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三途の川の列


三途の川の手前には、いつの間にか列ができていた。  霧の切れ目から滲み出したような人々が、等間隔で、機械的に並んでいる。誰も喋らない。咳払いひとつ聞こえない。ただ、湿った土を踏む微かな音と、前を向いたまま動かない無数の背中だけが、静かに連なっていた。


「もうすぐやな」

 在山は、そう言いながら、ほんの少しだけ後ろを振り返った。  声はどこまでも平坦で、いつものおっとりした調子のままだった。けれど、その足は地面に吸い付いたように動かない。一歩を踏み出すたびに、泥濘ぬかるみに足を取られているような、奇妙な重みが纏わりついていた。

 列の先に何があるのか、霧に阻まれて何も見えない。  ただ、その「見えない何か」に正対してしまったら、もう二度と引き返せない。自分の人生という、あまりにも不出来な喜劇の幕が完全に下りてしまう。そんな、本能的な恐怖が背筋を伝った。

 在山の、泳ぐような視線の動きに気づいて、無無も一瞬だけ横を見た。  無無の瞳の中にも、先ほどまでの勢いはなかった。あるのは、自分が積み上げてきた「そやさかい」という理屈が、死という理不尽を前にして何一つ通用しないという絶望だった。

 次の瞬間、二人は同時に顔を見合わせた。  呼吸が重なる。    ――あかん。

 理屈ではない。詐欺師として培ってきた「やばい空気」を察知する嗅覚が、同時に警告を鳴らしていた。


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