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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

『後悔を消せる僕は、君の未来を奪っている』

作者: 慧梓
掲載日:2026/02/24

 僕と君は、後悔を消せる。


 選ばなかった選択肢の世界へ移動する力。


 やり直しじゃない。

 分岐した別の未来に、意識を移すだけ。


 そしてそのたびに、どこかで誰かの未来が削れる。


 世界は必ず、重さを揃える。


 ◇


 最初に使ったのは七歳のとき。


 母の死をなかったことにした。


 救急車は間に合い、母は助かった。


 翌日、父が事故で死んだ。


 偶然だと思いたかった。


 でも二度目で確信した。


 世界は、帳尻を合わせる。


 ◇


 中学三年。


 受験当日、僕は寝坊した。


 第一志望に落ちた。


 その学校で、君に出会った。


 笑うと目尻が少し下がる君。


 その出会いだけは、消したくなかった。


 ◇


 でも高校二年の夏。


 君が交通事故で死ぬ未来を見た。


 能力は、次の歪みを予兆として見せる。


 だから僕は世界を選び直した。


 第一志望に受かる世界へ。


 君と出会わない世界へ。


 君は助かった。


 代わりに、地方の研究施設で火災が起きた。


 五人死亡。


 僕は理解した。


 これは等価交換だ。


 君一人と、他人五人。


 ◇


 吐き気がした。


 それでも僕は繰り返した。


 最小被害の世界を探した。


 事故が起きない世界。

 火災が起きない世界。

 僕が死ぬ世界。


 パターンは三十七通り。


 三十七回、選び直した。


 そして気づく。


 帳尻が合っていない回がある。


 三十七回目。


 死者が一人、多い。


 その一人は――君だった。


 ◇


 目を開けると、病室だった。


 君が隣にいる。


「やっと気づいた?」


 君は静かに言った。


「三十七回目だよ」


 背筋が凍る。


「覚えてるのか?」


「ううん。正確にはね、私も選べるの」


 世界が、反転した。


 君も後悔を消せる。


 僕と同じ能力を持っていた。


「あなたが壊れていくのが嫌だった」


 君は言う。


「だから毎回、あなたが一番自分を犠牲にする世界に戻してた」


 研究者になる未来も、ワクチンも、世界を救う未来も。


「どうでもいいの」


 君は笑う。


「あなたが死ぬ世界なんて、選ばせない」


 ◇


 僕が君を守り、

 君が僕を守る。


 そのたびに世界は削られる。


 帳尻が合わない三十七回目。


 それは僕が初めて、

 “君より世界”を選ぼうとした回だった。


「終わらせよう」


 君が言う。


「能力を使わない世界を選ぶの」


 後悔を抱えたまま、生きる。


 誰かの未来を削らない。


 それが僕たちの、初めての利他的な選択だった。


 ◇


 目が覚める。


 見慣れた天井。


 ニュースは平和。


 事故も火災もない。


 能力の感覚は消えている。


 成功した。


 そう思った。


 ◇


 一週間後。


 国内各地で小規模事故が相次いだ。


 死者はゼロ。


 軽傷者多数。


 偶然にしては、多すぎる。


 夜、君から電話が来る。


「……感じない?」


 震える声。


「あのとき奪った未来」


 理解する。


 帳尻は即時清算じゃなかった。


 分割払いだった。


 三十七回で削った未来。


 それが今、世界中に拡散している。


 誰かの夢が少し遅れる。

 誰かの恋が終わる。

 誰かの挑戦が失敗する。


 合計すれば、きっと同じ重さ。


「私たち、まだ奪ってる」


 君が言う。


 僕は答えられない。


 能力は消えた。


 やり直せない。


 止められない。


 これが最後の帳尻。


 ◇


 それでも僕たちは手を繋ぐ。


 世界は今日も動いている。


 僕たちはもう選ばない。


 選べない。


 奪った未来の上で、生きる。


 その責任を抱えて。


 ◇


 後悔を消せる僕は、


 君の未来を奪っていた。


 そして今も、


 奪った未来の上で、


 君と生きている。


 たぶんそれが、


 本当の罰だ。

もし後悔を消せるなら、あなたは使いますか?

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