表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/17

第十四話

聖桜学園の廊下は、やたらと長い。

一歩間違えると、ラスボスでも出てきそうなダンジョンみたいだ。


そんな廊下を――俺、魔宮辰巳は包帯ぐるぐるの頭で歩いていた。

……そう、先日ヤンキーにどつかれたせいで、見事に負傷中である。


当然、注目の的だ。


「魔宮くん、喧嘩したの!?」

「最近おとなしかったのに~、見直してたのに~!」

「やっぱ“喧嘩番長”の称号は返上できなかったか……」


――そんな称号、いつの間に授与されたんだよ。


そのとき。


「おはよー、魔宮ーっ! 今日のテスト自信ある?」


ドンッ! 背中に衝撃。

反射的に振り向くと、そこには満面の笑みを浮かべた神崎がいた。


「いってぇ……神崎、おまえな……! 頭ケガしてんの見えねぇのか!?」

「えっ、あ、ごめん! でも生きてるなら元気ってことでしょ!」

「いや論理おかしいだろ!」


神崎は悪びれもせずに笑いながら、俺の包帯をじーっと見つめてくる。

「……それ、巻き方ダサくない?」

「黙れ。命の勲章だ。」

「うわー出た、厨二病。黒崎だけで十分だよ。」


ため息をつきながら教室へ入るとすでに綾瀬、黒崎がそれぞれ机に向かっていた。

妙に真剣な顔で勉強している。


「何その集中力……」

俺がつぶやくと、黒崎が顔も上げずに言った。

「今日、中間テストだろ。それに――“なんでも券”チャンスだ。」


「……ああ、あれか。好きなお願い一つ聞いてもらえるやつ。」

「そう、それ。」


神崎がニヤッと笑う。

「ふふふ、優勝したら魔宮に“シスター服で謝罪”とか命じちゃおうかなぁ~」

「やめろ、罰ゲームが過ぎる!」


そのとき、教室のドアが開いた。


「おはよー。はい注目~! 今日はいよいよテストだぞ~!」


担任の天城先生が、いつも通りのテンションで入ってくる。

だが俺の頭を見ると、二度見したあと――なぜかスルー。

まあ、そこは触れない優しさだろう。


教室の空気は、どこかピリッとしていた。

クラスメイトが一斉に席に着き、ペンの音やページをめくる音だけが響く。


俺は包帯の上から頭を軽く押さえ、深呼吸。

「よし……集中、集中だ。」


神崎は前の席で机に突っ伏しな


たがら、鉛筆をカチカチと鳴らしている。

綾瀬は真剣そのもので、ノートをギッシリと埋めていた。

黒崎は少し前のめりで、無言で問題を解いている――その頬には、まだ涙の跡がうっすら残っていた。


「……あいつら、何にそんなに真剣になってるんだ?」


試験開始のチャイムが鳴る。

「はい、スタート!」

天城先生の声に合わせて、教室が一気に静まり返る。


ページをめくる音。ペン先の走る音。

それだけで、異様な緊張感が生まれる。


俺は問題用紙を見下ろした。

「……まずは基本からか……」


頭の包帯が少しズキズキする。

だが集中を切らさず、ペンを走らせる。


そのとき、後ろから小さな笑い声が聞こえた。

「ふふっ……この問題、天城先生やるじゃん」


思わず横目で見ると、神崎が眉間にしわを寄せながらも楽しそうにノートを見ていた。

――ったく、こいつはどんな時でもマイペースだ。


やがて天城先生が声を上げた。

「終了ーっ!」


教室中が一斉に息をつく。


「ふぅ……」

俺は背もたれに体を預け、ぼんやり天井を見上げた。


「魔宮、どうだった?」

神崎歩いて話しかけてきた。


「あー……頭が痛くて、あんま集中できなかったわ。」

「そっかー。でも、元気そうで何より!」


……うん、元気ってのは、こういう意味じゃねぇ。テストが終わり、俺たちはいつものように部室へ集まっていた。

窓の外は夕焼け色で、修道院の古い壁にオレンジの光が差し込んでいる。


「ふあ~、終わった終わった~!」

神崎がソファにダイブしながら叫ぶ。

「もう一生勉強したくな~い!」


「お前、毎回それ言ってるけど一週間後にまた言うだろ」

「うっ……否定できないのが悔しい」


綾瀬はそんなやり取りをよそに、静かに紅茶を注いでいた。

「でも、なんだかんだで今回はちゃんと頑張ったよね」

「そうそう、なんでも券かかってるしな」


俺がそう言うと、ちょうどドアが開いた。


「おーい、お前ら~! 今回はよく頑張ったな!」


