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冴えない私が輝く星と出会った  作者: 雪見遥
第3章 ふたりの心が少しずつ近づいていく

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第1話 新たな責任

「二学期もある程度経ちましたので、今日はクラスの仕事にもっと関わってもらうために、新しい委員長を一人決めたいと思います」


 朝のホームルームの時間。先生はいつもの落ち着いた口調で、そう告げた。教室内が一気にざわめき始める。まるで湖面に石を投げ込んだかのように、静かな空気にさざ波が広がっていった。


「新しい委員長? 誰が適任なんだろう?」


「私ムリ、部活でもういっぱいいっぱいだよ」


「だったら、やっぱり神崎さんが一番じゃない?」


「神崎」という名前が誰かの口から漏れた瞬間、教室中の視線が一斉に、ある少女に向けられた。神崎さんは顔を上げ、皆の注目を受けながらも、ずっと変わらぬ穏やかな微笑みを浮かべていた。まるでそんな展開を、最初から分かっていたかのように。


 先生もその流れを受けて彼女に視線を向け、優しい声で問いかける。


「神崎さん、学級委員長を引き受けてくれますか?」


「先生、みんな……推薦してくれて、本当にありがとうございます」


 神崎さんはそっとお辞儀をすると、少し申し訳なさそうな表情を浮かべた。


「でも、今はすでにいろんな校内の仕事を抱えていて……たぶん、全力では取り組めないかもしれません」


 そう言って一瞬言葉を切ったあと、彼女の顔にふいに茶目っ気のある笑みが浮かんだ。


「だけどね、私の心の中には、もっとふさわしい人がいるんです」


 そのときだった。彼女のきらきらした視線が、まっすぐに私──佐藤遙へと向けられた。


 私は一瞬、固まってしまった。まるで時間が止まったかのように、周囲の音がすべて消え失せた。耳の中に残ったのは、自分の心臓が「ドクン、ドクン」と激しく鳴る音だけ。


 先生は私の硬直に気づいたようで、柔らかい声で尋ねてきた。


「佐藤さん、どうかしら?」


「わ、わたし……」


 唇が震え、断ろうとしたのに、喉が乾ききっていて声がまったく出てこなかった。


 頭が真っ白になったその瞬間、神崎さんがふたたび口を開いた。


「じゃあ、投票で決めましょうか? 半分以上が賛成すれば、それは佐藤さんがみんなに信頼されてるってことですし!」


 彼女の口調は軽やかで、まるで日常の些細なことでも話しているかのようだった。クラスの子たちもすぐにうなずき、賛成の声が広がっていく。私は止める間もなく、気づけば結果が出ていた──私は、学級委員長に選ばれてしまったのだ。


 先生がその結果を告げた瞬間、私はまるでスポットライトを浴びたかのように、みんなの視線を肌で感じた。不安の波が胸の中で荒れ狂い、息苦しくなるほどに押し寄せてくる。


 だけど、そんな視線の中で、ただひとつだけ異なるまなざしがあった。神崎さんの眼差しには、言葉にできない何かが込められていた。けれどそれは、確かに私を励ますようなまなざしで、まるでこう言ってくれているかのようだった。


「大丈夫、私がそばにいるから」


 ***


 放課後の図書室。私は書架の影に身を潜め、静かになろうと必死だった。窓の外から差し込んだ陽射しが、本棚の隙間を通り抜けて、ページの上に金色の斑点となって散らばっていた。けれど、その光は、私の内側を少しも静めてはくれなかった。


「おやおや、新しい委員長さんはこんなところに隠れてたんだね〜」


 からかうような、でもどこか聞き慣れた声が耳元で響いた。顔を上げなくても、誰なのかすぐにわかる。私は小さくため息をついた。


「……神崎さん、今日は一体なにがしたいのよ?」


 手にしていた本を閉じながら、私は彼女を睨むように見上げる。


「わたしみたいな人間がクラス委員長なんて……どれだけツラいと思ってるの?」


「ん? ツラいの?」


 彼女は身をかがめて顔を近づけてきた。イタズラっぽい笑みを浮かべながら言う。


「でもね、私から見たら、それって佐藤さんにとって絶好のチャンスだと思うよ?」


 私は視線を落とし、ぼそっとつぶやいた。


「気軽に言うなぁ……人と話すの、怖いって知ってるくせに……」


 すると神崎さんは、そっと手を伸ばして、私の肩にやさしく触れた。その声には、これまでにないほどのまっすぐな響きがあった。


「大丈夫。私がずっと、そばにいるから」


 その言葉が胸の奥にふわっと届いて、顔がほんのり熱を帯びる。私は慌てて視線を逸らした……この人、ほんとに本気なの? それとも、ただのからかい?


 ***


 放課後の帰り道。夕陽が傾きかける中、私は黒羽とゆっくり並んで歩いていた。


「ねえ、遙、最近さ、神崎さんとずいぶん仲良くなったよね〜。今日なんて、委員長に推薦までしてくれちゃって」


 黒羽は冗談交じりの口調で言った。


「そ、そんなことないって……ただのクラスメイトだよ」


 私は気まずそうに目をそらしながら、ぼそっと反論する。


「でもさ〜、毎日図書室で二人でおしゃべりしてるし、もしかして彼女、遙のこと好きなんじゃない?」


「なっ……ないないないないないっ!」


 顔が一気に熱くなって、思わず声を上げてしまう。


「神崎さんって、あの学校でも超人気のカリスマだよ? それに、私たちどっちも女の子だし……そんなの、ありえないでしょ……?」


「うーん、恋ってねえ、意外とそういうもんだったりするのよ〜」


 黒羽はくすっと笑いながら、私の前を軽やかに歩いていく。私はその場に立ち止まり、ふと今日の神崎さんの言動や表情を思い返していた。


 そう、神崎さんはいつも、私のそばにいる。今日も、わざわざ私を推薦してまで、彼女は一体、どんな気持ちで私に近づいてくるのだろう?


 傾いた夕陽に照らされながら、私の心の奥に、これまでにない好奇心と戸惑いが静かに芽吹いていた。私と彼女の間には、もう何かが……変わり始めているのかもしれない。

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― 新着の感想 ―
今日から読み始めました! ちょっと気になったのですが 「でも、遥にとっては、それって“殻を破る”チャンスだと思わない?」←この台詞は神崎さんのはずですが名前呼びになってます 次話では佐藤さんと呼んでい…
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