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04話 いまだ知らぬ魔女

 巨大なタンポポが霧の町で咲いていた。タンポポの根元には植物の根に捕まり巻き込まれて身動きが取れない者たちがいた。エクスマキナの少女はナイフを持ち巨大タンポポへ向かって走っていく。

 タンポポの花は一瞬で綿毛へと変わり綿毛が飛び立っていくと綿毛からレーザーのような光線が出て少女を襲った。

「ペガサスの翼!」

 豊餅奏楽(とよもち そら)はペガサスの翼を使い少女の盾となり攻撃を弾く。

 少女はそのまま植物の根っこを切り裂き捕まっていた人々を開放していく。

 そして奏楽は翼をはためかせ空中を舞い綿毛を放つ部位よりも下の花茎の箇所を狙いペガサスの翼で切り裂いた。

 綿毛が詰まった部分が切り落とされ巨大なタンポポは崩れ落ちていく。

「任務完了。これより複数の遭難者を異世界から救出するため脱出の許可を申請――了解。これより異世界から脱出する」

 少女は右手を外して右脇に抱え、右手が外された状態の腕を真正面に構え光り輝く輪を出現させ遭難者をその輪の中へと導いた。

 奏楽も少女も連戦連勝の勢いで異世界でモンスターと戦いの日々を送っていた。


      〇


 ある城の玉座にて退屈そうに座る男性老人がいた。老人はため息をつくとつまらなそうに顎を手の甲に置く。

「転生者はまだ来ないのか?」

 ここには老人一人しかおらず誰も答える者などいるはずもないのだが、どこからか女の声がし答える。

「まだですよ。まだまだ」

 老人は再びため息を吐いた。

「一体いつになったらここにたどり着く者が訪れるのだ? 蔓延る人助けに夢中でがっついているのかみんな」

 どこからか女の声が返ってくる。

「まだですよ。まだまだ」

 老人は残念そうにうなだれる。

「魔女を倒さねば終わらぬ戦いだというのに」

 何者かわからぬ女は笑い声をあげた。

 ――フフフ、フフハハハハハ。


       〇


 現実世界に戻ってきた奏楽は警察官の大島輝幸(おおしま てるゆき)警部と佐々木和則(ささき かずのり)警部補と焼き肉を食べに来ていた。カルビやタン塩を焼き、奏楽は日々の働きを労ってもらっていたのだ。成人男性三人なのでもちろん飲み物はビールだ。

 奏楽としては少しもの足りなかった。なぜなら転生者として生まれ変わって力を得たのにも関わらず任務を終えたらすぐに現実世界に帰ってくる日々を送っている。

 できることなら異世界で仲間を作って旅をしたいと思っている。あっちで仲間になった大木吉塚という剣士にもまた会いたい。

 大島警部に異世界長期滞在について尋ねると「それはいかんなあ」と言ってくる。

「長期滞在は危険が高い。いつどこで何に狙われるか分からない。リスクが高い」

 言いたいことは分かるが元々異世界に住んでいる人たちだっているのだからそんなことまで考えなくともよいと思ってしまう。それに転生者はそのまま異世界に住み着くのが当たり前である。いわば奏楽に対する警察の過保護である。というよりも働き手を失いたくないということなのだろう。

 異世界で活動できるエクスマキナの少女も永久的に活動できるわけじゃない。活動するためにはエネルギーが必要でエネルギーが尽きると眠るようにスリープモードに切り替わってしまう。

