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冴えない私が輝く星と出会った  作者: 雪見遥
第12章 昨日より、もう少しだけ君が好き

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第4話 部屋でのデート

 週末はあっという間にやって来た。天気は意外にも快晴で、カーテンの隙間から射し込む陽射しが部屋中に柔らかな光のヴェールを落としていた。


 私は朝早くからベッドを飛び起きて、まるで儀式を迎えるかのように慎重に身支度を整えた。


 今日の服装は数日前から考えて準備しておいた「たぶんセンスは悪くないはず」のコーディネート。白い細編みの短丈ニットに、淡いブルーのデニムパンツを合わせて、カジュアルすぎず気取りすぎないバランスを狙った。さらに繊細なパールのヘアピンで髪をハーフアップにして、ちょっとだけ耳を見せる。シンプルだけど、ちゃんと可愛く見せたい——これが私の「ナチュラルだけどちゃんと頑張ってる」全力のライン。


 部屋もぴかぴかに掃除しておいた。床はツヤが出るほど拭きあげ、机の上は几帳面に並べた文具や小物がまるで見本のように整然としていた。さらに柚子の香りのキャンドルを焚いて、ほのかな清香が「ようこそ」のサインのように空気を満たしていた。


 パソコンデスクの横には、二人で遊ぶ用のゲームも用意してあった。ひとつはレースゲーム、もうひとつは可愛いキャラクターの協力型クッキングゲーム。どちらも私がやり込んでいて、たぶん星奈も気に入ってくれるだろうって思えるセレクトだ。


 チャイムが鳴った瞬間、ほとんど椅子から跳ねるようにして玄関へ走っていった。


「いらっしゃい、ようこそ〜」


 まだ私が声をかける前に、お母さんが先に満面の笑みで出迎えてしまった。その笑顔はまるで説明会の保護者代表みたいに熱烈だった。


「お邪魔します、初めまして。神崎星奈です」


 星奈は礼儀正しく軽く会釈し、柔らかな声で、整った笑みを浮かべた。今日の服装はハイネックのニットに淡いグレーのコート、そしてプリーツのロングスカート。冬の陽だまりみたいに明るく柔らかくて、思わず目を離せなくなるほどだった。


 お母さんは星奈を家に上げながら、すぐに打ち解けた様子で話しかけた。


「遙と同じクラスなんだよね? すっごくきれいな子だね、クラスでも人気者なんじゃない?」


 私は内心で全力警報を鳴らした。


「ママお願いだから余計なこと言わないで!!」


 でも星奈は全く動じずに、にっこりと微笑んで「ありがとうございます。確かにクラスでは友達は多いほうだと思います」と穏やかに受け流した。


 しかしお母さんはそこからさらに踏み込んで、ちょっと悪ノリしたように聞いた。


「で、彼氏とかはいるの?」


 その瞬間、私は固まった。ママ、それは直球すぎるってば!!


 私はもうその場で蒸発したくなるくらい恥ずかしくて、「うわあああああああああママお願いやめてえええええ!」って心の中で絶叫してた。


 それなのに星奈は全然慌てず、むしろ柔らかく笑ったまま、少し含みを持たせた声でこう答えた。


「好きな人はいますよ」


 心臓が一拍遅れてドクンと鳴った。顔が一気に熱くなって、頭の中が真っ白になる。星奈は私を見なかったけど、その言葉は私に向けられたものだって分かってしまった。


 思わず横目でそっと覗くと、彼女は涼しい顔をしていたけど、その目尻には彼女自身も気づいていないような小さな悪戯っぽさがきらめいていた。


 お母さんは最後までテンション高く「じゃあ、ゆっくりしてね。何かあったら言ってね〜!」と明るく送り出してくれて、ようやく私たち二人きりの時間が始まった。


 頭の中はさっきの「好きな人がいる」発言でまだオーバーヒートしたまま。今週末はきっと、心臓が溶けそうなくらいドキドキしっぱなしになるんだろうな。


 部屋に入ると、星奈は素直に私のパソコンチェアに座って、嬉しそうにくるっと一回転。その間に私は急いで階段を駆け下りて、ママが用意してくれたお菓子を取りに行った。


 キッチンで、お母さんは皿を並べながら、私の耳元にそっと顔を寄せて声を潜めた。


「あんたの友達、すごく品があるね、しかもすごい美人じゃない」


 その瞬間、私の耳まで一気に真っ赤になって、さっきより心臓が速く打ち出すのを感じた。何とか絞り出すようにして返事をした。


「べ、別に……まあ、そういう感じ……かな……」


 お菓子を持って部屋に戻ると、いよいよ今日のメインイベント——二人用ゲーム対決が始まった。


 うちのパソコンチェアは一人用だから、今日は朝からわざわざもう一脚運び込んでおいた。そのおかげで座ったときの距離は、腕一本ぶんくらいしか離れてない。お互いの呼吸が聞こえそうで、でもちゃんと一線は保っている——そんな妙にくすぐったい距離感。


