純粋な疑問なんだけど、あなたは一生ヒロインの真似をして生きて行くの?
※微百合。
『純粋な疑問なのですが、あなたは一生虐げられたいのでしょうか?』の続きっぽいですが、読んでなくても大丈夫だと思います。
わからなかったら、上のコメディ系の短編リンクから飛べるので、気が向いたら読んでやってください。(*>∀<*)
貴族学園で……婿候補が複数いるので有名な高位貴族令嬢がいる。彼女も少々キツめの美少女として評判だけど、婿候補の殿方達がまた麗しい方々として輪を掛けて有名だ。
彼女の家の事情でまだ婚約者は決まっていないみたいだけど、婿候補の方達の中から一番優れた方が婿に選ばれるのではないか? と、囁かれていた・・・はず、なのだけど。
現在。食堂で、高位貴族令嬢の婿候補達の前に立ち塞がっているのは……どちらの令嬢かしら? どこかで見た覚えがあるのだけど、なぜか思い出せない。
「お姉ちゃんは誰にも渡さないんだからっ!!」
と、フシャーっ!! と、全身を逆立てた子猫の如く威嚇している美少女がいる。
美少女って、威嚇する姿も可愛いのね? と、なぜか感心してしまった。
「お姉ちゃんとごはん食べるのはあたしなんだから、あっち行ってよっ!!」
高位貴族令嬢も、クスクス笑って威嚇するその美少女を窘めない。美少女に威嚇されて追い払われた美少年達は、すごすごと引き下がり……少し遠くの席に着いた。
「ぅ~……ピーマン嫌い」
渋い顔でお皿を睨む美少女。
「もう、好き嫌いしては駄目よ。体質に合わないなら仕方ないけど、そうじゃないならちゃんと食べなさい」
「苦いの嫌い……でも、お姉ちゃんがあ~んしてくれるなら、食べてもいい」
「全く……ほら、こっち向いてお口を開けなさい」
「わ~い、お姉ちゃん大好き!」
ちょっとキツめの美少女が、少し困ったようにクスリと慈愛の笑みを浮かべ、可愛らしく甘える美少女のお口へとピーマンを運ぶ。
瞬間、食堂の空気がどよめく。普段からあまり笑わない、キツめの美少女の慈愛の笑みにドッカンドッカンと大砲のような破壊力で心臓を撃ち抜かれて行く周囲の生徒達!
あ、危うくわたしも被弾するところだったわっ!? 普段クールビューティーな方の柔らかい慈しみの笑顔! なんて威力なのっ!?
そして、お昼休みにキャッキャウフフと優雅にランチを食べる美少女二人を、羨ましそうにちょっと遠くから指を咥えて見ている婿候補の美少年達……という、なんとも言えない図が繰り広げられている。
なんだか、あそこの空間だけ百合の花が舞い散っている気がするっ!!
「あれ? このゲームって、百合エンドあったのかしら?」
ポロリと、よくわからない言葉が口から出た瞬間――――
わたしは、ここがとある全年齢対象の乙女ゲームの世界と酷似していることに気付いた。頭を駆け巡る、ゲームの情報。
全年齢対象なだけあって、あまり酷いことは起こらない。高位貴族令嬢……悪役令嬢が、婿候補達攻略対象の自由や意思を縛っているのを、平民ヒロインが卒業までに解きほぐして、彼らのうちの一人と婚約の約束をする。それがハッピーエンドだったはず。
悪役令嬢は転校するんだったかしら?
一応、ゲームは全ルート解放してやり込む主義なので、攻略対象は制覇した。R指定のどろどろゲームばかりやっていた頃に、全年齢の甘酸っぱ! と悶えてしまうようなゲームをしたので、結構印象に残っている。
でも、わたしが知っている限り、ヒロインが悪役令嬢と仲良くなるルートなんて無かったはず。ストーリーが新規追加された移植版やファンディスクが出ていたという可能性や、どこぞの誰かの二次創作の世界という可能性もあるけど――――
ヒロインか、悪役令嬢のどちらかが転生者でどちらかが相手を攻略した、という可能性もあるわよね?
