婚約者に隠し子がいると聞かされて傷付きつつも縁をそっと切り離す〜旦那様と縁付いて子供を授かり幸せを知る〜
大変なことになった。
まさか婚約者に隠し子がいるなんて。
でも、落ち込んでばかりもいられない。
だって、ずっと前から気になる人がいるから。
「あの……少しお時間よろしいでしょうか?」
昼下がりの庭園で、優雅にお茶を飲んでいた目の前に、見慣れない美しい女性が申し訳なさそうな顔で立っていた。
「はい、どうぞ」
一体誰なのか、と訝しみながらも、平静を装って微笑みかけた。
「わたくし、実は……クロード様の愛人でございますの」
その言葉を聞いた瞬間、持っていたティーカップがカタッと音を立てた。
クロード様──自分の婚約者である、あの優しくて完璧なはずの王子様の?
「……そうでございますか」
平静を装うのがやっと。
心臓がドキドキと嫌な音を立てている。
「実は、クロード様には五歳になるお子様がいらっしゃいまして……」
彼女はそう言うと、申し訳なさそうに目を伏せた。
衝撃的な事実に、頭の中が真っ白に。
まさか、そんなことが。
「……お聞かせくださり、ありがとうございます」
震える声でそう答えるのが精一杯。
彼女は深々と頭を下げると、静かに去っていく。
庭園には、一人だけが残された。
信じられない。
クロードが、何も言わずに、そんな秘密を抱えていたなんて。
婚約の話が出た時も、彼は何も言わなかった。
胸の中に、失望と怒りが渦巻く。
こんな結婚、絶対に嫌。
「ちょっとよろしいですか」
その日の夜、クロードの元へ向かった。
「はい。なんでしょう」
冷静に、でもはっきりと婚約を破棄したいと伝えた。
「申し訳ありませんでした。不誠実でした」
彼は驚いた様子だったけれど、全てを話すと、ただ静かに受け入れた。
数日後。
「ねえ、クリムニ」
いつものように、穏やかな笑顔の幼馴染、リアムが私の家の庭に現れた。
「どうしたの、リアム?」
少し疲れた声でそう問いかけると、彼は少しだけ真剣な表情になり。
「あのさ……よかったら、おれと結婚してくれないか?」
彼の言葉に、目を丸くした。
リアムは、ずっと前から意識していた人。
優しくて、いつもこちらのことを気遣ってくれる、大切な幼馴染。
「え……?」
信じられない気持ちと、胸いっぱいの喜びで、言葉が出なかった。
「クロードのことがあったのは知ってる。つらい思いをしただろう? 無理にとは言わない。でも、おれはずっとクリムニのそばにいたいんだ」
彼の優しい眼差しが、私の心を温かく包み込む。
「……リアム」
涙が溢れそうになるのを堪えながら、ゆっくりと頷いた。
「うん。お願い。私と、結婚してください」
リアムの顔が、ぱっと明るくなる。
彼の笑顔を見るのは、本当に久しぶりな気がした。
リアムのプロポーズを受け入れてから数週間後、二人はとんとん拍子に結婚の準備を進めていた。
お互いの両親への挨拶も済ませ、温かい祝福を受ける。
幸せになりなさいと言われ。
リアムの家族も、昔からクリムニのことをよく知ってくれていたから、すぐに打ち解けることができた。
「クリムニ、このウェディングドレス、すごく似合うよ」
試着室で、何着目かのドレスを着た女に、リアムは優しい目を向けた。
ああ、幸運だ。
照れくさくて、少し頬が赤くなるのを感じる。
「ありがとう、リアム。でも、まだ迷っちゃって」
純白のドレスはどれも素敵で、なかなか一つに決められない。
「焦らなくても大丈夫だよ。クリムニが一番気に入ったものを選べばいい」
リアムはそう言って、私の手をそっと握ってくれた。
元婚約者の彼からは、事務的なエスコートしか、してもらえなかったと思い出す。
彼の温もりが、私の不安を優しく包み込んでくれる。
元婚約者は愛してはくれなかったとのだと、今更知ったが遠い存在になったので、無関心に思う。
