第13話「鉱石価格、三分の一」
王都中央市場。
「安すぎるだろうがぁぁぁぁ!!」
朝一番の絶叫が、市場全体に響き渡った。
原因は一つ。
魔王領産・高純度黒鉄鉱。
昨日まで銀貨三枚だったものが、本日――銀貨一枚。
しかも山積み。
「どうなってんだこれ!」
「王都産の鉱石が売れねぇ!」
商人たちが叫び、帳簿を叩く。
その中心で、冷静に数字を確認している男が一人。
レオン・クラウゼル。
「輸送効率向上により流通コスト四割削減。供給量増加三倍。価格調整は妥当です」
「妥当じゃねぇ!!」
怒鳴ったのは、筋肉質の大男。
金のネックレス、太い腕、真っ赤な顔。
「俺はゴルド・バルザック! 王都最大の武具商だ!」
「存じています。粗利率三二%、固定費過多」
「やめろ数字で殴るな!」
市場がどよめく。
ゴルドは机を叩く。
「お前が設計した共同市場のせいだ! 原価が崩壊してんだよ!」
「原価は崩壊していません。適正化です」
「俺の利益が崩壊してんだ!」
レオンは一枚の紙を差し出す。
「品質を上げ、付加価値を付ければ価格維持可能です」
「その設備投資の金がねぇ!」
「融資制度を設けました」
「借金かよ!」
「合理的です」
ゴルドは天を仰いだ。
「なんでだ……なんで戦争より商売のほうが怖ぇんだ……」
◆
同時刻、冒険者ギルド。
「素材が売れねぇ!」
「鉱石加工のほうが儲かるって何だよ!」
剣を持った冒険者たちが机を囲む。
ギルド長が頭を抱えている。
「魔物素材の価格が半減だ……」
そこへレオンが現れる。
「職業転換を推奨します」
「は?」
「採掘、加工、物流部門へ」
「俺は剣しか振れねぇ!」
「では振らなくて済む社会を作ります」
「作るな!」
冒険者が机を叩く。
「俺たちは戦うことで飯を食ってんだ!」
「戦わなくても飯が食える社会は望ましくありませんか」
静寂。
理屈は正しい。
だが、どこか違う。
「……なんかムカつく」
「感情ですか」
「感情だよ!」
レオンは手帳にメモを書く。
《市場は感情で動く》
◆
王都会議室。
セレネが腕を組んでいる。
「言いましたよね」
「何をでしょう」
「需要の“気分”を無視していると」
「気分は数値化不能です」
「だから暴落しているのです」
セレネは机を指で叩く。
「供給を最適化しすぎました」
「最適は正義です」
「市場は正義では動きません」
レオンは少し黙る。
視界に線が走る。
価格安定策。
流通制限。
補助金投入。
「追加三手で安定可能です」
「また三手ですか」
「四手だと遅い」
セレネはため息をついた。
「あなた、本当に容赦がありませんね」
「業務です」
◆
そのころ、勇者アルドは武具屋の前で腕を組んでいた。
「市場が荒れているなら、俺が盛り上げる!」
「何をするんですか」
「勇者監修・限定剣!」
ゴルドの目が輝く。
「それだ!」
数日後。
店頭に並ぶ“勇者公認剣”。
価格、通常の二倍。
三時間後。
「売れねぇぇぇぇ!」
「鉱石安いのに剣高いって何だよ!」
アルドが頭を抱える。
「なぜだ……」
レオンが通りかかる。
「価格設定が市場心理に合致していません」
「最初から言え!」
「業務外でした」
市場は今日も騒がしい。
戦争は終わった。
だが経済が戦場になっている。
レオンは空を見上げる。
色は戻りつつある。
だが、線は増えている。
「……想定内です」
その言葉に、周囲全員が叫んだ。
「想定外だ!!」
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