第十三話
まぶしい光が差し込んでいた。
微かに目を開けると、白い天井――病院の天井だった。
(……生きてる、のか)
ぼんやりとした意識の中で、誰かの泣き声が聞こえた気がした。
……綾瀬の声だ。
けれど、体は動かない。
確か最後は――
「やめなさい!」という警官の声がして、
あの不良たちが逃げて……。
(なんとか、助かったのか……)
安心した途端、意識がまた沈んでいった。
そして――
浮かんできたのは、懐かしい“あの日”の記憶だった。
⸻
夕方の公園。
西日が差し込む中、小学生の俺は上級生に囲まれていた。
「おまえら、一人相手に恥ずかしくねーのか!」
強がって叫ぶが、足は震えていた。
「年下のくせに生意気なんだよ!」
リーダー格のやつが、唾を飛ばして怒鳴る。
そのとき――
人混みをかき分けて、小さな女の子が駆け込んできた。
泥だらけの靴。小さな体。
俺の前に立ち、両手を広げる。
「もうやめて!誰かがケガしたら、悲しいでしょ!」
その声に、空気が止まった。
蝉の鳴き声だけが、夕暮れの中に響く。
上級生たちは気まずそうに顔を見合わせ、
「チッ、くだらねぇ」
と吐き捨てて去っていった。
残されたのは俺と――
夕日の逆光で、顔がよく見えない女の子。
その日を境に、俺たちはよく一緒に遊ぶようになった。
「将来、俺のお嫁さんになってくれ!」
「……いいよ!」
照れくさそうに笑った彼女の顔を、今も思い出そうとする。
だが――どうしても、思い出せない。
ただ、あのとき夕日に照らされた眩しい横顔だけが、
今も記憶の中で光っている。
(また、会いたい)
そう願った瞬間、現実の光がまぶしく差し込んだ。
意識が徐々に浮かび上がる。
まぶたを開けると、見慣れない白い天井。
病院の匂い。機械の電子音が一定のリズムで鳴っている。
「……ここ……どこだ……」
体を少し動かそうとした瞬間――
ズキン、と頭に痛みが走った。
「いってぇ……」
思わず額に手をやると、包帯がぐるぐる巻かれていた。
(マジかよ……ホントにやられたのか、俺……)
――ガチャリ。
病室のドアが勢いよく開く。
「魔宮くんっ! 大丈夫!?」
制服姿のまま、肩で息をしながら綾瀬が駆け込んでくる。
「よかった……! 本当に、よかった……!」
ベッドの横に駆け寄った綾瀬の目には、涙が滲んでいた。
その顔を見た瞬間、胸の奥がじんと熱くなる。そのとき、もう一度ドアが開いた。
「まったく……もう心配させないでよね!」
神崎が呆れたように腕を組みながら入ってくる。
「あなたがいなかったら、聖心部どうなるのよ!」
さらに後ろから、ひょこりと黒崎が顔を出した。
その目は赤く腫れていて、頬には涙の跡が残っていた。
「お、おまえ……泣いてんのか?」
そう言うと、黒崎はぷいっと顔をそむけ、
涙声を必死に隠すように叫んだ。
「う、うるさいっ! 泣いてねーし!
ちょっと目にゴミ入っただけだし!」
「はいはい、ホコリのせいね」
神崎が笑うと、黒崎は真っ赤な顔でさらにむくれた。
その様子に綾瀬がくすっと笑い、
つられてみんなも笑った。
その優しい笑い声に、
病室の空気が少しだけ温かくなった。
「じゃあ、私たち帰るよー」
神崎が伸びをしながら言った。
「あ、そういえば――」と魔宮が口を開くが、
神崎は手をひらひら振って遮った。
「わたしたち、外にいるから」
黒崎と一緒に軽く手を振って、二人は病室を出ていった。「あの時の質問なんだけど綾瀬
“なんでも券”、もし使うとしたら誰に使うんだ?」
「えっ?」
綾瀬は目をぱちくりさせ、それから腕を組み、片手で顎を触りながら考え込む。
「魔宮くん、かな!」
「……っ」
不意を突かれて、胸の奥がドキッと鳴る。
綾瀬はドアの前まで歩くと、振り返って笑った。
「冗談だよ!」
軽やかに手を振り、ドアの向こうへ消えていった。