そんな穏やかな日々を送る中で、時折、クロード様のことを思い出すこともあった。
どれだけ経とうと婚約者として過ごした時間が、あったから。
婚約破棄の際、彼は特に弁明することもなく、あっさりと受け入れた。
少し拍子抜けするほどだったけれど、今となっては、それが最良の結末だったと思える。
愛人の隠し子は、互いに亀裂しか生まない。
結婚式の準備が進むにつれて、街の人たちも私たちのことを祝福してくれるようになった。
「お似合いの二人だね」
「きっと幸せな家庭を築くでしょう」
そんな温かい言葉をかけてもらうたびに、リアムと一緒になれて本当に良かったと心から思う。
ついに結婚式当日を迎えた。
教会へと続くバージンロードを、少し緊張した面持ちで歩く。
(この人と結婚する)
先に祭壇で待つリアムの姿が見えた瞬間、胸は熱くなった。
彼の優しい笑顔を見た途端、不安は消え去り、幸福感でいっぱいになった。
神父様の厳かな言葉が響き渡る中、永遠の愛を誓い合った。
父が泣いていたのを見てしまう。
指輪を交換し、誓いのキスを交わした瞬間、会場全体が温かい拍手に包まれた。
披露宴では、リアムの友人たちが面白いスピーチをしてくれたり、クリムニの友人たちが心のこもった歌をプレゼントしてくれたり、終始和やかな雰囲気に包まれていた。
「クリムニ、本当に綺麗だよ」
隣に座ったリアムが、私の耳元でそっと囁いた。
お色直しも、苦ではない。
彼の言葉と優しい眼差しが、何よりも幸せな気持ちにしてくれる。
披露宴の終盤、私たちは二人でダンスを踊った。
リアムの腕の中で、ゆっくりと体を揺らしながら、これまでの色々な出来事を思い出していた。
皆が過去を語るからかれない。
まさか、あんな形で婚約破棄することになるとは思わなかったけれど、そのおかげで、本当に大切な人を見つけることができた。
「ありがとう、リアム。私のそばにいてくれて」
踊りながら、私は心からの感謝の気持ちを伝えた。
「おれの方こそ、ありがとう、クリムニ。これからずっと、一緒にいようね」
リアムはそう言って、手を強く握り返してくれた。
こうして、夫婦になった。
波夕焼け空の下、リアムと手をつないで歩く帰り道。
心の中でそっと呟いた。
「私、本当に幸せ」
と。
結婚して数ヶ月が過ぎ、二人の生活は穏やかで幸せな日々で満ちていた。
朝は二人で一緒に朝食を取り、それぞれの仕事へ出かけ。
夜は一緒に夕食を作り、他愛ない話で笑い合う。
そんな何気ない日常が、何よりも大切。
ある日、リアムが少し浮かない顔で帰ってきた。
「どうしたの、リアム?何かあった?」
心配になって声をかけると、彼は少し躊躇いながら話し始めた。
「実は……街でクロード様を見かけたんだ」
その名前を聞いた瞬間、心臓が一瞬止まったような気がした。
もう、彼のことは過去の出来事として心の奥にしまっていたつもりだったのに。
「そう……ですか」
平静を装って答えたけれど、胸の奥には小さな波紋が広がっていくのを感じた。
「何か、話しかけられたりした?」
「いや、遠くから見かけただけだよ。少し痩せられたみたいで……それに、一人で寂しそうに歩いていたから、少し気になって」
リアムの優しい言葉に、少しだけ安堵した。
彼も、過去の婚約者に対して、特に敵意を持っているわけではないらしい。
「そうですか」
それ以上、何も言えなかった。
クロードの今の状況を想像すると、複雑な気持ちになる。
裏切った人だとはいえ、かつては婚約者だった人だ。
それから数日後、家の扉がノックされた。
こんな時間に誰だろう、と思いながらドアを開ける。
そこに立っていたのは、まさしくクロード。
「クリムニ様」
彼は少し憔悴した様子で、申し訳なさそうな顔をしていた。
