第14話「武具屋、泣く」
王都中央市場・ゴルド武具店。
店の前には「在庫一掃・大特価」の札が乱立していた。
「銀貨二枚! 二枚だぞ!? 昨日まで五枚だったんだぞ!」
ゴルドが声を張り上げる。
だが通行人は素通り。
「魔王領の剣のほうが安いし軽いらしい」
「加工精度も高いって聞いたぞ」
その会話に、ゴルドの顔色が紫に近づく。
「軽い!? 剣は重みが命だろうが!」
そこへ、静かにレオンが現れる。
「重量と品質は比例しません」
「出たな合理野郎!」
ゴルドはカウンターを叩く。
「俺はな、三代続く鍛冶屋だ! 親父も祖父も剣を打ってきた!」
「伝統価値、評価可能です」
「数字で測るな!」
レオンは店内を見回す。
壁一面に並ぶ剣。
だが埃をかぶり始めている。
「固定費が重い」
「家賃と人件費は削れねぇ!」
「では生産ラインを縮小し、限定高級路線へ」
「だからその設備投資の金がねぇ!」
ゴルドは両手で頭を抱えた。
「戦争のときは売れたんだ……戦争は儲かったんだ……」
市場が一瞬、静まる。
その言葉の重みは、軽い笑いで流せない。
だがレオンは淡々と言う。
「戦争依存型経済は持続性がありません」
「だからって急に切り替えるな!」
ゴルドの叫びに、店の奥から若い職人が顔を出す。
「親方……給料、どうなりますか」
沈黙。
レオンの視界に線が走る。
雇用維持補助金。
生産調整。
技能転換研修。
「三案提示します」
「もうやめてくれ……」
ゴルドは涙目だ。
◆
その頃、冒険者ギルドでは別の混乱が起きていた。
「依頼が減ってる!」
「魔物討伐より鉱山警備のほうが高いって何だ!」
ギルド長が机を叩く。
「若手が採掘に流れている!」
そこへエルマが現れる。
小柄で眼鏡、帳簿を抱えている。
「数字的には合理です!」
「誰だ君は!」
「共同市場経理補佐のエルマです!」
目が輝いている。
「回転率が素晴らしいです! 魔王領鉱石の流通効率は神です!」
「神は教会だ!」
レオンが後ろから入ってくる。
「彼女は数字フェチです」
「フェチ言うな!」
エルマは興奮気味に説明する。
「鉱石→加工→輸出の回転が三倍! 市場は今、奇跡的効率です!」
「だから俺らの仕事がねぇんだ!」
冒険者が叫ぶ。
レオンは冷静に答える。
「冒険者ギルドを物流警備へ転換」
「俺たちは勇者に憧れて入ったんだ!」
アルドが後ろで咳払いをする。
「……その件だが」
ギルド中の視線が勇者に集まる。
「俺も副業に失敗した」
「知ってる!」
全員が即答。
アルドは真顔で言う。
「戦うだけが勇者じゃないと、俺は選んだ」
少しだけ空気が変わる。
「だが、剣を振るう意味を消す気はない」
レオンはその言葉を記録する。
《需要:象徴的戦闘》
エルマが小声で言う。
「戦闘イベントを定期開催すれば経済回りますよ?」
「祭りかよ!」
◆
王都会議室。
価格は底を打った。
だが今度は逆方向へ動き始める。
「買い占めが起きています!」
商人が報告する。
「投機筋が参入!」
エルマの目がさらに輝く。
「市場が活性化してます!」
「それをバブルと言います」
セレネが冷静に言う。
価格が急上昇。
昨日一枚だった鉱石が、今日は四枚。
「……想定内です」
レオンが呟く。
「想定外だ!」
市場全体が叫ぶ。
ゴルドが再び怒鳴り込む。
「今度は高すぎる! 材料費が読めねぇ!」
「価格安定策、実行します」
「何する気だ」
レオンは静かに告げる。
「流通制限、補助金再設計、人工需要創出」
「それ合法か!?」
「合法です」
セレネが額を押さえる。
「あなた、楽しんでません?」
「業務です」
市場はカオスだ。
戦争は終わった。
だが今、王都は価格と在庫で殴り合っている。
レオンの視界は鮮やかだ。
だが線は絡み合っている。
合理を進めるほど、市場は暴れる。
「……揺らぎ、過多」
それでも彼はペンを走らせる。
武具屋は泣き、
冒険者は叫び、
勇者は在庫を抱え、
経理は歓喜し、
財務官はため息をつく。
戦争より騒がしい平和が、そこにあった。




