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#02 凄絶な調和平均とか

 





 キリスト紀元(西暦)1571年11月6日






 ヴェネツィア本島は大きな魚のような形をしており、本島全体が小さな島々からできている。

 その真ん中を全長約3kmにおよぶ逆S字形のカナル・グランデ(大運河)がヴェネツィアの北西から南東へ市街を2つに分けながら湾曲して流れる。

 そして土手を走る馬車道が島々と本土を結び、ラグーナの外側の長い砂州や海岸の防波堤がこの町を海から守っている。


 150をこえる運河が177の島々を分け、運河には400にもおよぶ橋がかかる。また市街地と南端のジュデッカ島の間には幅約400mのジュデッカ運河がある。

 地上では迷路のように狭くて曲がりくねった路地や通りに馬車はおろか馬も入れず、橋もすべて歩行者専用となっている。


 よって距離を稼がなければならない移動は専ら船が使用された。

 この小型の移動手段船舶をゴンドラといい日に8~10,000台ものゴンドラが迷路のようなヴェネツィアの狭い運河を行き来していた。


 ヴェネツィアの人々は水と共に暮らし船と共にあった。

 これが水の都であり、最も高貴なる共和国市のすべてであり全貌である。


「通れ。滞在許可は与えるが問題を起こさせるなよ」

「はい」


 天彦が感慨に耽っている間にも入国審査は淡々と行われ、実は最難関ポイントと思われた首都ヴェネツィアの入国審査は呆気ないほどスムーズに進んだ。


「え。これで、ええのんか」

「……はい」


 裏を返せばアイモーネ=マリピエロの名は彼が思うほど知られていないことを意味していた。

 むろん貴種界隈にはその限りではないのだろうが、少なくとも城を枕に討ち死にする覚悟を決めるほどの家名ではないと天彦には感じられた。


 けれどそれを指摘するにはあまりに忍びないため、天彦はそっと自分の心の内にとどめ置き、騎乗していた馬をヴェネツィア軍部に格安で払い下げたことと些少だが袖の下を握らせたこととが功を奏したのだと言って、場の妙な雰囲気の一蹴に一役買ってみたのだが……。


「ふーん。なんやマリピエロ家、いま一つ認知されておりせんね」

「この程度の名に命を張るとは甚だ愚か。愚の骨頂なり」

「無名より悪名が勝るとは、殿のありがたいお言葉であった。マリピエロ殿、覚え置くがよい」



 やめたれ。



 だがアイモーネを揶揄するのは雪之丞、是知、佐吉ばかりではない。


「よかったではありませんか。最大の懸念材料が杞憂に終わって。ふっ」


 ソフィア嬢が冷笑交じりに社交辞令の言葉で繋ぐと、


「なあメガテン、あいつ今どんな顔で先頭歩あるってるんだろ」

「馬鹿だからきっと昼食のメニューでも考えてるんじゃん」

「そこまで木偶じゃないだろさすがに。きっとハイライト消えてると思うんだ」

「ないない。彼は人生の主役ぶった雑魚だよ」


 もっとやめたれ。


 クルルとメガテンが日常会話風を装い辛辣にとどめを刺した。

 いや違う。正しくは、


「ご主人、外野の雑音に耳を貸す必要など一切ございません」

「ニコ……!」

「だってすべて当たり前の事実なのですから。ニコはずっと前から存じておりましたし、終始その感情にございます」

「ぐはっ」


 まさかの身内にとどめを刺されていた。とか。


 そうこうわちゃわちゃしているうちにアイモーネ家に辿り着いた。

 ヴェネツィア市内は原則船を除く徒歩以外での移動は制限されていて、馬に乗れるのは貴族に限られた。

 こんなところも極めて日ノ本に似ていて天彦はつい親近感を覚えてしまう。


 余談だがヴェネツィア市内は身分階層ごとに居住区が選別されていて、貴族・特権市民・庶民・奴隷、その他にもゲットーなるユダヤ人隔離居住区も存在した。

 ゲットーは言うまでもなくユダヤ人隔離を目的として作られた差別的立法の産物である。しかしながら同時期の中欧のゲットーとは異なり、ヴェネツィアゲットーに対してヴェネツィア人が略奪や虐殺などを行うようなことはなかった。