 奏楽は網の上で焼かれるカルビをひっくり返すと、両手を組んでまっすぐ頭の上まで伸ばしストレッチする。

「冒険してみたい異世界で」

 やはり返答は駄目とのこと。


      〇


 焼き肉の帰り道、ふと耳鳴りを感じ耳鳴りの音が大きくなる方向へ足を進めた。

「まさかな……」

 女の笑い声が聞こえてくる。

 ――フフフ、フハハハハ。

 間違いなく異世界の扉が開いているようである。

 歩みを進めるごとに霧が出てきて濃くなってくる。歩みながら奏楽は思った。この女の笑い声は一体何者なのか。一体どこから誰がこの声を出しているのか。

 濃い霧が急に晴れてきた。するとどこかの謁見の間に立っており、目の前には玉座に座った男性老人がいた。

「あなたは、誰なんだ?」

 男性老人は「そうきたか」と一人呟き答える。

「私は魔王をしている者だ」

 奏楽の眉間に皺が寄り「魔王」と一人呟く。するとどこからか女の笑い声が聞こえてきた。

 ――フフフ、フフフフフフフ。

「ここはどこだ?」

 老人は手の甲に顎を当てながら答える。

「ここは魔王城。私の城だ」


      〇


 なぜ魔王の城に来てしまったのか。異世界遭難から魔王の城へ出るなど前代未聞だ。

「あなたは魔王というが、魔王とは何をしているのだ?」

 老人は「簡単に言うと」と言い続ける。

「魔王は魔族の統領である」

「じゃあお願いがあるんだが」

 ここで魔王に会えたのは願ったり叶ったりかもしれない。ここでモンスターが人を襲うのを止めてもらうのだ。

「モンスターが人を襲うのをやめさせてほしいんだ」

 魔王は深くため息をついた。

「それはできない」

「なぜ? 魔族の統領でしょ?」

 できない理由として魔族の統領であろうと魔族を操っているのは魔王ではないからだ。

「魔族、君体が言うモンスターは皆自分の意思で動いている。命令して襲ってくるものではない。いるとしたらそれは魔女だな。魔女は操るのが得意だ。君をここに連れてきたのも間違いなく魔女の仕業になる。霧が出ていただろ? あれは召喚魔術みたいなものなのさ。悪戯さね」

魔女はいつでもどこからでも見ていて、異世界へ遭難する者の発生も遭難した先にモンスターが待ち受けているのも魔女の仕業らしいのだ。

 つまりは魔女を倒さない限りこの負の連鎖は続く。


       〇


 魔王の城から出る際、奇妙な女の声がどこからか聞こえてきた。

「まだですよ。まだまだ」

 そして嘲るように笑うのだった。

 ――フフフ、フフフフフ。

「なんだ? この声、まるで異世界に遭難する時に聞こえる笑い声のような」

 どこから来ているのか分からない正体不明の女の声。

 奏楽は不気味さを覚えながらも考え込む。いったい「まだ」とはどういう意味なのだろうか。そしてこの声の正体はなんなのだろう。

 魔王城から出てきた奏楽は不気味なモンスターの群れと鉢合ってしまう。だが攻撃する様子もなくただじっとしている。仮面をかぶった裸の大男やら肩に針を無数に刺している女やら魔族と思われるメンツが揃っている。

 魔王の城なのだからそんな者たちが城の周辺にいてもおかしくはないだろう。

「それにしてもだ……」

 魔王の「魔女共」という言葉からすると魔女は一人じゃないのだろう。

 一体魔女はどこにいて元の世界と異世界を繋ぐ悪戯をしているのだろうか。なぜ人を誘拐するような真似をするのか。

「ペガサスの翼!」

 白き翼を生やし飛翔する奏楽。空高くから見る景色には魔王城がそびえ立っているのが確認できる。その周りには数あまたのモンスターの群れ。

 ここはどうやら人気のない場所のようで人が住む町がある様子はない。

「魔王の城の近くに町があるわけがないか」

 そのまま適当な進路を決め羽ばたいていく。どこに向かっているかも自分にも分からない。どうすれば魔女という者に出会えるか分からないが、今はどこかへ行くしかなかった。


      〇


 冒険者大木吉塚(おおき よしつか)はクエストを受け、飛竜を狩る依頼のため山道を歩いていた。相変わらず一人で行動しているようだ。

 突如上空で飛竜が飛びその様子を地上から眺めるもなにやら少々不満そうだ。

「……降りてこないと狩れないんだよこっちは」

 どうやら飛竜が飛んでいることで狩ることができずイライラしているようだ。

 いっそ狙われてみるのもよいかもしれないとドラゴンを呼ぶ笛を取り出す。

 吹込口から思いっきり空気を送り込み音を鳴らす。

 ――ブオオオオオオオオオオオオ。

 飛竜が吉塚に気付き上空から一気に急接近してくる。

「よし、やってやろうじゃないの」

 剣を構え、接近に備える吉塚。こんな緊急時にふと背後が気になる。

 ……なんなんだこんな時に。

 何かが後ろにいる。そして女の声が聞こえてくる。

「この人、いいかも」

「なんだ誰だ? こっちはドラゴンを呼ぶ笛を使っている! 危険だぞ! 離れろ!」

 吉塚は後ろを振り向くとそこには誰もいない。まさか幻聴かと思い込んでしまう。

 飛竜が接近してきている。そんな危険な状況で幻聴のことなどを考えている場合ではない。

「――今身体の耐久値を上げよ、エクスタフネス! ――今身体のスピードを上げよ、スピードソルジャー! ――今我が剣の威力を上げよ、スラッシュナイフ!」

 詠唱を終えできる限りの肉体剣術強化を行った。そして真正面まで降りてきた飛竜目掛けて剣を一振り。

「切るっ!」

 飛竜は頭から腹までまっすぐに裂かれそのまま倒れこんで転がっていく。

「いっちょあがり!」

 吉塚はプロの冒険者として無事依頼を達成したのであった。


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