ということは……婿候補である攻略対象達は、ヒロインに攻略されない? しかも、ヒロインが攻略対象達を邪険にして悪役令嬢に近付けないということは、悪役令嬢の婿になる可能性も低い?
それなら、わたしが攻略してもいいんじゃないかしら?
だって、婿候補達はそれぞれタイプの異なるハイスペックな美少年! 無論、将来性も十分と言ったところ。
まあ、わたしはおそらく乙女ゲームのキャラとしてはモブだけど。でも、ゲームストーリーはなんとなくわかるし、ヒロインの言動を真似れば美少年を落とすことも可能じゃない?
というワケで、わたしは早速ゲームヒロインの真似をして、条件のいい攻略対象を一人に絞って落とすことにした。逆ハーレムもありか……? と一瞬思ったけど。
このゲーム。全年齢対象だし? 逆ハー風味の大団円っぽいエンドは、結局誰ともくっ付かないみんなお友達、仲良くしましょう! な、友情エンドだったはず。
それはさすがにねー? あと、逆ハー狙いで自滅する話なんて、掃いて捨てる程あったし? だったら、無難というか、気に入った美少年一人と結婚する方がいい。
と、こうしてわたしは、悪役令嬢の婿候補の一人を落とすべく狙いを定めた。
そうやって、狙っている攻略対象の側をヒロインの言動をなぞりながらちょろちょろして――――順調に好感度を上げて、偶に外して微妙な反応をされたりしながらも、着実に攻略して行っているときだった。
一人で作戦を練っていると、見覚えのある美少女がわたしの前に現れた。
「えっとね、あなた。転生者?」
悪役令嬢を攻略したのか、または彼女に攻略されたっぽいヒロインが聞いた。
「わたしに転生者かどうか聞くということは、あなたも転生者ということよね?」
「うん。そうなの。あたしはもう、ヒロインをするつもりはないんだけどね。そしたら、あなたが攻略対象の近くにいて……攻略しようとしてるみたいだから。ちょっと気になって」
「……攻略対象達は自分のものよ! って、文句を言いに来たと思ったわ」
「ううん。今日は、そういうのじゃないの」
どうやら、違うみたい。ヒロインちゃんの表情は、怒っているとかじゃない。どこか、不思議そうな顔でわたしを見ている。でも、今日はってどういうことなのかしら? 別の日には、攻略対象関係で絡むつもりなの?
「えっとね……あなた。ひぎゃくー、趣味? でも、持ってるの?」
なんだろう? 被虐という言い方が、非常にぎこちない。言い慣れてない感じね。まあ、普通に生活していれば、あなたは被虐趣味をお持ちで? なんて質問、しないものね。
「えっと、わたしは別に被虐趣味なんて持ってないわよ?」
「そうなの? じゃあ、なんでイジメられないと仲良くなれない攻略対象を攻略しようとしてるの? あのね、吊り橋効果? は、長くは続かないってお姉ちゃんが言ってたの。攻略対象に、ずっと好きでいてもらうために、ずっとイジメられる生活送るのは大変じゃない?」
どこかたどたどしく……お姉ちゃんとやらに言われた言葉を、わたしに話している印象。もしかして、この子のお姉ちゃんも転生者なのかしら?
