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三途の川の審判


―――在山・無無、三途の川へ。

 二人の目の前には、霧の向こうに鎮座する巨大な影――この場所の「審判員」が控えていた。  無機質で圧倒的な威圧感を放つ存在を前にして、二人は落ち着きなく交互に審判員を伺い、あるいは不安を分かち合うように互いの顔を見合わせた。


「とうとう審判やな・・・」  

在山が、悟ったような顔で遠くを見つめた。

「お前ともココでお別れやな。今までありがとうな、無無」

「なに勝手に脳内で俺を地獄行きにしてんねん!」


 無無が、審判員に聞こえないよう声を潜めながらも鋭く突っ込んだ。

「そやさかいお前はいつも詰めが甘いねん。俺はまだ、あわよくば天国という名の『イメージ』を売り抜こうとしとるんやぞ」

「あぁ・・・」


 在山は無無の反論を聞いているのかいないのか、空腹を思い出したように腹をさすった。

「養鶏場のケイコちゃんが作ったTKG美味しかったよなあ。最後にもう一回食べたかったなあ」

「TKGは誰が作っても同じやろ! 闇売に脳やられてんな、お前」


 無無は呆れ果てて天を仰いだ。

「ケイコちゃんの卵料理はなんでも美味しかったやろ。出し巻きとか、オムレツとか。TKGは素材の味や、本人の腕関係ないわ!」


 目の前の審判員が、わずかに身じろぎした。死後の行き先が決まろうという瀬戸際で、卵かけご飯の是非を議論する二人。そのあまりの「生々しさ」が、静まり返った三途の川の空気を、どこか場違いなものに変えていた。


「おい、なんか、審判員首を傾げてないか?」  在山が不安げに審判員の様子をうかがう。その巨大な影は、深い困惑を示すようにゆっくりと頭を傾けていた。


「・・・『良い行いがなぜ1つもないのか?』」

 無無が、審判員の口から漏れた言葉を、魂の抜けたような声でオウム返しにした。

「そんなん、こっちが聞きたいわ! 24時間フル稼働で象売ろうとしてたんやぞ!」

「闇を抱えてるかで審査されるんですよね?」


 在山が、闇売から聞いた「裏ルール」を信じて、期待の眼差しを審判員に向ける。しかし、返ってきたのは、慈悲の欠片もない冷徹な沈黙だった。

「あっ、ちょっと忘れ物しちゃって・・・さーせん」


 無無は突然、愛想笑いを浮かべながら後ずさりした。そのまま踵を返し、脱兎のごとく小走りで元来た道を引き返す。在山も慌ててその背中を追った。


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