「え、クロード様……?どうされたんですか?」
驚きを隠せない。
彼は静かに言った。
「少し、お話がしたくて参りました」
リアムはまだ仕事から帰っていない時間だ。
彼をリビングに通し、向かい合って座った。
「今日は、どのようなご用件で?」
できるだけ冷静に尋ねる。
クロードはゆっくりと話し始めた。
「まず、あの時は、本当に申し訳ございませんでした。あなたを深く傷つけてしまったこと、今でも後悔しております」
深々と頭を下げる彼に、ただ黙って頷いた。
「実は、あなたと婚約を破棄した後、色々と考えることがありまして……愛人だった女性とは、もう別れました。子供のことは、きちんと責任を持って育てていくつもりです」
彼の言葉は、以前の傲慢な態度とはまるで違っていた。
どこか、痛々しいほどに誠実。
「そうですか……」
それしか言えなかった。
他にあるわけもなく。
彼の言葉に、特に感情が揺さぶられることはなかった。
過去の出来事は、区切りがついているのだと改めて感じた。
「今日、ここに来たのは……あなたに、心からお詫びを申し上げたかったからです。あなたの優しさや、私に向けられていた温かい気持ちを、私は踏みにじってしまった。本当に、申し訳ありませんでした」
再び深く頭を下げた。
彼の言葉は、重く誠実だった。
彼の顔をじっと見つめる。
かつては愛しいと思っていたその顔は、今はただ、過去の記憶の中の人物の顔だ。
「お気持ちは、よくわかりました。でも、私は今、リアムと幸せに暮らしています。過去のことは、もう終わったことです」
クロードは静かに頷く。
「はい、承知しております。ただ、どうしても、あなたに直接お詫びを申し上げたかったのです。あなたの幸せを、心から願っております」
そう言うと、彼は立ち上がり。
もう一度軽く頭を下げて、静かに部屋を出て行った。
ドアが閉まった後、一人、リビングに残された。
クロードの言葉は、小さな波紋を残したけれど。
それは決して、今の幸せを揺るがすものではなかった。
力が抜ける。
しばらくして、リアムが帰ってきた。
「ただいま、クリムニ。何かあった?」
少し考え込んでいる様子を見て、彼は心配そうに声をかけた。
「ううん、何でもないよ。ただ……クロード様が、謝りに来たの」
そう教えた。
リアムは少し驚いた表情をしたけれど、すぐにいつもの優しい笑顔に戻る。
「そうか。でも、クリムニは大丈夫?何か嫌な思いをしたんじゃない?」
彼の優しい言葉が、私の心を温かく包み込む。
「大丈夫、過去のことだから。それよりも、あなたが家に帰ってきてくれて、嬉しい」
彼の腕にそっと抱きついた。
リアムの温もりを感じながら、改めて、今の自分の幸せを噛み締めた。
穏やかな春の陽射しが差し込む昼下がり、庭のベンチに腰掛け、編み物をしていた。
隣では、リアムが楽しそうに庭の手入れをしている。
結婚して半年、夫婦生活は相変わらず穏やかであり、幸せだった。
最近、少し体がだるいと感じることが多い。
最初は季節の変わり目のせいだと思っていたけれど、食欲も少し変わってきたような気がする。
まさか……と思いながらも、どこかで期待が。
「クリムニ、どうかした?少し顔色が優れないみたいだけど」
心配そうな顔でこちらを覗き込んだ。
「ううん、大丈夫。少し眠いだけ」
そう答えたものの、やはり気になって、数日後にはこっそりと薬局へ行った。
妊娠検査薬を手に取り、ドキドキしながら家に戻る。
夕食後、リアムが洗い物をしている間に、そっと検査薬を試してみた。数分後、目を疑うような結果が。
はっきりと浮かび上がっていたのだ。
心臓がドキドキと高鳴り、手足が少し震える。
まさか、本当に?
喜びと驚きと、ほんの少しの不安が入り混じった複雑な感情。
胸の中に広がっていく。
どうしよう、リアムにどう伝えよう?
