第12話「総務は世界を軽視しない」
和平共同声明から一週間。
王都と魔王領の交易路には、ゆっくりと荷馬車が行き交い始めていた。
完全な信頼ではない。
だが、剣ではなく契約書が交わされている。
王都の市場では魔王領産の鉱石が並び、
魔王領では王都製の加工品が売られている。
数字は、確実に上向いていた。
◆
グレイヴン役所。
「税収、前期比一五%増」
町長が報告書を読み上げる。
「戦争が起きなかっただけで、これほど違うとは……」
「想定内です」
レオンはペンを走らせる。
だが、その視界は以前と違う。
線は視える。
だが絶対ではない。
揺らぎを含んだ線。
「次の課題は?」
受付嬢が尋ねる。
「交易量増加に伴う価格変動対策」
「もう次ですか!?」
「問題は先回りするものです」
淡々とした声。
だがその瞳には、確かな色がある。
◆
そのとき、王都から急報が届く。
《魔王軍内、第二派閥の動きあり》
セレネが目を細める。
「想定より早い」
「揺らぎです」
レオンは書簡を読み、静かに息を吐く。
「完全均衡は存在しません」
「ええ」
「ですが、破綻もさせません」
線が走る。
だが今回は、一本ではない。
複数の可能性。
「最短は?」
セレネが問う。
「武力制圧」
「却下です」
「承知しています」
わずかな間。
「交渉と内部監査の併用」
「時間がかかります」
「揺らぎ許容範囲内です」
セレネが小さく笑う。
「変わりましたね」
「誤差です」
だがその誤差が、世界を保っている。
◆
夜。
レオンは丘に立つ。
グレイヴンの灯り。
遠くに見える交易路の光。
世界はまだ揺れている。
だが、色は失われていない。
「……総務を軽視すると、世界は壊れる」
小さく呟く。
それは勇者への皮肉ではない。
自分自身への戒め。
合理は必要だ。
だが合理だけでは続かない。
揺らぎを軽視すれば、世界は均質化し、物語は終わる。
セレネが隣に立つ。
「第一章、完了ですね」
「章?」
「あなたが“最短だけを選ばない”と決めた章」
レオンは空を見上げる。
星は白点ではない。
淡いが、確かな光。
「業務は続きます」
「ええ」
「世界は軽視しません」
その言葉は、以前よりも少しだけ温度を持っていた。
合理で救い、
揺らぎで守る。
総務の仕事は終わらない。
世界が続く限り、
線と色の均衡を探しながら。
次の案件が、静かに動き始めている。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




