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冴えない私が輝く星と出会った  作者: 雪見遥
第5章 緑のフィールドへ、私が再び走り出す理由

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第5話 彼女と初めての外出

 今日は日曜日。私が神崎さんと初めて一緒に出かける日だった。


 昨日、彼女から「明日空いてる? 一緒に公立図書館で勉強しない?」とメッセージが届いた。予定を確認すると、特に特別な用事もなかったので、私は承諾の返事をした。


 けれど「行く」と答えたあとになって、妙な不安と緊張が胸の奥から押し寄せてきた。だって、これは私の人生で初めての「学校の外での約束」なのだから。しかも相手は——いつも校内でまぶしく輝いている神崎星奈。


「……何を着て行けばいいんだろう」


 クローゼットの中をひっくり返して、結局選んだのは無難なTシャツにジーンズという組み合わせだった。


 ***


「やっほー、佐藤さん」


 駅前で神崎さんが軽く手を振る。長い髪が微風に揺れ、陽光を浴びてきらめいていた。今日の彼女はシンプルながらも少し大人っぽい白いブラウスに淡いグレーのロングスカート。清潔感がありながら優雅さを漂わせる装いだった。


「スカートって、あんまり履かないの?」


 神崎さんは首を傾げ、柔らかな声で尋ねる。


「別に嫌いじゃないよ……ただ、ズボンのほうが落ち着くっていうか」


 私は声が震えないように必死で答えた。


「ふーん……でも似合ってるよ」


 彼女がふっと笑った瞬間、胸の奥で何かにそっと触れられたように、微かな波紋が広がっていった。


 公共図書館に着くと、午後の陽射しが高いガラス天窓から差し込み、閲覧エリア全体をやわらかな金色に染めていた。ページをめくる音、ペンの走る音が重なり合い、空間は静かで、集中した空気に包まれていた。


「ここ、すごく気持ちいい雰囲気だね」


 神崎さんは私の向かいに腰を下ろし、窓の外を眺めながら小さくつぶやいた。


「うん、私はよくここで勉強してるんだ」


 私は頷きながら、胸の奥に渦巻く緊張をなんとか押さえ込もうとした。


 私にとってこれは、ただの勉強じゃない。言葉にできない「デート」のように感じられてならなかった。


「さあ、まずは数学から始めよっか」


 神崎さんはノートを広げ、少し身を乗り出す。肩がほとんど触れそうな距離だった。シャンプーの香りがふわりと漂い、私は一瞬で頭の中が真っ白になった。


「……どこ見てるの?」


 彼女は笑みを含んだ視線をこちらに向ける。


「べ、別に……ノートを見てただけだよ!」


 私は慌てて俯き、頬が熱を帯びていく。


「ふふ、嘘つき」


 彼女は小さく笑ったが、それ以上追及することはなく、静かに練習問題を開いた。


 私たちは一緒に問題を解き、一緒に考えた。時折、神崎さんがある公式を指さして「ここ、よく分からないから教えて」と言ってきて、そのたびに私は胸の高鳴りを必死に押し殺しながら、一つひとつ丁寧に説明した。


「佐藤さんって教えるの上手だね」


 彼女が笑顔を見せる。その瞬間、私は思わず自分の解答が間違っていたのではないかと疑ってしまった。


 気づけば、時間はすでに夕方に差し掛かっていた。


「そういえば、来週サッカーの試合があるんだよね?」


 神崎さんがふいに尋ねる。


「うん、水曜日」


「絶対頑張ってね」


 彼女の瞳はきらめきを帯びていた。


「私、応援に行くから」


「えっ? 来るの? そんなのプレッシャーだよ……」


 私は思わず小声でつぶやいた。


「プレッシャーをかけに行くんじゃなくて、応援とお守りを届けに行くんだよ」


 彼女はウィンクして、どこか含みのある笑みを浮かべた。


「それにね、もし勝ったら——小さなご褒美をあげる」


「……どんなご褒美?」


「今は内緒。本当に勝ったときのお楽しみ」


 唇をきゅっと結び、わざとらしく秘密めかした。


「もう……」


 私は小さくぼやきながらも、口元が勝手に緩んでしまう。


 ——サッカー部に入って初めての試合。そして初めて、私の勝利を待ってくれている人がいる。

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