その夜、寝室で何度も言葉を探したけれど、なかなかうまく伝えられなかった。
リアムは隣で優しく微笑んでいる。こんな幸せそうな彼の顔を見ていると、喜びがじんわりと湧き上がってくる。
意を決して、リアムに話しかけた。
「ねえ、リアム……あのね、実は……あのね」
言葉を選びながら、検査薬をそっと彼の手に握らせた。
「これ……見て」
リアムは不思議そうな顔で検査薬を受け取り、目を丸くした。
二本の線を確認すると、彼の顔はみるみるうちに驚きと喜びの色に変わっていく。
「クリムニ……これって……まさか……えっ」
彼は信じられないといった表情で、こちらの顔をじっと見つめた。
「うん……多分、そうみたい」
照れくさそうに頷くと、リアムは言葉を失う。
しばらくの間、妻をじっと抱きしめた。
待つ。
彼の腕は少し震えていた。
「本当か……?本当に、おれたちの……?」
ようやく絞り出した彼の声は、震えていたけれど、その奥には溢れんばかりの喜びが感じられた。
「うん……まだ病院で診てもらったわけじゃないから、はっきりとは言えないけれど……でも、多分」
言い終わる前に、リアムは再び強く抱きしめた。
「ありがとう、クリムニ……本当に、ありがとう」
彼の声は少し潤んでいた。
彼の背中にそっと手を回し、温かい気持ちで彼の言葉を受け止める。
次の日、一緒に病院へ行った。
緊張する。
お医者様から告げられた言葉は、予想通りのものだった。
「おめでとうございます。妊娠されていますよ」
その言葉を聞いた瞬間、二人の顔には、満面の笑顔が広がった。
リアムは手を強く握り、何度も「ありがとう」と囁いてくれる。
帰り道、二人で手をつなぎ、ゆっくりと歩いた。
空はどこまでも青く澄み渡り、春の風が心地よかった。
「信じられないな……まさか、おれたちに子供ができるなんて」
リアムは何度もそう呟き、その度に、子供のように嬉しそうな笑顔を見せた。
「私もまだ信じられない気持ち。でも、なんだかすごく幸せ」
彼の顔を見上げた。
彼の瞳はキラキラと輝いている。
お腹に宿った小さな命は自分達のもとに来てくれた。
待ちに待ったその日は、少し肌寒い秋の日にやってきた。
陣痛が始まったのは夜中で、リアムは慌てふためきながらも、私を優しく励まし、病院へと連れて行ってくれる。
長い時間をかけて、ようやく腕の中に、小さな命が誕生した。
小さな小さな女の子。
産まれたばかりの彼女は、皺くちゃで、一生懸命に泣いていたけれど、その姿は、この世で一番愛おしいものだった。
「ああ……クリムニ、ありがとう。本当にありがとう」
リアムは涙ぐみながら手を握りしめた。
感動で胸がいっぱいで、涙が止まらなかった。
こんなにも愛おしい存在が来てくれたのだ。
名前は、リアムと二人で何度も話し合って決めた。
カラミィ。
温かくて、優しくて、どこか凛とした響きの、私たちの大好きな名前だ。
退院してからの生活は、想像以上に慌ただしかったけれど、その忙しささえもが、幸せな時間だった。
夜中に、何度も起きるカラミィのお世話は大変だったけれど、二人で協力して乗り切った。
眠い目を擦りながらも、カラミィの小さな寝顔を見ていると。
全ての疲れが、吹き飛んでしまうようだった。
生後一ヶ月を過ぎた頃。
カラミィは少しずつ、周りのものを認識し始めた。
母父の声が聞こえると、小さな手をバタバタさせたり。
微笑んだりするようになった。
その笑顔を見るたびに満たされた。
ある日の午後。
カラミィを膝の上に抱き上げ、優しく話しかける。
「カラミィ、可愛いね。パパとママの宝物だよ」
声に合わせて、カラミィは小さな目でじっと母親の顔を見つめている。
その瞳は、まるで小さな星のようにキラキラと輝いていた。
「あー、うー」
カラミィは小さな声で何かを言っている。
まだ言葉にはならないけれど、一生懸命に伝えようとしているその姿が、たまらなく愛おしい。
「よしよし、どうしたの?」
優しくカラミィの頬を撫でた。
すると、カラミィはにっこりと笑う。
その笑顔は、まるで小さな太陽のようで、明るく照らしてくれた。
「パパもいるよー」
リアムが仕事から帰り、カラミィに優しく声をかけた。
カラミィはパパの声が聞こえると、嬉しそうに手を伸ばしたので、リアムは優しくカラミィを抱き上げ、頬ずりをする。
「カラミィ、今日も良い子だったかな?」
リアムの問いかけに、カラミィは「あぶぶ」と可愛らしい声を上げた。