でも、言っていることには一理あるわね。
「あのね、それでね。純粋な疑問なんだけど、あなたは一生ヒロインの真似をして生きて行くの? これから先も、ず~っと?」
「え?」
思わぬことを聞かれて、答えに詰まる。
「えっとね、ヒロインの真似をして男の子を攻略してもね、ゲームが終わったら、その先はどうするつもりなの?」
まさに、そのヒロインがわたしへ言い募る。
「あのね、ゲームの選択肢ではヒロインのセリフや行動が選べたじゃない? 攻略対象の好みに合うように。でもね、『ゲームの期間が終わっても、この世界で生きて行く限り、まだまだ人生は続くのよ』って。お姉ちゃんがそう言ってたの」
「それは……」
「それで、ヒロインの言動を真似して男の子を攻略して結婚したとして。その子が好きなのは、ヒロインの中身ってことでしょ? だからね、結婚相手に嫌われないよう、あなたは一生……『こんなとき、ヒロインだったらどんなことを言うのか?』、『ヒロインだったらどう行動するか?』って、考えて喋って、慎重に行動しなきゃいけなくなるの。だって、ヒロインの言動で好きになってもらったんだもん。ヒロインの言動から外れたら、嫌われちゃうと思うの」
ヒロインは……ヒロインをやめたという美少女は、一生懸命わたしに伝える。
「それって、疲れない? 大変じゃない? 素の自分を好きになってもらえないと、苦しくなっちゃわないかな? って」
「そう、ね……」
確かに。ヒロインなら、この場面でどういうことを言うか。ヒロインなら、こういうときどういう行動を取るか……なんて、ゲームじゃない今は選択肢が出ないし。
ゲームでは、正解を外した選択肢を選んだ場合。好感度が下がる。好感度が低くなると、当然攻略できない。やがて疎遠になって、ノーマルエンドか友情エンドになって……ハッピーエンドにはならない。
ということは、これから先。正解の判らないクイズを手探りで続けるようなもの。しかも、好感度なんて見えないし。知りようが無い……ああ、そうか。それが普通の人生ってやつか。
「あのね、本気で好きで、結婚したいならちゃんと素の自分のことも好きになってもらった方がいいと思うよ」
きゅっと、眉間にしわを寄せて忠告してくれる可愛らしい女の子。
「ふふっ、ありがとう。本当に、その通りね。そうしてみるわ」
これからは、彼の前でちょっとずつ素を出してみよう。それで、素の自分が嫌われるなら……しょうがない。この子の言う通り。一生ヒロインの影を追い続けなんていたら――――きっと、どこかの時点で病むだろうし。
「そっか。それじゃあ、がんばってね。応援してるから!」
ほっとしたように笑う彼女。
ふと、今しか聞けないかも? と、ずっと疑問に思っていたことを聞いてみることにした。
「ねえ、あなた」
「なぁに?」
「どうして、攻略対象を威嚇して悪役令嬢……あの、お嬢様の前から追い払うの?」
いつもいつも、見掛ける度にフシャー! と、毛を逆立てた子猫みたいに攻略対象達を威嚇して悪役令嬢……少しキツめのクールビューティーな高位貴族のお嬢様に近付くことを許さない。
まあ、この子が悪役令嬢推しの強火勢とか、百合っ子という可能性もあるけど。
「ん~とね……なんていうか、ほら? このゲームの攻略対象の男の子達って、イジメられても負けない、健気なヒロインのことを段々と好きになって行くじゃない?」
「? ええ。そうね」
少し困ったように、言い難そうに口を開く彼女。
「それって……可哀想な女の子が好きっていう趣味なんじゃないかって。お姉ちゃんが言うから」
「え? ぁ~……まあ、そういう解釈もできるかー……」
世の中には、いる。かわいそ可愛い……という、可哀想な子を愛でるのが趣味な人達が。思わず、遠い目になってしまった。
「それって、可哀想な女の子じゃないと好きになれないってことでしょ?」
「う~ん……そうなるのか……」
「だからね、あたし。決めたの。お姉ちゃんは、絶対に可哀想になんかしないって。お姉ちゃんは、幸せそうに笑ってる顔の方がすっごく可愛いんだから! その、幸せに笑っているお姉ちゃんのことを好きになってくれる人じゃないと、絶対ダメ! だから、攻略対象の男の子達はお姉ちゃんに近寄らせないの!」
キリっとした顔で、
「お姉ちゃんの幸せは、あたしが守る!」
宣言するこの子は……知らないんだろうなぁ。
あなたに甘えられて、「仕方ないわね」と言いながら慈愛の笑顔を見せるクールビューティーに、心臓ドッカンドッカン撃ち抜かれている人達が男女関係無く存在することを。
アレよ? 悪役令嬢に、惚れる人続出させてるのあなただからね?
「というワケで、攻略対象の男の子がお姉ちゃんの近くから減るのは歓迎するから、あなたのこと応援するね! それじゃ、がんばってね!」
そう、飛びっ切りの笑顔を見せた彼女は去って行った。
多分……今日も百合の花が舞い散る空間を形成して、悪役令嬢の魅力を最大に引き出して惚れさせるんだろうなぁ。
それにしても……攻略対象。どうしよ?
