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冴えない私が輝く星と出会った  作者: 雪見遙
第6章 交差する告白、鼓動の行き先
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第1話 サッカーグラウンドの激闘(二)

 前の試合から、もう丸二週間が経った。


「前回は負けちゃったけど……でも、それで終わりだなんて、誰も思ってないよね。」


 夕焼けに染まったグラウンドの端に立つ高橋先輩が、しっかりとした口調でそう言った。

 その声は夕風に乗ってはっきりと響き、チーム全体に新たな勇気を吹き込んでくれた。


「明日は第二戦目。私たちの本当の力は、まだこんなものじゃないって……行動で証明しよう!」


 家に帰った私は、いつものようにスマホを開いてメッセージをチェックした。

 案の定、「神崎 星奈」の名前が画面に浮かび上がる。


『明日、頑張ってね〜。前と同じで、勝ったらご褒美あるよ♡』


 そのメッセージは、そよ風みたいに私の不安な気持ちを優しく撫でてくれた。

 たった一言なのに、胸の奥がふわっと温かくなる。


 ——神崎さんのために、勝ちたい。


 そんな気持ちがふと心に浮かんだ。

 あまりに自然すぎて、思わず自分でも驚いてしまった。


 彼女と一緒にいると、心がドキドキする。

 彼女が近くにいると、無意識に緊張するし。

 彼女が応援してくれると、不思議と安心できる。

 ただ目が合うだけでも——世界が急に明るくなったように感じる。


 ……でも、私たちって「友達」だよね?


「……考えすぎだよ。まずは明日の試合に集中しないと。」


 私は頭を振って、スマホを枕元に置き、そのままベッドに横になって目を閉じた。

 だけど——


『ご褒美あるよ♡』


 その言葉が、ずっと頭の中で反響していて、なかなか眠りにつけなかった。


 ***


 試合当日。

 空は驚くほど晴れていた。


 雲ひとつない真っ青な空。

 まぶしい陽射しがグラウンドを照らし、校舎全体が光に包まれている。


 私はピッチの端に立ち、広がる緑の芝生を見つめながら、手のひらにじんわりと汗を感じていた。


「力抜いて、遙。」


 高橋先輩が私の肩をポンと叩き、爽やかな笑みを浮かべる。


「いつも通りでいいんだよ。練習してきた自分を信じて。……私たちは、ちゃんとここにいる。あんたと一緒に戦ってるから。」


「……うん、わかってる。」


 私はうなずいて、大きく深呼吸をした。

 鼓動が少しだけ落ち着いていくのを感じながら、視線をゆっくりと観客席へと向けた。


 ——彼女が、そこにいる。


 神崎 星奈は最前列に座っていた。

 私服姿で、長い髪が陽の光を受けて、淡く金色に輝いている。


 視線が交差した瞬間、彼女はふわりと微笑み、そっと手を振ってくれた。


 ——ただそれだけの動作なのに、心臓が一瞬止まった気がした。


 ……私は、彼女のために、もっと頑張りたいと思った。


 試合開始のホイッスルが響く。


 ボールが蹴り出されると同時に、ピッチ全体に緊張感が広がり、空気が一気に熱を帯びていく。


 深い紺色のユニフォームを纏った私たちは、青々とした芝生の上を走り、叫び、連携を重ねた。

 チームの動きは、前回の練習よりもはるかに息が合っている。

 あの敗北の悔しさがまだ心に残っているからかもしれない。

 いや——今回は、本気で「勝ちたい」と願っているからだ。


 対戦相手は、開始わずか五分で勢いよく攻め込んできた。


 私はすぐに守備に戻り、高橋先輩と並んでディフェンスラインを固める。

 彼女は冷静に相手の動きを読み取り、低い声で囁いた。


「遙、左をお願い。私は右に回る。」


「了解!」

 私はうなずきながら左サイドへと詰め、パスコースを封じる。

 相手は私たちに挟まれ、ついにボールを足元からこぼした。


「任せて!」


 仲間が素早くボールを奪い、そのまま中盤へとパス。

 ボールは私たちの足元を渡り、パス、トラップ、ターン、そしてまたパス——

 目まぐるしく展開される攻撃。


 そしてついに、ボールは私の元へやってきた。


 私は大きく息を吸い込み、前方へドリブルを開始する。

 相手のディフェンダーがすぐ横に張りついてきたが、私はフェイントで右に抜けた。


「遙!こっち!」


 右サイドから高橋先輩の声が飛んできた。

 私はすかさずパス。

 彼女は落ちてくる前のボールをダイレクトでスルーパスに返してくれた。


「ナイス……!」


 私の前には、もうキーパーしかいなかった。


 心臓の鼓動が一瞬止まり、

 私はゴール右上を狙ってシュートモーションに入る——


 ——「バン!」


 ボールは完璧な弧を描き、ネットを大きく揺らした。


「——入った!!」


 その瞬間、会場は歓声に包まれた。

 スタンドから鳴り響く拍手と歓声は雷のように、波のように何度も押し寄せてくる。


 仲間たちが私のもとへ駆け寄り、私を囲むように背中を叩きながら、声を上げて喜びを分かち合った。


 私はその場に立ち尽くしたまま、息を切らしながら、ネットの中で転がるボールを見つめた。

 そして、目の端にふと熱いものが滲んだ。


 ――やったんだ、私たち。


 これは奇跡なんかじゃない。

 何度も何度も失敗を繰り返して、汗を流して、歯を食いしばって積み重ねてきた日々の証。

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