第15話「勇者、在庫を抱えて走る」
王都中央広場。
赤いマントを翻し、勇者アルドが全力疾走していた。
両腕には、大量の剣。
「在庫を! 減らす!」
背後からゴルドの叫び声が追いかける。
「勇者様ぁぁぁ! それ全部売れ残りですからぁぁぁ!」
「知っている!」
アルドは叫び返す。
広場の中央に立ち、声を張り上げる。
「本日限定! 勇者直売会!」
通行人がざわつく。
「え、勇者が?」
「なんで自分で売ってるんだ?」
アルドは一本の剣を掲げる。
「この剣は俺が監修した! 切れ味は保証する!」
「価格は!?」
「銀貨……二枚!」
ゴルドが倒れかける。
「原価割れぇぇぇ!」
そこへレオンが歩いてくる。
「在庫処分としては妥当です」
「お前のせいだろうが!」
ゴルドが指を突きつける。
アルドは必死だ。
「俺が売れば価値がつく!」
通行人の一人が剣を手に取る。
「……重いな」
「勇者仕様だ!」
「魔王領の剣のほうが軽いって聞いたけど」
アルドの肩が落ちる。
「軽さは正義ではない!」
レオンが小さくメモを取る。
《勇者=重さ象徴》
◆
同時刻、王都会議室。
価格は再び急騰していた。
「投機筋が魔王領鉱石を買い占めています!」
商人が青ざめる。
「一部商会が流通を止めています!」
エルマが嬉しそうに報告する。
「回転率が最高値更新です!」
「喜ぶな」
セレネが低く言う。
「これはバブルです」
レオンは静かに頷く。
「想定内です」
「もうその言葉は禁止にしましょう」
セレネが額を押さえる。
レオンは新たな紙を広げる。
「流通制限第二段階」
「何をする気ですか」
「人工需要創出」
「具体的に」
「王都主催・装備更新キャンペーン」
「また祭りですか」
「経済は祭りで回ります」
セレネが深く息を吐く。
「あなた、本当に総務ですか?」
「はい」
◆
中央広場。
「装備更新キャンペーン開始!」
突然の告知。
勇者が壇上に立つ。
「今こそ装備を新調し、平和を守ろう!」
ゴルドの目が輝く。
「それだ!」
エルマは帳簿を抱えて叫ぶ。
「需要爆発です!」
冒険者たちがざわめく。
「更新するか……?」
「今が安いらしいぞ!」
市場は再び熱を帯びる。
だが、レオンの視界では線が複雑に絡んでいる。
価格安定。
雇用維持。
だが過熱の兆候。
「……過剰」
小さく呟く。
セレネが横で言う。
「楽しいでしょう?」
「業務です」
「本当に?」
レオンは答えない。
広場では、勇者が剣を振り回し、ゴルドが涙を流し、冒険者が値切り、エルマが歓喜している。
戦争より騒がしい。
だが活気がある。
「合理九五%」
完全安定ではない。
だが市場は生きている。
◆
夜。
役所に戻ったレオンは、静かに帳簿を閉じる。
「価格変動、収束傾向」
窓の外では灯りが揺れている。
色ははっきりしている。
だが胸の奥に小さな違和感。
「……揺らぎ、過多」
市場は活気を取り戻した。
だがどこか、不自然に盛り上がりすぎている。
セレネが机に手を置く。
「完全安定は死。過熱は暴走」
「均衡が必要です」
「ええ」
彼女は微笑む。
「ですが、あなたが“楽しそう”なのは初めて見ました」
「誤差です」
レオンは窓の外を見る。
勇者がまだ在庫を売っている。
ゴルドが値札を書き直している。
エルマが数字を叫んでいる。
混乱だ。
だが、生きている。
合理が市場を壊し、
揺らぎが市場を燃やす。
総務は今日も、火消しと着火を同時に行う。
そして誰かが叫ぶ。
「想定外だぁぁぁ!」
レオンは小さく呟く。
「想定内です」
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