 これはヴェネツィア共和国が信教の自由を保障していた国であり、またヴェネツィア国民が宗教に無関心な人が多かったためではないかと見られている。


 天彦はこのヴェネツィア人の宗教観につくづく思う。ヴェネツィア人の志向性が何と自分たちと似通っていることかと。

 そして同時に思う。彼らは宗教的に異教徒を迫害し、自分たち日本人は職業で差別してきたのととても似ていると。


 これは善悪や適否の話ではない。単に事実に対する評価である。

 それとは別にヴェネツィア人が善だからユダヤ人を強度に迫害しなかった事実が愉快(滑稽)であり、日本人が善良だから宗教観に疎いのではないことが痛快(滑稽)だった。

 つまるところ、すべてが無関心に通じていてなんだか笑ける。それが天彦の第一感であり所感のすべてだった。



 閑話休題、

 ヴェネツィア共和国のシンボルがそこらかしこで散見される目抜き通りを歩いてしばらく。

 その密集する一角にマリピエロ邸はそっとあった。


「ギリ市民街区か」

「マーキス、いいえピコ。お言葉を否定してまことに恐縮にございますが……ギリではございません。歴とした市民街区にございます」

「目と鼻の先に庶民街区があるのにか」

「あるのに。でございます」

「下らぬ矜持は枷になるで」

「……留意いたします」


 事実としてマリピエロ邸は市民街区と庶民街区とを隔てる通りを挟んだギリギリ市民街区内側にあった。

 三階建ての超土地狭量レンガ作り物件であり、おそらくは建坪10畳あれば御の字かと。そんな極狭スペースに建っている文字通り家主が恐縮する程度にはオンボロだった。


「こちらです。お見苦しいあばら家ですがようこそお越しくださいました」

「ここ一点だけを粒立てれば誠そうやが、どこも似たり寄ったり。そも土地がないんや、そう卑下することもあらへんやろ」

「温かいお言葉。痛み入ります」

「けれど、このかび臭いのだけは何とかせえ」

「は、はい」

「ん。定住先が見つかるまでの間、世話になる。よろしゅうさんにおじゃります」

「はい。お礼の言葉、ありがたく頂戴いたします。定住先も大至急お探しいたします。それまでは少々手狭かと存じますが、しばらくは我慢してください」

「ん」


 母親と妹と同居らしいが不在だった。


「用人、支度にかかれ」

「はっ」


 元奴隷だった用人たちが是知の支持を受け、てきぱきと天彦の暮らしやすいよう部屋の支度を整え始める一方。

 天彦を筆頭に菊亭イツメン衆は荷物を解くどころか腰さえ落ち着けずに天彦の顔をじっと凝視して待った。まるで即応の指示が飛ぶことを承知しているかのように。


「マーキ……、ピコ。早速ですが本日は如何なさいますか」

「まずおひとつ」

「はい」

「いい加減、市民設定になれんかい!」

「っ……、は、はい、ピコ」

「うむ。着いて早々やが動こうと思う。皆はどうや」

「はっ。殿の御内意に従いまして、即刻動きたく存じまする」


 イツメン一堂は是知の言葉に大きく頷くと、声を揃えて即刻の活動に同意を表明し着替えに取り掛かるのだった。






 ◇






 リンゴン、ゴーン、ゴーン、ゴーン――



 サン・マルコ大聖堂の鐘が鳴る。


「マランゴーナの鐘にございます」

「鐘に種類があるんか」

「はい。五つの鐘がございます」

「ほう。で、マランゴーナとは」

「お勤めの始まりと終わりを報せる鐘にござます」

「なるほど」


 午前9時を少し回ったところ。すると時間帯的にお勤め開始の合図の鐘。

 鐘楼は天彦の立つ市民街区からでも視認できた。あそこを目指せば政庁(サン・マルコ広場)がある。実に親切都市設計だった。


 が、懐中時計をすでに手に入れている天彦にはあまり無縁の制度かもしれない。


「ほなら各々、示し合わせた通りに」

「はっ」


 従者ニコルを引き連れたアイモーネはカルラロンバルディア州副知事の後見推薦状を携え、サン・マルコ大聖堂に隣接して建っているドゥカーレ宮殿(政庁)へと向かった。


 そして是知、佐吉、クルル、メガテン、ソフィア嬢と、それぞれが三々五々、与えられた役目を果たすべく散開していく。

 彼らはそれぞれ思い思いの熱量をこめて、唯一居残りを許された菊亭一の御家来さんに頼む任せたの熱い視線を預け渡して去っていった。


「腹立つわぁ、あいつらずっと無礼ですやん。許せませんわ」

