第七話 お茶とお菓子と作戦会議
「作戦会議、開始っと!」
神崎が勢いよく机を叩いた。
修道院の一室、いつもの部室。
机の上には、謎に用意されたノートとお菓子と紅茶。
……いや、半分ピクニックじゃねぇか。
「で、まず何から話すんだ?」
魔宮が尋ねると、神崎はドヤ顔で腕を組んだ。
「もちろん、“修道院の夜鳴き声”事件についてよ!」
テンション高ぇなこの人。
「そもそもさ」俺は腕を組む。「最近この修道院使ってんの、俺たちだけだろ?
ってことは、声の正体、俺たち自身……って線もあるんじゃね?」
「え?」綾瀬が首をかしげる。
彼女――綾瀬澪奈は、きっちりシスター服を着こなしたまま、静かに言葉を返した。
「その線は……ないと思います。
この“声”の噂、私が初めて聞いたのは半年前ですから。」
「半年前?」
神崎と俺が同時に顔を見合わせる。
「はい。誰も使わなくなったあとも、時々“声を聞いた”って報告があったんです。
それで、みんな気味悪がって掃除も行われなくなって……。
だから、できるだけ早く原因を突き止めたいんです。」
澪奈の瞳は真剣だった。
……なるほど、聖心部の活動にぴったりっちゃぴったりかもな。
「それで、声の聞こえる場所は?」神崎が尋ねる。
「この部屋は修道院の左側に位置してますよね。
噂だと、右側の通路――使われてない教室のあたりから声がするって。」
「右側か……確かにあっちは暗ぇし、通ったこともねぇな」
そう言っているうちに、いつの間にか神崎と綾瀬は並んでお茶を飲みながら、楽しそうに話していた。
「へぇ~澪奈ちゃんって意外と話しやすいじゃん!」
「神崎さんも、思ってたより優しい方で……」
……おいおい。
さっきまでピリピリしてたのに、もう“ガールズトーク”かよ。
神崎、完全に心開いてるじゃねぇか。
俺は内心でため息をついた。
(ま、女子同士の会話に割り込むのは野暮ってもんだ)
「じゃあさ、俺、他のシスターにこの噂のこと聞いてみるよ」
「え、魔宮くんが?」
綾瀬が少し驚いたように見上げる。
「情報は多い方がいいだろ? 俺、聞き込み担当ってことで」
「お、いいじゃん。“聖人心部調査隊”って感じで!」
神崎が笑って親指を立てる。
――そんな軽口を背に、俺は立ち上がった。
古びた廊下の向こうに続く修道院。
昼間の光が、ステンドグラスを通して赤や青に揺れている。
(夜になる前に、手がかり見つけねぇとな……)
静かな廊下を歩きながら、俺の“聞き込み調査”が始まった。




