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冴えない私が輝く星と出会った  作者: 雪見遥
第6章 交差する告白、鼓動の行き先

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第3話 祝勝会

 試合が終わったあとも、チーム全体の熱気はまだ冷めなかった。逆転勝利の興奮が身体に残ったまま、私たちは自然と輪になり、グラウンドの端で口々にさっきのプレーを語り合った。


 誰かはパスコースを大きな身振りで再現し、誰かはキーパーのミスを顔真似で笑わせ、そしてまた誰かは、私のゴールシーンを大げさに演じてみせる。


「ねえねえ、さっきのゴール、どうやって蹴り込んだの!?  マジ神!」


「それにあのコーナーキック! 絶対外すと思ったのに、まさかそのまま決めるなんて!」


「正直さ、心臓止まるかと思った……あんなの刺激強すぎでしょ〜!」


 ひとつひとつの言葉に熱と笑いが混ざり、まるで花火みたいに夕暮れのグラウンドに弾けていく。私たちが積み重ねてきた日々に、最高の句点を打つように。


「みんな、本当にお疲れさま」


 高橋先輩が前に立ち、声は大きくないけれど力強く響く。笑顔には誇りが宿っていた。


「今日の勝利を祝って——今夜は打ち上げだ!」


「イェーーイ!!」


 その瞬間、グラウンドいっぱいに私たちの歓声がこだました。


「で、どこで祝うんですか?」


 誰かが弾んだ声で聞く。


「まずはご飯だね!」と高橋先輩。まるで最初から準備していたみたいに自信満々な口調。


「雰囲気もいいし、料理も美味しい店があるんだ。食べたあとカラオケ行くのはどう?」


「賛成ー!」


「俺、からあげ頼む!」


「私はカレーライス!」


「歌うときは団体曲な! 一人だけ独唱は禁止!」


 こうして、空が少しずつ茜色に染まっていく中、私たちは笑い合いながら打ち上げ会場へと向かった。


 温かみのある灯籠とサッカーボールの旗が外に掛かっている、アットホームな雰囲気のレストラン。見た目は居酒屋に近かったけれど、制服姿の高校生に合わせてメニューはノンアルコール飲料と熱々の家庭料理ばかり。


 私は壁際の長テーブルに腰を下ろし、鞄を置いたところで——「ドン」と隣の椅子に高橋先輩が腰を下ろした。


「今日の活躍、ほんっとに最高だったよ、遥」


 彼女は肘で私の腕を軽く小突きながら、悪戯っぽい笑みを浮かべる。


「あ……い、いえ……みんなの連携が良かったからで……」


 顔が熱くなるのを感じながら、小さな声で答える。


「ふーん、相変わらず謙虚だね」


 先輩は片眉を上げ、さらに身を寄せてきて、声を落とす。


「でもさ、あのコンビネーション……あまりに完璧すぎて、鳥肌立ったんだよ」


 冗談みたいに聞こえる口調なのに、その瞳は真剣そのものだった。思わず笑みがこぼれ、肩の力がすっと抜けていった。


 テーブルの上には、サクサクの唐揚げ、湯気を立てるうどん、特製ソースの焼肉丼。どれも一口食べるたびに思わず幸せなため息がもれるほど美味しかった。


 みんなで食べながら笑い合い、次の試合の相手や練習メニューの調整について話したり、今度プロの試合を観に行こうと提案する声も上がる。雰囲気はまるで味噌汁のよう——熱々で、努力のあとに満ちた達成感と希望に溢れていた。


「ボードゲームやろうぜ!」


 誰かが突然叫んだかと思うと、次の瞬間には、まるで仕組まれていたみたいに、カードやサイコロの詰まった箱が「ガラガラッ」と音を立てて机に広げられた。


 気づけば、もう逃げ場はなく——私も強制的にその戦いに巻き込まれていた。


「よし、遥はこっち! 一緒のチームな!」


「え、えぇ!? ちょっと待って、ルールまだ——!」


 逃げ道なんて全然なくて、そのまま強引にボードゲーム戦争へ巻き込まれた。サイコロがコロコロと転がり、カードが次々と舞い上がり、テーブルの上の熱気はまるで屋根を吹き飛ばす勢いだった。


「負けた人は罰ゲームな! ほら、監督のモノマネ5秒!」


「窓の外に向かって『私はMVPだー!』って叫べよ、あははは!」


「次は遥の番だぞーー! はやくはやくはやく!」


 笑いすぎて声も出ないくらい、カードは手の中でぐちゃぐちゃに。結局ボロ負けしたけど、不思議と悔しさなんて全然なくて、ただ胸の奥が温かく満たされていく。


 ——こんな笑い声、いつぶりに聞いただろう。


 いつも冷静沈着な高橋先輩ですら、罰ゲームカードを引いた瞬間「どんな運だよ!」と叫んで、みんなの大合唱に押されて即興ダンス。ぎこちなくて妙にダサい動きに、部屋は爆笑の渦だった。


 お腹いっぱい食べたあとは、二次会で近くのカラオケへ。薄暗く柔らかな照明に包まれたボックスルーム、壁の七色ライトが音楽のリズムに合わせて点滅する。画面に歌詞が流れるたび、知っているメロディが響き渡り、一曲また一曲と空気はさらに熱を帯びていった。


 誰かはアイドルみたいに歌い上げ、誰かは高音が月まで飛んでいき、誰かは無理やりマイクを奪ってラブソングをデュエット。結局みんなから総ツッコミを食らってブーイングの嵐、そしてまた大笑い。


「一曲いこうよ、遥!」


 先輩が突然マイクを私の前に差し出してきた。


「えっ? わ、私ほんとに無理だって……!」


「試しにやってみなよ。今日のあのゴールへのご褒美ってことで!」


 彼女は片目をウィンクして、半分茶目っ気、半分本気の笑顔を向けてくる。


「そうそう、歌え歌え遥ー!」


「歌わなきゃ帰しませーん!」


 仲間たちの勢いに押され、結局私は負けてしまい、慌てて自分がよく知っている軽快な日本語の曲を選曲した。


 イントロが流れ始めた瞬間、胸の鼓動が速すぎて息が苦しくなりそうだったけれど、前奏が過ぎる頃には少しずつ肩の力が抜けていった。


 ただの一曲のはずなのに、なぜか笑いそうになる。音程を外したからでも、気恥ずかしいからでもない。ただ、その瞬間に確かに感じたのだ——私は、本当にこのチームに受け入れられているんだって。


 歌いながら、ちらりとみんなの顔を盗み見る。リズムに合わせて手拍子を打つ人、口を動かして歌詞を一緒に口パクする人、そして「黒歴史」だと言って録画している人までいて。


 夕方から夜になるまで歌い続けて、喉は少しかすれ、笑いすぎて目尻には涙がにじんでいた。


 ——今日は、本当に幸せだ。


 これは、私の人生で初めて、仲間たちと一緒に勝利を祝った時間だった。笑い声と汗の中で、私ははっきりと感じた。自分がこのチームの一員だって。もう端っこじゃない、もう隠れてない。今度こそ、本当に一緒にいるんだ。

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