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 フカの討伐は明日ということになった。討伐のためにいろいろと準備があるらしい。

 そのため午後からヴァイスはホテルのチェックインとフカ討伐のための準備。エマはそのまま支所に残って受付の指導ということになった。


 そう決まったのだが、どうもユーニスは緊張しているらしい。

 まずは雑談から始めようかとエマは顎に手を添えた。


「ユーニスさんはどうして支所の受付に?」

「あの、アタシってドジなので、どこも雇ってくれなくて……そしたら支所長さんがちょうど支所は人が足りないからって」

「そうなんですね。私も支所長にはとてもお世話になったんですよ」

「エマさんもですか!」


 ユーニスの青い瞳がきらきらと輝く。

 ユーニスは人の話がよく聞けて素直ないい子だ。支所長であるデレクのために働こうという気持ちもある。受付にはピッタリの人材だ。

 それなのに自信がない。どうにか自信をつけさせてあげたいのだけれど。

 それは後々の課題として、とりあえずは緊張もほぐれたようなので、基礎から確認していく。


「まず街のギルドと支所との違いですが、支所では冒険者登録はできず、依頼の取り扱いのみ。依頼のランクはFからDまで、で合っていますか?」

「はい。簡単な採取系の依頼が多くて、この辺に住んでるおじいちゃんとかおばあちゃんとか、子どもたちが依頼を受けに来るんです」


 なるほど、支所にはそういう需要があるらしい。エマは頷く。


「じゃあユーニスさんの知り合いも来るんですね」

「知り合いもっていうか、ほとんど知り合いみたいな感じです……だから、みんなアタシがドジしても笑って許してくれてて、あっもちろんドジはなくした方がいいと思ってます!」


 わたわたと手を忙しなく動かすユーニスにエマは小さく笑う。支所の奥ではデレク額を押さえているのが見えた。


「じゃあドジを減らすために、できることをしましょう」

「できること、ですか?」

「はい。これは街のギルドでもやっていることですが、まずは書類の整理が大切です」


 書類が整理されてあることによって、必要な資料を探しやすくなる。資料が探しやすければ、資料を探す時間が削減できてほかの仕事に手をつけられる。つまり、仕事の効率化だ。

 それに書類が整理されていると仕事の優先順位もつけやすくなるし、デスクがきれいだとモチベーションも上がる。簡単なことだけれど大事なことで、忘れがちになる基本的なことだ。


「まず依頼書ですがランク別に分けましょう。そして採取系の依頼なのか、討伐系の依頼なのかでさらに分類します」

「書類……分類……め、メモします!」

「はい、ではゆっくり説明しますね。わからないところがあれば、遠慮なく質問してください」

「は、はい!」







「で、受付の指導はどうやったん」


 ホテルのレストランで夕食を共にしているヴァイスが首を傾げる。

 すずきのソテーにナイフを入れていたエマは、それを切り分けながら口を開いた。


「ユーニスさんは素直な方でしたけれど、やはり街のギルドと支所では勝手が違うので基礎的なことしか話せなくて」


 街のギルドと支所とではその在り方がそもそも違う。つまり、それに合ったやり方というものがある。それを来てすぐのエマが指導なんて、とてもできなかった。


「ですから明日は支所長の計らいで、ヴァイスさんの討伐を見学することになりました」


 今回はいろいろと条件が特殊だけれど、実際に依頼をこなす冒険者を見てみようということになった。冒険者の活動を見て、冒険者への対応をどういったものにするのか学ぶのだ。


「ヴァイスさんは準備の方はどうなりましたか?」


 エマが首を傾げる。ヴァイスは眉根を寄せて声をひそめた。


「……明日はエリオットも来んねん」

「ご領主様もですか」

「必要なもん借りに行ったら討伐を見学したい言われてな」

「……ああ、それは」


 あのエリオットであれば言い出しそうだ。エマは頷く。

 そうすると太刀魚の塩焼きを食べ終わったヴァイスが片目をつむった。


「でもエマが来るんやったら、僕ちっと本気出すわ」

「私がいなくても漁師の方たちは困ってるんですから本気でやってください」

「ええのん? 僕が本気出したらサメやのうて、ドラゴン落とすことになんで」

「……ギルド長が言うと冗談に聞こえないのですが」


 噂でしか聞いたことはないけれど、ヴァイスが冒険者をしていたときにドラゴンを討伐したらしい。本人も冗談のように語るから、エマに真相はわからないままだが。


「でも、気をつけてくださいね。怪我とかしないでくださいよ」

「心配してくれるんや」

「それは、心配くらいします」


 実際のところヴァイスがどれくらい実力のある人なのか、エマは知らないのだ。

 噂と冗談のようなヴァイスの話でしか冒険者時代のヴァイスを知らない。それを明日見ることができる。少し楽しみで、とても心配だった。

 フカというのがどれだけ大きなサメかはわからないけれど、それを討伐することは危険なことに変わりないのだから。


「そういえばご領主様には何を借りたんですか?」

「うーん、せやな……明日のお楽しみ、や」


 ニッとヴァイスが笑う。散々デレクに文句を言っておきながら、すっかりやる気になっているヴァイスにエマは小さく笑った。

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