学年のマドンナのファンクラブに入りたいのに、俺だけ入会を拒否られる!
学校生活における、ファンクラブ。
それは部活や同好会と違い、非公式なものながら、密かに発足し、特定の誰かを推す、いわば一心同体の仲間たち。
推しへの愛を語らい、互いを高め合い、そしてまた推しを推しまくる……ッ!
そこに居るのは自分と同じ熱い思いを抱くソウルメイト!
推しへの思いはもちろん一人だとて、揺らぐことはなかろう。しかし、それを誰かと共有できる素晴らしさ!一体感!熱気!
なんて素敵な空間なんだ!
───放課後。
俺、藤峰丈は、とある空き教室を訪ねていた。
学校からは当然、非公式にして、非公認ながら、このように校内の一室に彼らがところを構えていると耳にし、俺はその詳細な情報をゲットすることにいよいよ成功した。
彼らはなかなか尻尾を出さず、至って普通の高校生活を送ってる風を装っていたため、メンバーを突き止めるのも苦労させられた。
しかし、つい先日、メンバーの1人がやっと俺の目の前でボロを出してくれ、彼らの本日の会合の場所をぺらぺらとしゃべっていのだ。
くくく……これで、ようやく長い鬼ごっこも終わりだ!
彼らの掲げる信条は『門戸開放・布教万歳』。
自分と同じ思いを持つ者を決して否定することなく、むしろどんどん仲間に取り込み、受け入れて行かんとする、新規にも優しいシステムを築き上げている。
俺が授業中に鼻血を出した時、「これ使ってください」と隣の席の古河さんが自分の真っ白なハンカチを差し出してくれた時、俺は天使かと思った。
流石にそれを汚すのは申し訳なかったのと、思わず緊張してトイレへ逃げてしまったが、あの日から古河さんのことが頭から離れない。
可愛いだけじゃなくて、中身も優しいって何事だよ!
誰かにこの衝動に駆られるような思いを布教したいし、共有したい。
俺も彼女を推したいのだ!
さあ、いざ行かん───!
これで俺も、学年のマドンナこと「古河日奈子さん」のファンクラブのメンバーに───
「あっ、君の入会はお断りさせてもらうね」
ファンクラブのリーダーらしき女子にあっさりと拒否られ、俺は呆然とした。
周りの男子生徒2人に左右の腕を優しく持ち上げられ、ぽいっと俺は教室の外に放り出された。
やがて、ガタンと閉じた教室の中からは、わはははと楽しそうな男女の話し声が聞こえてきた。
…………。
……………。
「いやいやいやいや!何で!?」
おかしいやろが───い!!
俺は奴らの熱き信条の門戸開放にのっとって、思いっきり教室の扉をオープンにした。
すると、1クラス分は作れそうな数の男女が中に集まっていた。パイプ椅子に座ってぐるっと円となっている談笑組、ホワイトボードにミーティング内容を書き出している真面目組、うちわとペンを持ってわいわいしている制作組。
「えっ?待っ、な、な、何で俺今拒否られたの!?入会誰でもOKって、言ってたじゃん!?」
全員が話を止めて、俺を見て、それから……
「ねぇねぇ、今日の英語の授業の時の"ひなさま"見た?」
「うんうん、発音ペラペラで流石帰国子女だったよね〜!きゃぁん、わたし惚れちゃうぅ」
「おいおい、音楽でお琴弾いてらしたぜ"ひなさま"」
「えええ!私選択科目違うから見れなかったんですけどー!ちょっとぉ、誰かーっ、写真撮ってないの!」
ふふっふー、俺は選択科目音楽だったから、ばっちり見てたぜ。
手つきと所作が綺麗すぎて、つい見惚れてたら、本人と目合いそうになって危なかったZE☆
じゃねぇよ!
「いや、俺のことガン無視すんな!?」
俺は聞いていた話とおもくそ目の前のファンクラブの雰囲気が違ったため、つい面を食らってしまった。
え?え?
このファンクラブ、新規加入じゃんじゃん受け入れてるっつー、聞いたんだけどな……
偽情報をつかまされたのか?
それとも、あれか?
にわかの新入りのせいで、秩序が乱れるから、新規は受け入れるのやめた的な?
