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冴えない私が輝く星と出会った  作者: 雪見遥
第12章 昨日より、もう少しだけ君が好き

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第16話 もう一度、この想いを伝えたい

 放課後の帰り道、私たちは手を繋いで、ゆっくりと歩いていた。


 夜の帳はすでに降りて、街灯がひとつ、またひとつと灯りはじめる。それはまるで私たちのためだけに輝く小さな星みたいで、柔らかな黄の光が影を長く伸ばし、地面に落ちたそれらをしっかりと絡み合わせていく。その光は、十指をしっかり絡めた私たちの手にも降り注ぎ、そっと温かな印を押してくれるようだった。


 私はまた、何度も彼女を盗み見てしまう。


 神崎星奈。かつては遠く手の届かない、心の中でこっそり想うだけだった人。人混みの中でひときわ輝いていて、眩しくて直視できなかったその彼女が——今は、こうして私の隣にいる。手を握ってくれて、話を聞いてくれて、私に笑いかけてくれる。


「……どうしたの?」


 星奈がふいに顔を向け、小さな悪戯を含んだような笑みを浮かべる。その瞳の奥には、ただひたすらに優しさが満ちていた。


「ずっと、私のこと見てたでしょ」


「み、見てない……!」


「ん〜? 嘘つくときの遥って、声が小さくなるんだよね」


 星奈が瞬きをして、からかうような声色にほんのり甘さを混ぜる。その一言は、私の胸に砂糖をひとつひとつ落としていくようで、気づけば心は甘さでいっぱいになっていた。図星を刺され、頬は一気に熱くなり、耳の先まで真っ赤になってしまう。恥ずかしさに耐えきれず、視線を逸らした。


 やがて私たちは、川沿いの土手へと辿り着き、自然と足を止める。水面から吹く風が夜気を運び、広がる闇は私たちだけの柔らかな毛布のように辺りを包み込んでいた。


 私は深く息を吸い込み、胸の奥を何かにそっと抱きしめられたみたいにぎゅっと締めつけられながらも、勇気を振り絞って口を開く。


「星奈」


「ん?」


 顔を傾けた星奈の瞳に月明かりが映り込み、細やかな光がきらきらと瞬く。それはまるで、彼女の瞳の中に満天の星が宿っているかのようだった。


「もう一度……告白したいの」


 星奈の目がぱちりと大きく開く。驚いたような一瞬の間。そして、堪えきれないといったふうに、ゆるやかに口元がほころんでいく。


「え〜もう恋人なのに、また告白? 欲張りだなぁ」


「……わかってるよ」


 声は少し震えて、手のひらには汗がにじむ。それでも私は真っ直ぐに彼女を見つめた。


「でも……好きって気持ちは、一度言えばそれで終わりってものじゃないと思うの。だって、今の私の『好き』は、あのときよりずっと大きいから」


 彼女はじっと私を見つめ、その瞳の光を少しずつあふれさせていく。その柔らかさは、見ているだけで心まで溶けてしまいそうだった。


「星奈……私、本当に君が好き。昨日よりも、そして君が初めて告白してくれたあの時よりも、もっと確かに」


 言い終えた瞬間、緊張でほとんど息ができなくなる。ただ、目を大きく見開いたまま彼女を見つめ、私のすべての想いを賭けるように。


 星奈はすぐには答えなかった。ただ長い間、私の顔をじっと見つめ、表情を丁寧に読み取るように。そして、ゆっくりと両腕を伸ばし、優しく、けれどしっかりと私を抱きしめた。


「……遥」


 耳元で響くその声は、とろんと甘くて柔らかく、まるで恋人だけに許された呪文みたいだった。


「どうしよう、私も……もっと好きになっちゃったみたい」


 肩口に顔を埋めて、甘ったるくて胸がくすぐったくなるような声で続ける。


「好きすぎて……毎日、君がどれだけ私を好きか確かめたくなっちゃう」


 彼女の息遣いが、服越しに伝わる鼓動と一緒に胸に染み込んでくる。その鼓動は規則正しいのに少し早くて、まるで私のせいで慌ててしまっているようだった。


 喉が乾いて、私の声は風みたいに細くなる。


「じゃ、じゃあ……また確かめよっか」


 星奈は一瞬きょとんとしてから、ふっと笑みをこぼす。その声には笑いを含んだ震えが混じり、瞳は私を丸ごと飲み込んでしまいそうなほど輝いていた。


「じゃあ……もう一回、キスしてもいい? この『好き』を……全部、もう一度遥に伝えたい」


 胸の鼓動はもうめちゃくちゃなのに、私は小さく、彼女だけに聞こえる声で頷いた。


「……うん。私も、この想いを返したい……どれだけ好きか、わかってほしいから」


 星奈の手が私の頬をそっと包む。その掌の温もりは、まるで私の心を丸ごと包み込むようだった。彼女はゆっくりと近づき、その息が少しずつ重なっていく。彼女の匂いが混じり合い、私は瞬きをするのも惜しくなる。


 そして——唇が触れ合った。


 それは初めての時よりも深く、より甘く、恋人としての想いがぎゅっと詰め込まれたキスだった。星奈はもうあの時みたいに恐る恐るではなく、少しの欲張りを含ませながら、ようやく手に入れた自分だけの宝物を、何度でも確かめて、何度でも抱きしめるように。彼女の唇はやわらかく、逃げ場を与えない優しさで私を押し留め、まるで私を丸ごと彼女の世界へと溶かし込んでいく。


 月明かりが静かに私たちを照らし、川の水音がさらさらと響く。風が髪をすくい、絡め合わせていく。それでも私の心は驚くほど穏やかで、混乱のかけらもなく、ただ強く抱きしめられる確かな感触だけがあった。


 この瞬間、世界には私たちの呼吸と鼓動だけが残り、そして絶え間なく、深まっていく——「好き」という想いがあった。

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