可哀想な女の子が健気に頑張っている姿しか愛せない……かわいそ可愛いが趣味の野郎か。
言語化して、客観視してみると、リアルの恋人や結婚相手としてはアウトじゃね?
う~ん……マジ、どうしよ?
一応、結婚相手としてはそれなりに魅力的なんだけどなー。
とりあえず、わたしの素を出してみて、それで幻滅されてお別れするなら……その程度の縁とか、好意しか抱いてもらえなかった、と。諦めて別の男引っ掛けるか。
うん、そうしよ!
――おしまい――
読んでくださり、ありがとうございました。
ヒロインちゃんにガルガル威嚇されて、攻略対象達が指を咥えてヒロインちゃんと悪役令嬢なお姉ちゃんがキャッキャウフフしている百合空間を羨ましそうに見ている姿が思い浮かんだので、
『純粋な疑問なのですが、あなたは一生虐げられたいのでしょうか?』の続きを書いてしまった。(/ω\)キャー
暑さにやられている気がしないでもない。
ただ、百合が書きたくなった。そしたら、ヒロインちゃんがお姉ちゃんこと悪役令嬢の魅力を引き出し捲ってなんかモテモテになってしまった。(*>∀<*)
あと、乙女ゲーム系のヒロインちゃんの真似してる中身転生者は、ゲーム通りに攻略が済んでエンディングが終わったあとも、ずっとヒロインなら~という風に考えて生きて行かないといけないって、かなり大変じゃね? と思ったので。
自分の好みを我慢して、ヒロインの皮を被ってヒロインに準じた言動をして、それで落とした攻略対象はヒロインが好きなのであって、中身の転生者の素が出たときにどういう反応するん? と。結婚エンドだとして、素を見せたら幻滅されて嫌われたとしても、それでも死ぬまで人生続くよなぁ……と。
だったら、やっぱり自分の素を好いてくれる人を選んだ方が幸せになれるんじゃね? みたいな?(੭ ᐕ))?
感想を頂けるのでしたら、お手柔らかにお願いします。
おまけ。
元ヒロインちゃん「お姉ちゃん! あのね、あたしすっごいこと聞いたの!」( ≧∀≦)ノ
悪役令嬢「あらあら、どうしたの?」(*´艸`*)
元ヒロインちゃん「お菓子を自分で作れば食べ放題なんだってっ!? お腹いっぱいお菓子が食べれる♪」(*´﹃`*)ジュルリ…
悪役令嬢「う~ん……手作りのお菓子は、素人が作っても多分微妙な味よ?」(´・ω・`)?
元ヒロインちゃん「大丈夫! あたし、お姉ちゃんと作ったお菓子なら、炭でも美味しく食べるショゾンだから!」((`・∀・´))
悪役令嬢「や、炭は食べちゃ駄目でしょ! っていうか、なぜかわたくしも一緒に作る流れになってないかしら?」( ̄~ ̄;)
元ヒロインちゃん「うん! お姉ちゃん、今度一緒に炭焼こうね♪」(。・ω´・。)o
悪役令嬢「あのね、炭を焼いてどうするのよ? 作るのはお菓子のはずでしょ。全くもう、この子ったら……」ε-(´⌒`。)ハァ。。
元ヒロインちゃん「え~? だって、初めてのお菓子作りは大体が、途中でクッキーやケーキから炭が錬成される、錬金術マジックが起こるって聞いたからー」(੭ ᐕ))?
悪役令嬢「多分あんまり間違ってないけど……でも、炭なんてそんな身体に悪いものあなたに食べさせるワケないでしょ! 作るならちゃんと食べられるもの作るわよ!」( ・`д・´)
元ヒロインちゃん「わーい! お姉ちゃんが今度お菓子一緒に作ってくれるって♪」゜+.ヽ(≧▽≦)ノ.+゜
悪役令嬢「ハッ! ついツッコミを入れてしまったわ」Σ(*゜Д゜*)
『虐げられたいのでしょうか?』の方で、お菓子を手作りしたら好きなだけ食べられるよ? との感想を他サイトで頂いたので。(*´艸`*)
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