「すみませんー」
俺の後ろで、男子生徒の声がした。
振り向くと、背は低めでまだ中学生にも間違えられそうな童顔の男だ。どちらかというと華奢で、年上のお姉さんに可愛がられそうな雰囲気がある。
上履きのシューズが赤色だったため、俺と同学年だ。
「ここって、例のファンクラブですよね?僕も入りたいんですけど」
俺と同じ、入会希望者らしい。
うん、でも残念だったなベビーフェイス少年。
今この古河さんファンクラブは、新規受け入れを停止してい───
「ええええっ!入会希望者!?全然OKでーす♬これからよろしくぅ」
「あっ、ありがとうございます!」
さっき俺の入会希望をぶったぎったリーダー格の女子が、指で◯(まる)をつくり、オーケーサインを出した。
ベビーフェイス少年は、嬉しそうにぺこりと頭を下げた。
めでたく、信者を増やすことに成功した瞬間。ファンクラブの面々は、「おめでとう」「ようこそ」温かい拍手でベビーフェイス少年を迎え入れた。
彼らにとっては、また1つ推しへの愛が広まった、感動のシーンなのかもしれない。
───ただし、俺を除けば、だが。
俺は手を激しく横に振った。
「いやいやいやいや!え?は?」
おかしい。
明らかにおかしい。
俺の入会はノータイムで拒否して、ベビーフェイス少年のは快く受け入れたのは何故!?
「ま、待ってくれ!」
「もう、何〜?しつこいなぁー」
耳をほじくりながら、面倒くさそうに俺を見てきたリーダーさん。どう考えても、俺とベビーフェイス少年との間に、待遇の差がありすぎる。
こんなの、あんまりじゃないか!
「あ、でっかい耳クソ取れた」
「おいやめろ」
嫌われてんのか俺は。
もうちっと興味を持たずとも、普通に会話してくれ。
しかし、これが就活だとすると採用する権限を握ってるのは間違いなくこのリーダーさんなのだ。
俺はなるべく人の良い笑顔を心がけて、下手に出ることにした。
「えっと、あの……何で俺入会拒否られたんですかね〜?」
「ええ………」
リーダーさんは、さらに面倒くさそうな顔をした。
あのぅー、だから、人が話しかけてる最中に耳をほじらないでいただけますかいね。
え。どんだけ嫌われてんの、俺?
あなたイケメンの前でも同じことするんですか、ええ?イケメンの前では前髪整えて、もじもじしてるんだろ、おーいふざけんな〜?
うっ、こうやって僕らは日々自信を失っていく……悲し。
「うーん。なんかキモそうだから」
「HAHA!おおぉい〜、世の中には言っちゃいけないことがあるんだぞ〜?」
確かにベビーフェイス少年と比べたら、否定できないけど!
いや、ひど過ぎるだろ、入会拒否の理由。
「あのな!こちとら、純粋にな?純粋に?古河さんの魅力を語らう仲間を求めてここ来たんだよ!分かってくれるかリーダーさん!」
「うぅーん。うーん」
悩むリーダーさん。
俺が目力をこめて、ファンクラブ入会への熱い思いをリーダーさんに届けるが、果たして届いたのだろうか。
リーダーさんはやがてパチンと手を叩くと、俺に目を合わせて頷いた。
おっ。これは、ようやく分かってくれたんじゃ………
「………ま、とりま入会は拒否っとくね♬」
「とりまで拒否るな!!」
あはははとリーダーさんは俺の抗議などまったく聞き入れてくれる様子もなく、会合へと戻って行った。
俺はそれについていこうとしたのだが……
「あっ、君はファンクラブ会員じゃないからダーメ♬」
俺の鼻の先で、ピシャリとドアは無慈悲にも閉じられてしまったのだ。
俺は床に膝をついた。
「うわー!ちくしょー!何でだよー!!」
お前ら自分たちの鉄より固い掟を忘れたんか!?
門戸開放・布教万歳のゆるゆるファンクラブだろうが───!!
