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冴えない私が輝く星と出会った  作者: 雪見遥
第12章 昨日より、もう少しだけ君が好き

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第3話 週末に彼女がうちに来る

   今日のお昼も、私たちはいつものように屋上でお弁当を食べていた。陽だまりが床にぽかぽかと広がり、風はそれほど強くなかったけれど、ときどき星奈の前髪をふわりと揺らしていた。今日のお弁当には、私が彼女のために特別に作った卵焼きが入っていて、彼女はそれをとても満足そうに頬張っていた。


 ふとしたきっかけで、週末のデートの予定について話が及んだ。


「最近、いろんな場所に行ったからさ……」


 私はおにぎりをかじりながら眉をひそめて考え込む。


「また行きたいって思えるところ、今のところ特に思いつかないんだよね」


「じゃあ——」


 彼女は突然箸を置き、にこっと笑って私を見た。その目には、どこかいたずらっぽい光が宿っていた。


「今度は、私がそっちの家に遊びに行ってもいい?」


「えっ? うちに来るの?」


 私は思わず味噌汁でむせそうになり、声が一段と高くなってしまった。


「うん、本気で言ってるよ」


 彼女は当然のように言って。


「一緒にゲームしようよ。前に言ってたじゃん、ゲーム好きだって。ジャンル問わず何でも詳しいって。今回は私が観客になる番だね〜もっと君のこと、知りたいんだ」


 私は一瞬言葉を失い、頭の中に自分の部屋の光景がよぎった——散らかり放題の床には前回脱いだままの私服、机の上には教科書やゲームソフト、開けかけのお菓子の袋があちこちに散乱してるし、パソコンの椅子なんて一人分しかスペースがない……それに、日曜はいつもママが家にいる。しかも、やたらと話が長い。


「行けなくは……ないけど」


 私はどもりながら言った。


「部屋、本当に散らかっててさ。それに……ママもいるし……本当に気にしないの?」


「もちろん気にしないよ」


 彼女はさらに笑顔を深めて、目をくしゃっとさせた。


「だって、相手はハルカのお母さんでしょ? ちょうどいいじゃん、ついでに……ご挨拶ってことで、プチ家族紹介みたいな~」


「ちょ、ちょっと待ってよ! いきなりイベントの難易度上げないで! 心の準備なんて、まだ全然……」


 私は顔が真っ赤になって、手に持った箸まで滑り落としそうになった。


 彼女は私のうろたえる姿を見て、ただそっと笑った。まるで、最初からこの反応を予想していたかのように。その笑顔は、優しさとちょっぴり小悪魔な可愛さが入り混じっていた。


 私は視線を伏せて、少しだけ肩を落とした。でも、その口元はどうしても緩んでしまう。


 週末のデート、どこに行こうかと悩んでいたのに、彼女はあっさりと「じゃあ、そっちの家に行くね?」なんて言い出して……。それだけのはずなのに、どうしてこんなにも心がざわつくんだろう。


 ……わかってる。私は、きっとOKする。


 ***


 家に帰ってから、着替えながらどう切り出そうかと心の中で言い回しを練っていた。キッチンに入ると、お母さんは鼻歌まじりに食器を洗っていた。


「ねえ、ママ。今週末さ……友達がうちに遊びに来たいって言ってるんだけど、いい?」


「もちろんいいわよ」


 彼女は顔を上げずに言った。


「そのとき、ちょっとしたおやつでも用意しようかしら。黒羽ちゃん?」


「ううん、違うの。前にうちに来たことない子なんだ」


「そうなの? その子のこと、ちょっと興味あるわね。あなたの新しいお友達だし、いろいろ知りたいなあ」


「うわっ! お願いだから、あんまり張り切らないでよね!? 質問攻めとかほんとやめて! 相手が困っちゃうから……!」


「わかってるわよ〜」


 彼女は笑ったけれど、その声の調子からして、本当にわかってるのかはかなり怪しかった。


 私は心の中で小さく悲鳴をあげながら、またもや自分の部屋の光景が脳裏をよぎった。散らかり放題の机、しまい忘れた服、そして一人しか座れないパソコンチェア……。


「部屋、ほんとに散らかってるし……パソコンの椅子も小さすぎるし……それに、ママの話題爆弾もあるし……」


 心の中で小さく叫ぶ。


 それでも、私はその気持ちを変えようとは思わなかった。だって、これは——胸がドキドキするような特別な誘いだって、わかっていたから。そして私は、本気で彼女にもっと自分を見せてみたいと思ったから。


 たとえ、家族に紹介するにはまだ早くて。たとえ、部屋の掃除が終わっていなくても。せめて、ほんの少しだけでも、勇気を出してみたい。


 この「好き」という気持ちを、私の日々の空気に混ぜていく。その第一歩として、彼女に、あのぎゅうぎゅうのパソコン椅子に座ってもらうだけでもいい。玄関で靴を脱ぐ、ほんの数秒でもいい。そんな短いひとときのなかに、「あなたのために空けておいた場所」があることを、感じてほしいんだ。


 たぶん、まだ完璧にはほど遠い。でもこの気持ちは、すごく、すごく真剣で、あたたかい。

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