その様子を見ていると、幸福感でいっぱいになる。
夜、寝かしつけの時間。
カラミィをベビーベッドに寝かせ、子守唄を歌って聞かせた。
「ねんねんころり〜」
優しい歌声に包まれ、カラミィはうとうとと目を閉じていく。
その小さな寝顔を見守っていると、この小さな命を守り抜きたいという強い気持ちが湧き上がってくる。
リアムは肩にそっと手を置いた。
「お疲れ様、クリムニ」
「ありがとう、リアム。あなたも、お仕事お疲れ様」
二人で、眠るカラミィの小さな手をそっと握った。
この小さな手が、未来を繋いでいるのだと思うと、胸が熱くなる。
春の暖かな日差しが庭に降り注ぐ午後。
カラミィは、すやすやと昼寝をしていた。
庭の木陰にあるベンチに腰掛け、穏やかな時間を過ごす。
「ねえ、リアム」
ふと声をかけると、リアムは手入れをしていたガーデニング用のハサミを置き、こちらを向いた。
「どうしたんだい、クリムニ?」
「カラミィがもう少し大きくなったら、庭にブランコを作ってあげたいな、と思って」
リアムは少し驚いた表情をしたけれど、すぐに優しい笑顔になった。
「ブランコ、いいね!カラミィもきっと喜ぶだろうな」
「うん。この庭の大きな木の枝なら、丈夫そう」
庭の隅に立つ、立派な枝ぶりの木を見上げた。
子供の頃、よく近所の公園でブランコに乗って遊んだものだ。
風を切る感覚や、空に向かって飛び出すような浮遊感が、本当に楽しかった。
カラミィにも、そんな楽しい思い出を作ってあげたい。
「そうだね。早速、材料を買いに行こうか?どんなブランコがいいかな?」
リアムは乗り気になって、立ち上がった。
彼のこういう行動力は、本当に頼りになる。
「ありがとう、リアム。シンプルな木の板に、丈夫なロープで吊るすブランコでいいと思う」
すぐに支度をして、近くの雑貨屋へと向かった。
木材コーナーで、ブランコに使うのにちょうど良さそうな、丈夫な板を選び。
ロープ売り場では、耐荷重がしっかりとした、安全なロープを選んだ。リアムは、念のために金具などもいくつか購入していた。
家に帰り、早速ブランコ作りが始まった。
リアムは手際よく木材をやすりで磨き、ロープを結びつける。
その横で、出来上がっていくブランコをワクワクしながら見守っていた。
DIYはできない方の女なのだ。
「こんな感じでどうかな?」
リアムが木の枝にロープをかけ、ブランコの板を吊るして見せてくれた。
シンプルな作りだけれど、しっかりと安定している。
「素敵!ありがとう、リアム」
思わず拍手。
まだカラミィには、少し大きいかれないけれど、きっとすぐに乗れるようになるだろう。
完成すると、乗った。
揺れるブランコは、童心に帰ったように楽しい。
カラミィが大きくなって、このブランコに乗って遊ぶ姿を想像する。
夕方、カラミィが目を覚ました。
早速、完成したブランコをカラミィに見せてみた。
まだブランコが何なのかわからないカラミィは、不思議そうな顔をして、ゆらゆらと揺れるブランコをじっと見つめていた。
「カラミィ、大きくなったら、これで遊ぼうね」
優しく話しかけると「あー」と嬉しそうな声を上げた。
ブランコが庭に設置されてから数ヶ月後。
カラミィはよちよちと歩けるようになり、興味津々でブランコに近づくようになった。
最初は怖がっていたけれど。
優しく支えながら乗せてあげると、すぐに笑顔を見せるようになった。
小さな体でブランコに乗り、風を感じながら揺れるカラミィの姿は、本当に可愛らしい。
時折、キャッキャと笑い声を上げながら、こちらに手を振る。
その笑顔を見られただけでいい。
リアムがブランコを優しく押してあげると、カラミィは高く飛ぼうと、小さな足をバタバタさせる。
「あはは、楽しそうね」
その無邪気な姿を見ていると、自然と笑顔になる。
夕暮れ時。
ブランコに乗ったカラミィを抱きしめながら、ゆっくりと揺れた。
茜色の空の下、風の音とカラミィの笑い声が、私たちの小さな庭に響き渡る。
あの時、何気なくブランコを作りたいと言った言葉に、リアムがすぐに賛同してくれたこと。
カラミィが楽しそうに遊んでくれること。
全てが、幸せな日常の、かけがえのない一部分。
成長と共に、このブランコもたくさんの思い出を刻んでいくのだろう。
いつかカラミィが大きくなって、このブランコを懐かしく思う日が来るかれない。
このブランコには、愛情と、たくさんの笑顔が詰まっていることを、彼女に伝えたい。
⭐︎の評価をしていただければ幸いです。