『だが安心しろ!』


『人類を救う準備はできている!』


『お前は、このマッスィーンに乗って、暗黒帝国と戦うのだ!』



 父は拳を力強く握ってみせた。


 このロボット、売れるのかな。

 どうせ遺産を残すなら、現金がよかった。


 相続税とか困るぞ。



『地球の明日のためのスクランブルだ!』


『守れ! 友を! 倒せ! 敵を!』



 俺は、巨大ロボットに背を向けた。

 階段を上ってゆく。



『待て、ヒロシ! 帰ってこい! お前が人類の希望なのだ!』



 何やら、父っぽいものが喚いているが振り返らない。


 というか、会話ができているっぽい時点で、父ではない。

 俺の知っている父は、もういないのだ。



「父さん……。」



 ジャラジャラジャラッ。

 古びた金属音が、静かな納屋に響く。



「俺、もう48だよ……。

 子どもだって、もう大学生だ」



 俺は、鉄の蓋をそっと閉めた。




 ******




「わっはっはっはっはっ!」



 海王星近郊。

 人類の知らぬ場所で、巨大な悪が動いていた。



「ヒャッハーロボよ! このメガドンアタックを喰らえ!」



 天の川銀河の支配を目論む暗黒帝国である。


 だが、人類には希望が残されていた。

 三人の父親が遺した、三体の正義の巨大ロボット。



「合体するぞ! 明日はもう休めない!」

「そっと優しくな。ヘルニアに響く」

「地球より離婚の危機なんだけどなー」



 それを操るのは、三人のおっさんだった。




 ******




 次回!


 敵か味方か!

 謎の魔法おばさん、現る!


 今日も、課長のため息が一つ。




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