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冴えない私が輝く星と出会った  作者: 雪見遥
第4章 情熱の運動会と、雨に濡れた邂逅

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第2話 運動会前夜の思考

 夜は静かで、街の灯りが遠くで瞬き、深い夜空を彩っている。淡い月明かりがカーテンの隙間から差し込み、机の上に柔らかな光の輪を落としていた。部屋の中はしんと静まり返り、壁の時計が刻むカチカチという音だけがはっきりと響き、時が一秒一秒過ぎていくことを告げている。


 机に向かい、ペン先をそっと問題集の紙に当てたまま、なかなか書き出せずにいた。本当は少し勉強するつもりだったのに、どうしても集中できず、頭の中では同じ問いが何度も浮かんでは消えていく。


 ――私が神崎さんに抱いている、この気持ちは一体何なんだろう。


 その疑問は、さっきからずっと胸の奥に絡みついて離れない細い糸のようで、どうしても無視することができなかった。


 知り合ってから、もう一か月以上が経った。この間に、私の生活は大きく様変わりした。以前の私は、人前に出ることを恐れ、誰かと話すときもいつも慎重で、できる限り自分の存在を隠し、他人の視線の的にならないようにしていた。


 けれど神崎さんと出会ってから、すべてが変わった――初めて図書室で彼女と会話を交わした日、初めて一緒にお昼を食べた日、彼女に励まされてクラスメイトに自分から話しかけた日、初めてクラス委員長を引き受けた日、そして初めて自分から運動会への参加を申し込んだ日。これらは、以前の私なら決してあり得なかった出来事ばかりだった。


 しかも最初は、私たちはまるで別世界の人間で、交わることなどないと思っていた。けれど、彼女の存在が、その不可能を可能にしてしまった。


 小さく息をつき、ペンを置いて手のひらで額を支えると、自然と神崎さんの笑顔が脳裏に浮かんでくる。それはどんな笑顔だっただろう。眩しいほどに輝いていて、それでいて私には見抜けないわずかな哀しみが混じっているような笑顔。彼女は、本当に幸せなのだろうか。


 この一か月で、私は少しずつ神崎さんの華やかな外側に隠れた不完全さに気づき始めていた。成績優秀で、運動も万能で、社交的で、どこにいても一番目を引く存在――それが皆の知る神崎星奈だ。けれど、私の前では時折、別の表情を見せる。ごくわずかに、けれど確かに漂う寂しさを。


 たとえばあの日の昼休み、神崎さんがふと「家で作ったお弁当なんて持ってきたことないんだ」と静かに言ったとき。あの日、彼女の家に宿題を届けに行ったら、熱を出しているのに一人で耐えていて、誰も看病してくれる人はいなかったとき。彼女はいつも笑顔で全部を隠しているけれど、その心の中は本当に幸せなのだろうか。


 神崎さんは、私が自由にやりたいことをできるのが羨ましいと言った。それはつまり、今彼女がしていることは、本当にやりたいことではないという意味なのだろうか。


 知りたい。神崎さんを理解したい、助けたい。かつて彼女が私にしてくれたように――いや、きっとそれだけじゃない。私は彼女の助けに報いたいだけじゃなくて……私の前では、偽らずに本当の笑顔を見せてほしい。


 神崎さんの笑顔は、あまりにも眩しい。眩しすぎて目を逸らせなくて、無意識にもっと近づきたいと思ってしまう。


 この気持ちは、一体いつから始まったのだろう。図書室で、彼女が私に微笑んだとき? 屋上で昼食をとっているときに、「君って話しやすいね」と言ってくれたとき? それとも、廊下で不意に私の手首を掴み、そのままトイレへ引き込んで壁ドンしたあのとき?


 そこまで思い出した瞬間、頬が一気に熱くなる。


「……だめ、これ以上考えちゃ……!」


 思わず頭をぶんぶん振って、その鼓動を速めるばかりの記憶を振り払おうとする。けれど、胸の奥の鼓動は相変わらず不規則に跳ねていた。


 窓辺へ歩み寄ってカーテンをそっと引く。夜空が視界いっぱいに広がった。今夜の星々はひときわ明るく、漆黒の空に散りばめられた光が静かに瞬いている。


 それが、神崎さんを思い出させた。彼女はまるで一つの輝く星のように、私の世界を照らしてくれた。そして今、その星はすぐそばにあって、手を伸ばせば届くような距離にいる。


 胸の奥に微かなときめきが広がっていく。明日、私は神崎さんと一緒にグラウンドを駆ける。同じレースのために力を尽くす。生まれて初めて、本当にトラックの上に立つ、もう観客席の端で見ているだけじゃなくて。そして、その隣には、彼女がいる。


 私は思わず小さく笑みをこぼし、胸の中の期待が想像以上に膨らんでいることに気付いた。


「……早く会いたいな」


 その思いが一瞬よぎった途端、はっとして慌てて顔を覆う。どうして……こんなふうに思ってしまうんだろう。でも、どんなに押さえ込もうとしても、胸の奥のときめきは抑えられなかった。


「……早く、明日になってほしい」


 小さく呟きながら、視線は輝く夜空に釘付けになる。まるで一番明るいあの星も、そっと私を見つめ返しているかのように。

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