第十五章
中間テストも終わり、季節は完全に夏モード。
部屋の中には、じっとりとした蒸し暑さが漂っていた。
俺――魔宮辰巳は、扇風機の前でゴロゴロしながらため息をつく。
「……暑すぎる。もう動きたくねぇ……」
騒がしかった学校生活もしばらくは休憩だ。
ようやく、静かな時間が戻ってくる――はずだった。
「辰巳、学校生活はどうだい?」
ふいに、背後から魔宮正義こと、じいちゃんの声が飛んでくる。
「んー、まあまあ楽しいよ。今は“聖心部”って部活で、人助けとかしてる」
その瞬間――親父の目がギラッと光った。
「貴様……まさか“キリストの道”に染まったんじゃあるまいなッ!」
「親父! 落ち着いてください! 辰巳坊っちゃんはまだ仏門の血が流れております!」
若頭がすかさず親父を羽交い締めにする。
「ち、違うって! ただ普通に、人助けしてるだけだよ!」
「“普通に”って言葉ほど信用ならん!」
「いやほんとに! 別に十字架に祈ったりしてねーし!」
「……ほんとか? お前、“アーメン”とか言い出したら勘当だぞ」
「言わねぇよ!!」
ようやく落ち着いた親父は、ふぅと煙を吐きながら言った。 「いいか、辰巳。信仰なんざどうでもいい。宗派が違おうと、考え方が違おうと関係ねぇ。困ってる奴、泣いてる奴がいたら助けろ。どんなにボロボロでも、最後まで手を伸ばせ――それが、魔宮家の流儀だ。」
「はーい」
魔宮は素直に返事をした。親父が昔から口酸っぱく言い続けてきたこの言葉は、もう完璧に頭に染み付いている。
扇風機の風を顔に当て、ひと息ついたそのとき――スマホが震えた。
画面を覗くと、神崎からのメールだった。件名が目に入る。
「緊急!みんなでワイワイせよ~♪」
嫌な予感がした魔宮は、そっとスマホを閉じた。
するとすぐに、次のメール通知が鳴る。今度は黒崎からだった。件名を見て、魔宮は思わず眉をひそめた。
「運命の糸は、我らに試練を課す――」
厨二病全開のその件名に、魔宮は小さく息を吐いた。
「……やっぱり来たか、黒崎のヤツ。」好奇心には勝てず、魔宮は画面をタップしてメールを開いた。
――そこに書かれていたのは、意味深な文面だった。
「孤影の館にて、我ら聖心部の力を試す時が来たり。
己が信念を貫き、迷える魂を導け――ただし、道は平穏ならず。
準備せよ、試練の幕開けを。」
「……こいつ、何を言ってやがるんだ?」魔宮が眉をひそめてスルーした瞬間、スマホが再び震えた。
今度は天城先生からだった。件名は至ってシンプル――「聖心部・夏合宿の案内」。
本文を開くと、文字の端々に先生らしい熱量が滲んでいた。
「夏休みになると生徒たちの喧嘩事件が年々増えておりましてね……。
魔宮くんが喧嘩で人を殺してしまうんじゃないかと考えると、夜も眠れません!
ですから……魔宮くん、夏合宿、来ますよね?ね!?絶対ですよ、絶対!」
魔宮は思わず画面を押さえ、ため息をついた。
「……なんで俺ばっかり対象になるんだよ……」
ため息をつきながらスマホを置こうとしたその瞬間、さらに新着メールが届いた。
画面には――綾瀬からだった。件名は柔らかくて、少しはにかんだ雰囲気だ。件名「夏合宿、魔宮くん来るよね?」
魔宮くん……夏合宿、やっぱり来てくれるよね?
みんなで一緒に過ごせたら嬉しいな、って思って……
魔宮は思わず唇を緩め、画面を見つめる。
スマホを放り出し、魔宮は床にゴロリと寝転がった。
「あーあ……今年の夏は、忙しくなりそうだなぁ!」
扇風機の風が顔をかすめ、じっとりとした夏の空気が部屋に漂う。