「居残らざる終えなかったお雪ちゃんに対する至極妥当な評価やと思うで」

「居残らざる……?」

「そう。居残らざる」

「あ」

「あ」


 単独行動とか危なっかしくてとても無理。とか。

 全会一致で決が採られた雪之丞のコラボ行動だったが、然りとて引受先もなく。

 不承不承ながら天彦がその受け皿役を引き受けたのだが、控えめに言ってもお荷物感がえげつない。


 何しろ彼、いらんことしかしないのだ。


「で、若とのさんはどこへ向かいはるんです」

「着いておいで」

「はーい」


 その一方、雪之丞に武士の誉れはあっても可怪しな自尊心はない。つまりいつでも擬態できる。なにせ彼は戦国元亀にあっては非常に稀有な、お命さん大事さん系武士なのだから。笑


 行動にさえ目を配っていればそう大事にもならないはず。


 てくてくてく。とぼとぼと。


 ゴンドラを乗り継ぎ市内中心地を目指す。

 天彦の一旦目指すは政庁だった。何をするにもまず中心を知らなければの精神で。つまり、


「無策」

「知ってました」


 ソフィア嬢含めてイツメンたちには的確な指示を下している。

 それさえ完璧なら自分などごまめ。

 天彦にはどこかで自分の存在を過小評価する悪い癖があった。


「ほな観光ですね。買い食いしてもよろしいですか」

「ええさんやで。何だってええさんや」

「ほんまですか! やた」


 天彦は平民身分と偽り、市井に潜伏する策を強行した。

 猛烈な反対意見を具申したのはソフィア嬢と是知だった。だが二人きり。

 菊亭に限って多数決などという民意の反映方法は選ばれないが、それでも多勢に無勢は天彦の策意を大きく後押ししてくれた。


「ほんまやで、なんでもええ。身共らは自由人なんやからな」

「はい!」


 最終的には“神に祈り、利益にすべてを捧げる人”に繋がれば何だっていいの感情で天彦は言う。つまり商人。

 正しくはそれもきちんとギルドに加盟している、いや商業ギルドに加盟している遍歴ではない定住商人と繋がれれば支店であろうと本店勤務であろうと何だっていい。の、なんだって。


 さてドゥカーレ宮殿はヴェネツィア共和国の政庁(行政府)でありドージェ(総督)の公邸(住居)でもあった。

 住居兼行政府機能に加えて、立法府、司法府、最高裁判所、刑務所、武器庫という超超複合機能をもった建物であり、中庭の北側面はサン・マルコ聖堂の外壁と接するようになっている。

 また隣接するサン・マルコ聖堂は“ドージェの礼拝堂”とされており、ヴェネツィア大司教の司教座教会ドゥオーモではなかった。


 ヴェネツィア共和国は人口210万人。欧州における押しも押されもせぬ大都市の一つ。


 天彦たちがテッテ橋に差し掛かると、


「ボク、まっまのおっぱいが恋しいのかい」

「お、いいおべべだね。お姉さんのところにおいで。たんまりお金を使わせてあげる」

「今だけお得だよ。たっぷりサービスしてあげる」


 天彦を含めて通行人に呼び込みの艶めかしい声が飛ぶ。


「ふっ、勤勉なことや」

「若とのさん、あれらなんであない前をはだけさせて乳房放りだしてるんです」

「テッテ」

「テッテ?」

「おっぱい」

「おっぱい? なんですのおっぱい」

「おっぱいはおっぱい」

「はぁ。で、あれらなんですのん」

「夜鷹や」

「え夜鷹。……あれさんみんな夜鷹ですか。ごっつい数いてますけど」

「そう、みんなさん夜鷹。春を売る人らや」


 見渡すかぎり人、人、人。ざっと数百は下らない数の娼婦が品を作って呼び込み活動に腐心している。


 控えめに言って壮観だった。


 けれどそこに悲壮感はまるでなく、むしろ矜持のような自負さえ感じる。そんな風靡な空間だった。


「ほえ……、するとここのお国さんはひょっとして不景気なんですか」

「いいや。最盛期とは程遠いとしてもまだまだ列強であり続けられる、欧州最大級の経済大国のひとつや」

「ほならなんで」

「それが問題や。この社会現象、分析する価値くらいはありそうやな」

「つまり」

「おっぱい」

「おっぱい。さいぜんからなんですのおっぱい」

「おっぱい」

「おっぱい」


 男子だった。


 余談だが人口210万人のうち1万人超が娼婦である。

 というのもこの頃、社会問題化していたのが同性愛だったのだ。男女ともにかなりの流行を見せていて、この社会現象を問題視した元老院評議会が奨励したのが売春であった。嘆き!

