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冴えない私が輝く星と出会った  作者: 雪見遥
第13章 恋愛は甘いだけじゃない

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第1話 私たちも少しずつ変わっていった

 放課後の空は淡い橙色に染まり、斜めに差し込む陽が雲間を抜けて地面に長い影を落としていた。校門を出る人の波は少しずつ引いて、残ったのは私たち二人だけ。並んで歩く帰り道。


 私は星奈の手を握り、その指先から伝わる体温を感じていた。もう何度も繋いできたはずなのに、いつだって少し緊張してしまう。見慣れたコンビニの前を通り過ぎると、彼女が繋いだ手をくいっと揺らした。


「遥、ねえ……最近、私たちちょっと変わったと思わない?」


 ぱちりと瞬きをして、私は顔を向ける。


「変わった? どこが?」


「んー……例えばさ、前の遥は、私がちょっと近づいただけで顔を真っ赤にして慌ててそっぽ向いてたじゃない」


「今だって……そうだよ……」


 小さな声で呟き、耳の奥までじんわり熱くなる。


 星奈は低く笑って、瞳にいたずらっぽい光を浮かべる。


「でも今の遥は、こうして私と手を繋いで帰り道を歩いてくれるんだもん」


 顔を俯け、前髪で赤くなった顔を隠そうとする。


「それは……もう慣れたからだよ」


「え? つまり、もう私に慣れちゃったってこと?」


 わざと傷ついたふりをして言うけれど、その目は笑いを隠せていなかった。


「そういう意味じゃなくて……ただ……一緒にいる時間が長くなると、もっと近くにいたいって思うんだ……手を繋ぐだけでも」


 声はどんどん小さくなり、最後はほとんど消えそうだった。でも彼女にはちゃんと届いていた。星奈は私の指をもう一度揺らし、表情を柔らかくほころばせる。


「私も同じ。ほんの一緒に歩くだけなのに、遥が手を繋いでくれる瞬間をいつも密かに待ってるんだ」


 風が枝を揺らして、葉がさらさらと音を立てる。それはまるで、私たちの会話を祝福する拍手のように聞こえた。


「でもね、本当に遥は変わったと思うよ」


「ど、どこが……?」


「前より自信がついたし、勇気も出せるようになったし……それに、前よりもっと私をドキドキさせるようになった」


「ど、ドキドキって……」


 恥ずかしさで穴があったら入りたい気分だったのに、星奈はそんな私の反応を見逃さず、ますます楽しそうに笑っていた。


「私は勇敢になったわけじゃなくて……好きだから、勇気を出したいって思えるだけだよ」


 夕暮れの光が堤防に反射して、淡くきらめく。星奈はふと立ち止まり、遠くの夕陽を見つめていた。


「知ってる? 昔の私は、『恋愛』ってものがどこか不安で……誰かに見られるのも、失うのも怖かった。でも君と一緒にいるうちに思ったんだ……星奈なら、もう何も怖くないって」


 振り向いた私の視線が、ちょうど彼女の真剣な瞳と重なる。


「私も同じ。今まで、誰かに本当に好きになってもらえるなんて思ったことなかったし、誰かのためにもっと頑張りたいなんて思える自分になるなんて、想像もしてなかった」


 星奈は私の手を握りしめ、まるで信じさせたいみたいにその力を少し強めた。


「ねえ遥、私たちが一番変わったところって、どこだと思う?」


 少し考えてから答える。


「『私』じゃなくて、『私たち』のことを考えるようになったことかな。前は自分のことばっかりだったけど、今は……相手のことを思って、一緒に向き合いたいって」


 星奈はそれを聞いて、ふわりと微笑んだ。


「じゃあその変化を、このまま少しずつ続けていこうね」


 二人で歩き出す。夕陽が影を長く伸ばし、並んで地面に寄り添わせる。それはまるで、私たちがしっかり手を繋いでいることを映しているみたいだった。


 分かれ道に差しかかる直前、星奈がふいに立ち止まった。


「ちょっと待って」


「ん?」


「今日の勇気のごほうび」


 反応する間もなく、星奈はあたたかな気配をまとってふわりと顔を近づけてきた。次の瞬間、彼女は私の額にやわらかなキスを落とした。


 その場で固まってしまい、心臓は一気に乱れ打ち、頬は熱気が噴き出しそうなほど真っ赤に染まっていた。


「せ、星奈……」


「えへへ〜だって遥が言ったでしょ? もっと勇気を出すって」


 茶目っ気たっぷりに笑うその顔は、さっきまでの照れなんて微塵もなかった。そしてひらひらと手を振る。


「じゃあね、遥。また明日」


 言葉を返す前に、星奈はくるりと背を向け、小道を駆けていく。夕陽がその後ろ姿を金色に染めていた。


 私はまだその場に立ち尽くしたまま、そっと額に手を当てる。掌に残るのは彼女の残したぬくもり。気づけば口元はどうしても緩んでしまう。


 ——もしこれが、恋をして変わった私たちの姿なら。私は願う、この変化が少しずつでも、ずっと未来へ続きますように。

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