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冴えない私が輝く星と出会った  作者: 雪見遙
第2章 初めての会話後、二人の交流
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第5話 私の気持ちは彼女に見抜かれていた

 休み時間、私は廊下に立ち尽くし、手のひらにじんわりと汗が滲んでいた。


 ただの食事の誘いなだけなのに……どうしてこんなにも心臓がバクバクしてるの!?


「ごめんね、遙。明日もまた他の子とお昼食べる約束しちゃった。」


 黒羽が申し訳なさそうに言う。


「大丈夫、一人でも平気だよ。」


 私は気にしていないふりをしながら答えたけど、心の中では迷いが生まれ始めていた。


 ……もしかして、これは神崎さんを誘うチャンスなんじゃ?


 彼女は今まで何度も私を誘ってくれたけど、その理由はまだ分からない。だけど、誘うくらいなら問題ない……よね?


 でも、本当に声をかけていいの?


 もし断られたら? それとも、ただの社交辞令で私を誘っていただけだったら……?


 考えれば考えるほど不安になり、気づけば私は無意識に顔を上げ、神崎さんの姿を探していた。


 案の定、彼女はすでに席を外していた。私は廊下へと歩き出し、視線を彷徨わせる。すると、窓際で友達に囲まれている彼女の姿が目に入った。


 楽しげな笑い声が響き、彼女はいつもの優雅な仕草で微笑みながら会話を交わしている。


 まるで、その光景が彼女にとっては当たり前の世界であるかのように。


 ——すごく、眩しい。


 ……だけど、その光景が私の足を止めた。


 ほんの数メートルの距離。勇気を出して彼女の名前を呼べば、きっと振り向いて、あの柔らかい笑顔を向けてくれるかもしれない。


 だけど、もし周りの子たちが変な目で見てきたら?


「この子、なんで神崎さんに話しかけてるの?」って思われたら……?


 そんな想像をしただけで、胸が苦しくなった。


 結局、私は何もできないまま、チャイムが鳴るのをただ待つことしかできなかった。


 席に戻ると、後悔でいっぱいになった。


 ——ただの食事の誘いなのに、なんでこんなにも勇気が出せないの?


 ***


 授業中、トイレに行きたくなった私は、先生に許可をもらい、教室を出た。


 用を済ませて手を洗い、ドアを開けた瞬間——


 目の前に、神崎さんが立っていた。


 腕を組み、じっと私を見つめる瞳には、どこか楽しげな光が宿っていた。


「……え?」


 驚いて固まる私に、彼女は軽く微笑む。


「先生に頼まれて教材を取りに行く途中でね、ちょうど見かけたから。」


 彼女は目を細め、まるで私の反応を楽しむかのように、軽やかな声で続けた。


「ねえ、さっき……私に何か言いたそうだったよね?」


「えっ!? な、なんのこと?」


 私は慌てて視線を逸らした。顔が熱くなっていくのを感じる。


「へぇ?」


 彼女が一歩、近づいてきた。


「じゃあ、どうしてさっき廊下でずっとこっち見てたの?」


「み、見てないし!」


「本当に?」


 突然、彼女の手が私の手首を掴み——次の瞬間、ぐいっと引っ張られた。


「えっ、ちょ、えええええ!?!?」


 気づけば、私は洗面所の個室に引き込まれていた。


 ——ちょっと待って、え、これどういう状況!?


「ちょっ、何して……!」


「廊下だと目立つでしょ? ここなら邪魔も入らないし。」


 彼女は軽く肩をすくめ、まるで些細なことのように言うと、ドアをしっかり閉めた。


 狭い空間に、二人きり——


 ……ちょっと、心臓の音、大きすぎない!?


「……と、とにかく、誤解だよ! 本当に何も——」


 後ろに下がろうとした瞬間、壁際に追い詰められた。


「逃げるの?」


 ——壁ドン!?!?!?


 私の両肩のすぐそばに、彼女の手が添えられる。


「さっきのこと、ちゃんと説明してくれたら解放してあげる。」


 彼女の声は優しく、だけどどこか意地悪そうな響きを帯びていた。


 彼女の顔が近い。


 近い、近い、近い……!!


 さらりと揺れる髪の香りがふわりと鼻をかすめ、息をするのも苦しくなる。


「もし、まだ誤魔化すなら……」


 彼女がさらに顔を近づけた。


 耳元に吹きかかる温かい息——


 ——これ、ヤバくない!?!?!?


「わ、分かった! 言う! 言うから!!!」


 私はもう耐えきれず、叫んでしまった。


「……実は、明日一緒にお昼、どうかなって思ってて……」


 彼女はそれを聞くなり、満足げに微笑んだ。


「ふふっ、最初からそう言えばいいのに。」


「で、でも……ほら、いつも周りに人が多いし、声かけにくくて……。」


 小さな声でそう打ち明けると、彼女は一瞬驚いたように瞬きをした。


 そして——


「ばかだなぁ。」


 彼女はクスッと笑いながら、私の頭をポンポンと撫でた。


「友達でしょ? 遠慮なんてしないで、普通に話しかけてくれたらいいのに。」


 その言葉が、じんわりと胸に沁みていく。


 ——私たち、もう「友達」なんだ。


「じゃあ、明日12時半、屋上ね。」


 そう言い残し、彼女は颯爽と個室を出ていった。


 私はその場に残り、ぼんやりと彼女の背中を見送る。


 心臓の鼓動は、まだ落ち着かない。


 ……明日、神崎さんとお昼を食べるんだ。


 じわじわと広がる期待感が、心を温かくしていくのを感じた。

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