 テッテ橋は文字通りテッテ(おっぱい)であり、この橋界隈には胸を曝け出して呼び込みをする売春婦で埋め尽くされていたのである。


 ヴェネツィアはアムステルダムと並ぶヨーロッパ最大級の性風俗都市でもあったのだった。


 目的の場所へと歩を進める。


「あそこなどどないさんやろ」

「某に訊かれてもムリですわ」

「そやったな」

「あ」

「あ」


 商業通信。13世紀以降は行商から通信による取引への移行が進んだ。

 商人は船便による文書で連絡を取り、遠方の市場にいる代理人に取引を依頼した。

 15世紀にダマスクスの代理人からヴェネツィアへ送られた文書の例としては、商業書簡、勘定書、価格表、購入報告書の4種類がある。


 商人はこのように文書によって遠方の取引を行っていた。


 天彦の目の前にはそんな商業通信を運んでいるのだろう商人たちが、引きも切らずに出入りする一軒の大店が店を構えていたのだった。


「お雪ちゃん。ちょっとあれに上手いこと絡んで取っ掛かりつけ」

「指示が大雑把!」


 それでも文句ひとつ言わずに突撃してくれるのが雪之丞。

 天彦にはそんな雪之丞への絶大な信頼感があったのだ。……とか。


「……頬がむちゃんこ痛いです」

「あ、うん」


 物乞いと勘違いされ殴られて引き下がってきた。

 天彦はそんなただの殴られ損丈にジト目を向けつつ、


「ほなこれ使おっと」

「なんですのそれ」

「証文や」

「初めから使ったらよろしかったのでは」

「……」

「若とのさん、謝って」


 すまん。許せ。


 心の中で詫びながら、けれど言葉にはけっしてせずに天彦は、モードを切り替え真剣な眼差しを目当ての大店にそっと預ける。


 目当てとは無論、手にしている証文(借用書・売買契約書・約束手形含める有価証券等々)を取り扱う商家、商人のことである。


 天彦はそこに丁稚奉公として入る算段を立てていた。

 内からでなければ得られない情報が多々あるとの判断から。

 あるいは単に斜陽の帝国(共和国)とは距離を置きたい感情も手伝ってか、いずれにせよ、いずれの場合も生き残っていられるよう自身の最も信ずるところの銭を頼りに策を練った。


 ここ一番、常に裏切り続けられている最大要素(銭)をここ一番で頼るという皮肉に気付かず。


「時代はまさに激動のただ中。身共に打って付けの条件におじゃる」

「若とのさん」

「なんやお雪ちゃん。せっかくキメてるのに邪魔せんといてんか」

「放っておきたいのは山々ですけど、周囲の視線が痛いです」

「……」


 商業革命。

 16世紀、大航海時代の開始の結果起こったヨーロッパの商業の変動。

 経済の中心が地中海岸から大西洋岸に移るとともに、銀の大量流通による価格の変動が起こった。  

 16世紀の大航海時代に、ポルトガルによるインド航路の開発にともなう直接的な香辛料貿易、スペインによるアメリカ新大陸の征服にともなう銀の大量流入などによってヨーロッパにおこった貿易・商業のありかたの大きな変化を商業革命という。


 その要点は、

 1、商業圏の世界的規模で拡大しアジア・新大陸におよんだこと。

 2、世界経済の中心地域が従来の地中海周辺から大西洋沿岸に移ったこと。

 3、従来の高利貸し的な金融業者が没落し、都市での金融システムが形成されたこと。

 4、銀の大量流通(アメリカ大陸からの)によって物価が上昇し、地代に依存する領主階級の没落を決定的にしたこと(価格革命)。 と、まとめることができる。


 が、その一役を担った日ノ本からの銀流出は大部分が阻止できているため、4に至っては非常に軽微な影響にとどまっている。

 その分、太陽の沈まない帝国の息の根は早く止まることになっているようだが、知らん。


 いずれにせよ、この基本さえ押さえておけば激動のヴェネツィア共和国も渡り歩けるはず。

 そこに自分の知恵(悪巧み)が加わればほぼ無敵! めっちゃ素敵!

