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第十一話 雨とタロットと放課後の教室

黒崎が持ち込んだ謎のカードを机いっぱいに並べ、神崎がそれを真顔で眺めている。

「……これ、本当に占いなの?」

「当然。我が闇の力をもってすれば運勢など――」

「じゃあこの“死神”ってカード、どういう意味?」

「……今日は気をつけろ」

「やめてよ!」


綾瀬が笑いながらその様子を見守っている。

窓の外は、薄い雲に覆われた空。

雨が降りそうで降らない――梅雨らしい、湿った午後だった。


俺はプリントをまとめながら、ため息をひとつついた。

「……お前ら、そろそろ真面目に活動しろよ」

「えー、ちゃんと部活してるじゃん」

「どんな部活だよ、それ」


黒崎の笑い声と神崎の小さな抗議が重なって、

部室の中はいつも通りの喧騒に包まれていた。廊下から、コツ、コツ、とヒールの音が近づいてくる。

この独特の足音に、全員の動きがぴたりと止まった。


次の瞬間、ドアが開く。

「おーい、お疲れ。ちゃんと活動してるか?」


入ってきたのは、俺たち聖心部の顧問・天城先生だった。

白のブラウスにタイトスカート。落ち着いた雰囲気なのに、どこか抜けている――そんな先生だ。


「か、活動……ですか? も、もちろんしてますとも!」

黒崎が慌ててカードを裏返し、神崎が何事もなかったように頷く。


「ああ、黒崎、お前も入ったのかよ。心強いぞ」


天城先生が言いながら黒崎をちらりと見た。


俺は思わず首をかしげる。

「え? 先生、黒崎のこと知ってるんですか?」


「そりゃそうよ。うちのクラスの生徒だもの」


「ええっ!?」

三人の声が見事にハモった。


「黒崎、先生と同じクラスなの!?」

神崎が身を乗り出すと、天城先生は楽しげに笑う。


「そうよ。しかもね――黒崎は、うちのクラスで一番頭がいい優等生だぞ」


「えぇぇぇーーっ!?」

部室の空気が一瞬止まった。


黒崎は顔を真っ赤にして、机のカードをいじりながらそっぽを向く。

「や、やめろ……その“表の顔”の話は今はするな……」


神崎はニヤリと笑った。

「ははーん……なるほどねぇ?」


俺もすぐに察した。

――どうやら、黒崎は“表では真面目、裏では厨二病”らしい。

こんな騒がしい奴がクラスで静かなの、気づくわけがない。


天城先生は苦笑しながら腕を組む。

「さてと、そんな優等生も含めて……ちょうどいいわね」


「ちょうどいいって?」

綾瀬が首をかしげる。


「もうすぐ中間テストでしょ。お前たち四人――協力して、赤点回避しなさい、四人の去年の成績を見たけどね……バランスは悪くないのよ」

先生は手元のプリントをめくりながら言った。

「まず、綾瀬――国語は得意だけど、数学が壊滅的」

「うっ……」

「魔宮、お前は数学ができるけど英語ができない」

「うるせぇ……」

「神崎、英語はできるけどお前は……ミニテストでいつも国語が赤点ギリギリだな」

「そ、それは運が悪かっただけですっ!」

「黒崎は……まぁ言うまでもないわね」

「当然だ、我が知識は闇より深――」

「はいはい、はいストップ」

と言いながら、天城先生は腕を組みながら、にやりと口角を上げた。

「ま、でもお前らのことだ。どうせ“やる気出ねぇ~”とか言うんでしょ?」


「……図星です」

魔宮が即答する。


「よし、じゃあこうしよう。――一教科で一番点数が高かったやつには、特別ボーナスをあげる」


「ボーナス?」

神崎が首をかしげる。


天城先生は人差し指を立て、いたずらっぽく微笑んだ。

「“なんでも言うこと聞く権”を授けようじゃない」


「な、なんでもって……」

綾瀬が一瞬で顔を赤くする。


「おいおい、そんな反応すんなよ」

魔宮は思わずツッコミを入れる。


その横で、黒崎は腕を組み、目を細めながらぶつぶつと呟いていた。

「……この勝負、私が勝ち、この部における覇権を手に入れる。そしてまずは神崎、お前からだ……ふ、ふははは……!」


「ちょっ、ちょっと待って天ちゃん!」

神崎が慌てて立ち上がる。

「このゲーム、黒崎が参加したら絶対勝てないじゃん! あの人ガチ優等生だよ!? 私たち赤点回避する前に心折れるって!」


天城先生は肩をすくめた。

「そこは努力と友情でなんとかしなさい。青春ってそういうもんでしょ?」


「努力と友情で赤点回避できたら苦労しねぇよ!」

魔宮の突っ込みに、綾瀬がくすっと笑う。


黒崎は得意げに髪を払って言った。

「ふ……敗北を恐れる者に勝利の女神は微笑まないのだ、神崎よ」


「いや、どの口が言ってんのよ!?」

神崎の悲鳴が響き、またしても部室は笑い声に包まれた。「――というわけで、テストまであと一週間。赤点取ったら、もちろん補習ね。放課後、ここを自習部屋として開放してあげるから、仲良く使いなさい」


「仲良くって……」

神崎が黒崎を見る。

「ぜったい仲良くできない気しかしないんだけど」


「ふっ、それはお前の心が未熟だからだ」

「うるさいっ!」


窓の外では、ポツリと雨粒が落ちはじめていた。

梅雨の気配と、テスト前のざわめきだろう。

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