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冴えない私が輝く星と出会った  作者: 雪見遥
第6章 交差する告白、鼓動の行き先

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第2話 サッカーグラウンドの激闘(三)

 試合はまだ終わっていなかった。相手も簡単には屈しないチームだ。後半に入ると彼らは猛反撃を仕掛け、立て続けに二点を奪い、あっという間に同点に追いつかれる。試合は膠着状態となり、一分一秒が体力を削り取るような死闘へと変わっていった。


 高橋先輩は歯を食いしばりながら中盤で指示を飛ばし、必死に守り続ける。私は仲間とサイドで連携し、なんとか相手の守備を切り裂こうと突撃を繰り返した。


 残り三分。左サイドを突破した味方がクロスを上げる。私と相手選手がほぼ同時に落下点へ走り込む。先に足を伸ばしたのは私だった。つま先で触れたボールは地面を這うようにゴールへと転がり、キーパーは逆方向へ飛んでしまう。


「——三点目! 入った!!」


 再びリードを奪い返す。そして、笛が鳴り響いた瞬間、試合終了。スコアは三対二、勝利。


 芝生に膝をつき、大きく息を吸う。汗と涙が混ざり合い、頬をつたい落ちていく。雲の切れ間から射し込む陽光が、仲間たちの喜びの笑顔をやわらかく照らしていた。


「私たち……本当に勝ったんだ」


 高橋先輩が歩み寄り、手を差し伸べて私を引き上げ、肩を軽く叩いた。そして笑いながら、わざと乱暴に私の髪をくしゃりとかき回す。


「お疲れ、遥。今日のあんた……本当に最高だったよ」


 けれど、私の視線はその人を探していた。歓声と拍手に包まれる中、顔を上げる。観客席の一角で立ち上がる、見慣れた姿。神崎さんはサイドラインに佇み、誇らしさと優しさをたたえた瞳でこちらを見つめ、ふわりと笑みを浮かべていた。


 声は届かなくてもわかる。きっと彼女は、こう言ったに違いない。


 ——「佐藤さん、かっこよかったよ」


 私は拳をぎゅっと握りしめ、心の中でそっと応える。


「佐藤さーん!」


 神崎さんは小走りでこちらに駆け寄ってきた。その仕草には抑えきれない喜びがあふれていた。


「おめでとう、ついに勝ったんだね」


 差し出されたタオルを受け取ると同時に、疲れて膝を折りかけた私の肩を自然に支えてくれる。その温もりが伝わった瞬間、胸の奥が一気に満たされていった。


「ありがとう……」


 かすれた声でそう呟いたけれど、胸の内はこれまでにないほど穏やかだった。


 この試合、私は全力を尽くした。ただ勝利のためだけじゃない。誰かの目に映るヒーローになるためでもない。ただ……あの人が見ていてくれるから。だから、全力で走り抜きたかった。


 ——サイドラインから、私に声援を送り続けてくれるその人のために。

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