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冴えない私が輝く星と出会った  作者: 雪見遥
第10章 付き合いたての甘くてとろける日常

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第3話 ふたりだけの詩

 付き合い始めてからというもの、当たり前だったはずの学校生活が、どこか少しずつ変わってきた気がする。


 ここ数日、私たちは一緒に登校して、一緒に下校している。歩く道は以前と何も変わらないのに、隣にいる星奈の存在だけで、空気まで甘く熱を帯びて感じる。


 授業中だって、なんだか前とは違う。三時間目は国語の時間。先生が教壇に立って教材をめくりながら、いつも通りの落ち着いた声で話している。私は窓際の席に座って、教科書に線を引くふりをしながら、手元のペンを紙の上で何度も往復させる。でも、私の意識の半分はもうとっくに、斜め後ろの星奈に向かっていた。


 窓の外から差し込む陽射しが、ちょうど星奈の横顔を照らしていた。ノートにペンを走らせる彼女の睫毛がふるふると揺れるその様子は、教科書のどんな詩よりも美しく感じられた。


 見ちゃだめ、見ちゃだめ。そう自分に言い聞かせるのに、視線は勝手に彼女の方へ引き寄せられてしまう。そして、ちょうどそのとき、私たちの目が合った。


「……」


 まるで悪いことをした子どもみたいに、私たちは同時にぱっと目を逸らし、何事もなかったように俯いた。


 すると次の瞬間、私の背中が軽くトン、と突かれた。振り向くと、星奈がちょこんと首をかしげ、口元をふわっと弧を描くように笑っていた。


 彼女は唇だけを動かして、私に問いかけた。


「今、なんで私のこと見てたの?」


 私は顔を赤くしながら、慌てて教科書の余白にこう書いた。


「見てないよ。たまたま目が合っただけ」


 そのノートを彼女の方へそっと向けると、彼女はちらっと一瞥してから、手の甲で口を隠しながら、肩を震わせて笑った。


 今度は彼女が自分の教科書に何か書いて、それを私の方へ向けた。


「うそ。すっごく可愛い顔して見てたよ」


 ……ドクン。


 一瞬で顔が真っ赤になって、耳の奥まで熱が上った。先生の声なんてもう何一つ耳に入ってこなかった。


 昼休みになると、私たちはいつも天台へ向かう。ひとりが弁当を、もうひとりが飲み物を持って、自然と歩幅を合わせながら階段を登っていく。


 陽の光が差し込むなか、地面に並んで座って、取り留めのないことを話す。今日学校で起きた小さな出来事、くだらない話に笑い合う時間。時々、彼女が玉子焼きをつまんで、にこっとしながら私の口元に差し出してくる。私が口を開けるまで絶対に離してくれない。


「おいしい?」


「……うん」


「じゃあ、もう一口」


 笑い声が微風に乗ってふわりと広がっていく。お昼のひとときが、ほんのりとした幸福の色に染まっていく、そんな気がした。


 教室に戻るとき、私たちはいつも少し間を空けて教室へ入る。まるで、あまりにも親しい関係を周囲に悟られないようにと、わざと距離を保っているかのように。でも、いつからだろう……私たちの席も、気づけば少しずつ、知らないうちに近づいていた。


 星奈は、私が気づかない隙を見ては、こっそりと私の机の引き出しに飴を数個入れてくる。ときには、小さく折りたたまれたメモまで添えられていることもある。


「この飴を食べ終わったら、屋上で待ってるね。」


 授業中、私たちは平然を装って席についている。先生の声が前から聞こえ、教室にはシャーペンの芯が紙を滑る音とページをめくる音が交じり合っている。すべてがいつも通りのはずなのに、誰も気づかないまま、私たちの瞳にはある微かな輝きが宿っていた。


 ふと目が合った瞬間、言葉はないのに、まるで何かの合図を聞き取ったように感じる。周りの友達が近づいてくると、私たちは自然に距離を取る。星奈は背筋をぴんと伸ばして、メモをさりげなくペンケースにしまい、私はノートに目を落とし、何事もなかったようにページを繰る。でもその後、私たちはまたそっと、もう一度だけ目を合わせる。


 星奈は少しだけ口角を上げて、まるで「ちゃんと見てたよ」って囁くように微笑む。


 私はそんな彼女に、思わず笑みを返してしまう。「私も、見てたよ」って、何も言わずに。


 言葉なんてひとつも交わしていないのに、気持ちはもう、とっくに隠しきれずにあふれ出していた。


 私たちの秘密は、視線の中で静かに行き交う。それはまるで、二人で編んでいる恋の詩みたいに、音もなく教室の空気に溶け込んでいく。


 恋をしていると、どんな瞬間も特別になる。ただ静かに教室で座っているだけなのに、何も話していないはずなのに――星奈がそばにいてくれるだけで、この世界は眩しいくらいに輝き出すんだ。

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