*
学年のマドンナこと古河日奈子のファンクラブをとり仕切るリーダー・珠巳玲は、はあ、と息を吐いた。
「まさか、藤峰丈がくるとはねー」
古河日奈子のファンクラブにとって、要注意人物として唯一名が上がってる男である。
まさに天敵とも言える男は、自らファンクラブへの加入を希望して、自分たちのアジトに乗り込んできたのだ。
驚いた、なんてものではない。
「もう出てきていいよー、ひなさまー」
この教室の奥にある扉を開いて、珠巳はにひひと笑った。元は準備室としてある小さな部屋で、珠巳たちが居る部屋と自由に行き来できる造りなのだ。
部屋にこもっていた少女は、なかなか出てこようとしない。
珠巳は、チラリと中を覗いた。
放送部に所属している彼女は、お昼の放送用の台本を胸の前に抱え込んだまま、ぼぅーと椅子の上で行儀よく体操座りをしていた。
セミロングの黒髪に、ぱっつんと重めの前髪。
睫毛は地毛とは信じられないほどに長く、軽々と片手におさまりそうな小顔である。
そんな可愛らしい雰囲気とともに、瞼は切れ長の流し目が特徴的な和風美人であり、唯一無二の魅力を兼ね備えた、まさに学年のマドンナ、"ひなさま"である。
しかし、今のひなさまは、頰をぼぽっと紅くさせて、チョロチョロと目が小動物のようにあちこちを彷徨っており、可愛らしさと美人の両立した彼女の雰囲気は前者に傾いていた。
台本で口元を隠して、ひなさまはこっそりと呟いた。
「ジョーくん、来てた……」
何ならあの人ひなさまのファンですよー、と珠巳は言ってあげたくなったが、そこまではひなさまの脳の理解が追いついていないのだろう。
「ひなさまー」
「も、もう。それはやめて玲。普通に呼んでください……」
「じゃあ、日奈ちん」
「普通……?」
日奈子は、首を傾げた。
「藤峰くん、追い返しちゃったけど良かった?日奈ちんが接点増やしたいって言うなら、ファンクラブに入れてもいいかなとは思ったけど」
「………まず、毎度ツッコみたくなるんだけどもですね、何ゆえ私にはファンクラブが存在してるの……?」
「日奈ちん、可愛いからー」
うんうん、と他のメンバーたちも頷いた。
ファンクラブの総意である。
日奈子はというと、微妙な顔をしている。
彼女からしたら、不思議な感覚なのだろう。
「………ところで、…あの…ジョーくんもこのふぁ、ファン……?クラブ?…に来たってことは、少しでも私に興味を持ってくれてる、のかな……?」
「興味どころか、かなりのファンぽかったけどねー」
「ふぇ……そんな……恐れ多い……」
日奈子は、台本にすっかり顔を埋めて、隠してしまう。それでおさまるのだから、恐ろしいほどの小顔だ。
「ん〜、やっぱり入れた方が良かった?日奈ちん的には、やっぱり藤峰くんに自分のこと推して欲しいよねー」
「えええ……っ!」
日奈子はさらに顔を赤く染めて、その想像をしたのかぶんぶんぶんと勢いよく首を横に振った。
うぁぁん、と顔を全部台本に埋めた。
「無理無理無理!そんなの恥ずかしいです……!」
「だよねー」
そもそもこのファンクラブは、元から日奈子の友人だった珠巳が「日奈ちんめっちゃ可愛くね??」「それなー」と友人の内輪の中で話し、それに次々と賛同者が現れ、じゃあファンクラブを作ろうとなったのが、巨大化した結果である。
今じゃますますファンは増え続けているのがすごいことであり、日奈子の可愛さが学年共通だということを証明し続けている。
ファンクラブは活動場所も学校側からゲットし、日奈子自身も友人の珠巳が居るし、放送部の発声練習をしたいということで、珠巳に誘われてここによく顔を出す。
その集まりに、好きな人が参加するようになれば、日奈子にとっては気が気ではないだろう。
たまにファンクラブが「今日はジョーくんのここがカッコよかったです」という日奈子の恋バナの受け皿になってるので、その場所がなくなるのも日奈子にとっては急展開すぎてついていけないはずだ。
というか、好きな人が自分を推すって感覚が、耐えられないのだろう。想像しただけで。
「うんうんだよねー、日奈ちんがそう言うと思って入会拒否しといたから安心して♬」
ねー?とファンクラブのメンバー同士で顔を見合わせた。
うんうん、とそれぞれ熱く頷き返した。
それも嘘ではないが、まるきり真実でもない。
藤峰丈の入会を拒否った理由。
「…チッ。一目惚れとかチートだろ……」
「俺だって入学式の時、たまたまひなさまの隣の席になって緊張しない方法教えたかった……」
「入学式の時点で既にひなさまを落としてたなんて、藤峰丈め、恐ろしいヤツ……!」
「ひなさまぁ……ううっ。応援してるけど、藤峰いい人そうだけど、……!でもなんかやだ!」
「許すまじ藤峰ぇ!!」
ファンクラブの面々は、「ひなさまに好かれてる藤峰丈許さん」という普通に厄介信者かつ、そういった私情のこもった入会拒否だった。
彼らファンクラブの信条は、『門戸開放・布教万歳』ともう一つある。
『藤峰滅殺』である。
ファンクラブと藤峰丈の戦争がいずれ起きる予感。
読んでくださってありがとうございます!
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