 ゲームのメニュー画面が点灯した瞬間、私は完全にスイッチオン。指が勝手に動くみたいに、キャラ選択、コース決定、設定調整まで30秒もかからず完了。


 星奈はまだキャラクター選択画面で迷子になっていた。


「え、ちょっと待って、なんで遙はもうキャラ決まってるの?」


「このゲーム、私めちゃくちゃやり込んでるからさ、キャラもアイテムも全部覚えてるんだよ。もう選ぶのなんて呼吸するみたいに自然」


 私は思わず得意げに笑って、わざと彼女にウインクしてみせた。


 彼女はコントローラーを見つめて、無邪気に肩をすくめた。


「私なんか帽子選ぶだけで十秒かかったんだけど! この衣装めっちゃ可愛くて決められないんだってば!」


 そしてレース開始——開始十秒で星奈の車は三回壁にぶつかり、さらに間違えてバックギアを踏んで逆走。


 私は猛スピードでトップを独走しつつ、画面の端で彼女の動きを見て笑いをこらえるので必死。


「ちょ、なにこれ!? なんでバナナ踏んだらそのまま崖下に落ちてるの!?」


「いや、前見てなかったからでしょ……」


「嘘、これ絶対仕掛けたでしょ!? あのバナナ絶対わざと置いたでしょ!」


「うん、私のだよ。しかも星奈が通りそうなカーブにわざわざ設置した〜」


 わざと平然とした声で言いながら、笑いがこみ上げるのを必死で押し殺す。


「遙ほんとに意地悪だな〜! こんなに可愛い顔して、実はドSなんじゃないの?」


 そう言いながら、彼女は急に距離を詰めてきて、耳元に低く囁くような声でイタズラっぽく挑発してきた。


「ねえ、遙がゲームしてるときのその真剣な顔、めっちゃ……ドキドキするんだけど」


 まるで奇襲を受けたみたいに、全身が一瞬で真っ赤になる。耳なんか燃えそうに熱くなって、手元の操作もパニックでミスりそうになる。


「ほ、ほら星奈っ……!」


 思わずにらみつけたけど、声には全然迫力がなくて、むしろ情けなく震えていた。


「え~私、ただ本当のこと言っただけだよ?」


 星奈は無邪気に首をかしげて笑って、ウインクまでしてみせる。その顔はまるで「これくらい恋してたら普通の攻撃でしょ?」って言ってるみたいだった。


「それは……ほんとに反則だから……」


「わ、ちょっと待ってまた落ちた! このコース罠みたいな穴ありすぎでしょ、ああああ——!」


 私はもう笑いすぎて前のめりに身体を折りながらも、手元はしっかり安定していて、そのままゴールイン。もちろん圧倒的1位。


 星奈は11位でゴールしながらも、勝ち誇ったようにコントローラーを高く掲げて言った。


「ねえ見て、今回ビリじゃなかったよ! 進歩したでしょ!」


 私は思わずおでこを手で押さえたけど、心の中はあったかくて、まるでホットココアを一口飲んだみたいに甘くなっていた。


「次はこれやる? 二人協力の料理ゲーム。星奈は調理担当、私はオーダー出す側ね」


「いいよ~でも多分、私すぐにキッチン爆破する自信ある!」


 そして実際、爆発した。ゲーム始まってまだ3ステージ目なのに、星奈は鍋持ったままマップ中を全力疾走。


「なんで自分がどこにいるのかわかんないの? 私どこ?」


「キャラの下に緑の丸がついてるでしょ、それが星奈のだよ」


「トマト、トマトどこで切るの!? 私が持ってるのは玉ねぎ? それともボウル? あああ……鍋が丸ごと燃え上がってる!?」


「早く消火器使って、消火器どこ!」


「ちょっと待って、間違えて炊飯鍋ゴミ箱に捨てちゃった……」


 私はもうコントローラー置いて机に突っ伏して、涙出そうなくらい笑い転げた。


 彼女もお腹押さえながら息を切らして笑ってて。


「もう私ほんとゲームセンスないの認めるよ! でもさ、遙を笑わせるのは得意でしょ?」


 そう言いながら、ちょっとだけ距離を詰めて、声を甘く落として囁くみたいに言った。


「……それとも、私がドジな方が好き?」


 心臓が一瞬止まりかけて、顔がまた一気に真っ赤になる。もう破裂しそうで、思わず両手で顔を覆って首を振った。


「そ、そんなこと言ってないってば……!」


 星奈は大満足の笑顔を浮かべて、まるでイタズラ成功した子狐みたいな目をしてた。そのまままたトマトをぐちゃぐちゃに刻んだり、生肉を真っ黒に焦がしたり、キッチンが炎上してアラーム音が鳴り響く。


「このゲームマジで難しいんだけど、これ絶対カップルの相性テストだよね?」


「だったら……私たち、満点合格かもね」


「うん、でも実際は遙がキャリーしてくれたからだよ〜」


 彼女はそう言いながら大きく伸びをして、そのまま自然に身体を寄せてきた。肩がそっと触れる。


 ゲームの楽しげなBGMが部屋に響き続ける中で、彼女が寄りかかってきたその瞬間、私の世界はまるで二人だけを包む泡の中に閉じ込められたみたいになった。


 たぶん、これが恋愛ってやつなんだろう。うるさくて、笑えて、ちょっとぐちゃぐちゃで、それでもどうしようもなく幸せ。たった一つのゲームなのに、こんなにも甘くなるなんて思わなかった。


 時間はコントローラーを握る手と笑い声の中で静かに流れていった。結局どこにも出かけなかったのに、今までで一番「デート」って言える時間だった。


 その日の午後の日差しは、いつもよりずっと柔らかかった気がする。窓の外の風も笑い声を運ぶのをやめて、ただ耳を澄ませているみたいに静かで、私たちの笑い声だけが何度も何度も空気の中で弾けて広がっていった。


 こんなに甘ったるい幸福を感じると、思わず思ってしまう。別に何もしなくてもいい。今日、星奈が私の部屋に来て、私の隣で笑いながらからかってくれるだけで、それだけでも一生の思い出になるって。


 だってどこに行くかなんてどうでもいい。彼女と一緒にいられるその一瞬一瞬が、すでにこの上なく幸せなデートなんだから。

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