 と、天彦は考える。いつものように努めて安易に。極めて軽々しく。


「くくく」


 そんな感情で軽々彦はこれまたいつものいい(悪い)貌をして、お目当ての大店に一歩一歩、足を向けるのだった。


 行き交う人の足を止め、その表情を朝っぱらからぞっとさせながら。
















【文中補足】

 1、ドージェ(日本語訳総督または国家元首)

 以降は総督ドージェ表記に統一することとします。


 2、セクト

 元は分派の意味だが、キリスト教が主流派を占めるヨーロッパではカルトと同じ否定的な文脈で使われることがしばしば。


 3、ヴェネツィア共和国身分階層

 貴族>市民(特権を持つ者)>庶民(単純労働者)>奴隷

 の、四階層に分類される。


 4、ゲットー(迫害)

 ゲットー住民は日中だけは地の利の悪い所で商売を行う事を許されたが、夜は事実上ゲットーに閉じ込められた。重いユダヤ人特別税も課せられた。

 しかしそれでもユダヤ人はヴェネツィアで栄えた。ヴェネツィアの東方貿易の主役はユダヤ人だった。ユダヤ人が乗っていないヴェネツィア船はほとんど見当たらないほどだった。

 キリスト圏でもイスラム圏でもユダヤ人は裕福と噂になり、オスマン帝国や聖ヨハネ騎士団はしばしばヴェネツィア船のユダヤ人を誘拐してはユダヤ人共同体に身代金を要求した。

 ヴェネツィアのユダヤ人共同体は、言われるままにお金を支払う事が多かった。

 イスラム圏ユダヤ人やポルトガル系ユダヤ人が中心となってオスマン帝国との交渉のための特別機関を設けていた。

 また聖ヨハネ騎士団の本拠地マルタ島には代理人を置いた。代理人の仕事はユダヤ人が捕まった場合にヴェネツィアのユダヤ人共同体に報告し、もし身代金が支払い可能ならばその手続きをすることであった。

 ゲットーは言うまでもなくユダヤ人隔離を目的として作られた差別的立法の産物である。しかしながら同時期の中欧のゲットーとは異なり、ヴェネツィア・ゲットーに対してヴェネツィア人が略奪や虐殺などを行うようなことはなかった。


 これはヴェネツィア共和国が信教の自由を保障していた国であり、またヴェネツィア国民が宗教に無関心な人が多かったためではないかと見られている。


 5、商人

 遍歴商人(都市から都市へ、市場から市場へと移動を重ねて商品を運び商いをする商人のこと。

 ⇔定住商人


 6、ギルド 商人ギルド>同職ギルド

 入会できた時点で人生勝ち組確定。

 同職ギルドは商人ギルドの独占からの脱却のために設立された専業組合。


 7、ヴェネツィア共和国のシンボル

 翼のあるライオンと書籍


【社会情勢補足】

 ヴェネチア共和国の社会構造は13世紀末頃から3層に分かれる。

 貴族、市民、庶民である。貴族だけが参政権を持っており貴族は主に貿易、土地、債権、官職などから収入を得ていたが、その財力にはかなりの差があり有力な貴族の子弟は要職を得、貧しい貴族は下級官吏を勤めることが多かったよう。

 しかし貴族とはいえ、課税においても法の適用においても一般市民との差はなく、公職についても無給、その上もっともな理由なく議会を欠席すると高額の罰金を取られた。とはいえ単なる名誉職ということでもなく、利権もあったことは確か。


 市民は非肉体労働の家の出で、各種の権利、商業特権を有していた。

 上級市民は貴族の補佐役である書記官職を勤めるものが多く、短期間の任期で移動してゆく貴族たちに行政上の知識や前例を教えて助ける役目を担っていた。

 これら官僚層は職務や婚姻などを通じて大貴族と結びつくことで政治的影響力を得、経済的利益にもつながっていった。

 非官僚市民は主に商人層で、商業利益の追求に専念していたため、国政に参加できないことにはあまり不満を抱かなかったようだ。

 庶民は上記2階層以外の人間で主に労働者階級です。その中でもギルドに属する比較的裕福な庶民と、貧しい未組織労働者階級とに分かれる。

















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