顧問の天城先生が、成績表の束を片手に入ってくる。

白衣のポケットには、なぜかチョコバー。いつも通りだ。


「お互いの苦手教科を補い合って、なんとか全員赤点回避! いや~、青春してるなぁ~!」

「先生、それ完全に部活のノリですよね」

「だって“聖心部”だろ? 心を助け合うのがモットーだ!」


そう言って天城先生はニヤリと笑い、成績表を手に取る。

「じゃあ――結果発表、いっちゃおうか!」


神崎が身を乗り出す。


「出た、恒例のドラムロールタイム!」

黒崎が机を指でトントン叩きながら、「ドゥルルルルル……」と口でリズムを刻む。


天城先生がわざとらしく間を置いた。


「まずは……ビリから!」


部室に一瞬、緊張が走る。

天城先生が紙をめくり、ニヤッと笑う。


「――魔宮辰巳!」

 


「……ま、赤点じゃないだけ奇跡かな」


「全体的に点数は伸びてる健闘した、拍手!」「パチパチパチ~」

神崎が拍手しながら、にやけ顔で言った。

「いや~、“喧嘩番長”が“勉強番長”にはなれなかったか~」

「黙れ。包帯つけながらテスト受けたハンデ考慮しろ!」天城先生が笑いながら次の紙を見る。

「じゃあ続いて……三位、神崎!」


「は? ウチ三位!? マジ~!?」

神崎が立ち上がって、思わず頭を抱える。

「え、でも今回ガチで頑張ったんだけど!?」


「そう言って、寝落ちしてた日あったじゃん」

黒崎が冷静にツッコむ。


「うるさ~い! 夜の二時までは頑張ってたし!」

綾瀬がくすりと笑う。

「でも惜しいな~。あとちょっとで二位だったのに」

「うぅ~、ギリ負けるのいっちばん悔しいやつ~!」

神崎はソファにダイブして、クッションを抱きしめた。天城先生がわざと声を張る。

「では残るは――クラスの優等生、黒崎! そしてそれに挑む綾瀬!」


「ふっ、勝負の結果なんて見えてる」

黒崎は髪をかき上げ、静かに腕を組む。

「今回は満点を狙った」


「そう言って、前回ケアレスミスしてたじゃん」

綾瀬が紅茶を口にしながら、涼しい顔で返す。


「……あれは事故だ」

「はいはい、理系男子あるある~」

神崎がソファで転がりながら茶化す。


天城先生はわざとらしく二人の成績表を見比べ、ニヤリ。

「僅差だな……まさかここまで接戦とは!」


部室の空気が一瞬だけ張り詰める。

神崎が息をのむ。俺も思わず身を乗り出した。「勝者は――綾瀬!最高得点の98点だ!「やったぁ!」

綾瀬が立ち上がって手を叩く。

黒崎は小さくため息をつき、天井を仰いだ。

「……文系、強し」

「黒崎くん、次は一緒に勉強しよう?」

「……善処する」


「はいはい、それじゃ今回の“なんでも券”は綾瀬の勝ち~!」

神崎が叫ぶと、部室に笑い声が広がる。天城先生は満足げにうなずいた。

「うんうん、青春ってやつだな。それじゃ私は職員会議があるから、仲良くするんだぞ~」


白衣を翻し、天城先生は部室を出ていった。

ドアが閉まる音がして、静寂のあと――


「で、綾瀬ちゃん!」

神崎がすかさず身を乗り出す。

「“なんでも券”、何に使うの~? やっぱ告白とか!?」


「ちょ、ちょっと神崎さん!」

綾瀬はあわてて笑いながら手を振った。

「そんな使い方しないってば~」


「え~? 怪しい~!」

神崎がニヤニヤとからかう。


その横で、黒崎が紅茶を口にしながら静かに言った。


「……“願いの書”をどう使うかは、その者の魂次第だ。」

黒崎が紅茶を口にしながらつぶやく。


「出た、黒崎の中二ワード!」

神崎がすかさず突っ込む。


「ち、違うわ! 比喩よ、比喩!」

黒崎は頬を染めてむくれながらも、カップを置いた。

「……綾瀬なら、変なことには使わないと思っただけ。」


「そっか、黒崎さんなりの信頼ってやつだね」

綾瀬がくすっと笑うと、黒崎は少しだけ視線をそらした。

「……別に、そういうつもりじゃないけど。」



笑い声が広がる。

その音の中で、ふと綾瀬の笑う顔が病室の光景と重なった。


――“魔宮くんに使う”


冗談とも本気ともつかないあの言葉。

もし本当に使うとしたら、なぜ俺なんかに――。

そんな考えが胸を掠める。


窓の外では、暮れゆく空が少しだけ滲んで見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