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冴えない私が輝く星と出会った  作者: 雪見遥
第13章 恋愛は甘いだけじゃない

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第8話 恋人質問ゲーム

 数日後、放課後に家へ帰って、いつものように先にお風呂に入った。髪を乾かして部屋に戻り、ベッドに横になってぼんやりしていると、スマホがふっと光った。星奈からのメッセージだった。


「もう家に着いた?」


 スマホを手に取る。指先はまだ少し濡れていて、髪も乾ききらずに首筋に柔らかく張りついていた。


「うん、今お風呂上がったとこで、まだぼーっとしてる……」


 数秒後、彼女から返信が届く。


「もしかして、まだ私のこと考えてたんじゃない?」


「そ、そんなわけないでしょ! それに自分だって……」


「はいはい、からかわないから。ねえ、ちょっとしたゲームしない?」


「ゲーム?」


「恋人質問ゲーム。一人が一つ質問して、交互に答える。スキップは禁止」


 その文面を読んだだけで、頬がかっと熱くなる。胸の奥から耳の先まで、じわじわと火が広がっていくみたいだった。


「なんか……ちょっと危ない感じがする」


「大丈夫、意地悪な質問はしないから。じゃあ、私から。第一問。私って、遥の目にはどんな人に見えてる?」


 一瞬、指が止まった。打っては消し、消しては打ち直し、何度も繰り返して、やっと送信した。


「……見た目はかっこいいのに、実は甘えん坊で、ちょっと意地悪で、それでも泣きたくなるくらい優しい人」


 返信はほとんど一瞬で返ってきた。


「へえ……? そんな私、好き?」


「す、好きだよ」


 送信した瞬間、顔を枕に埋めてしまう。息が乱れて、胸の奥が熱くてたまらなかった。


「次は遥の番だよ」


 唇を噛みながら考え、やっと入力する。


「第二問。もし初めて私を見たときから好きになるって分かってたら……それでも私に近づいてくれた?」


 しばらく沈黙が続く。画面は動かず、数秒がやけに長く感じられた。やっと通知が鳴り、新しいメッセージが表示された。


「……近づく。今よりずっと早く。もっと前に。まだ逃げる余裕もないうちに、隣に座って、絶対に離さなかった」


 その文字を見た瞬間、心臓が小さく叩かれたみたいに跳ねて、もう収拾がつかなくなった。


「じゃあ、私ね。第三問。遥の好きな私のパーツはどこ?」


「!!!」


 思わずスマホを落としかけた。


「全然『悪い質問はしない』って言ってたじゃん!」


「早く〜スキップは禁止だよ」


 息を止め、顔が煙が出そうなくらい熱くなりながら、最後は覚悟を決めて送信した。


「……目。だって、星奈が私を見てくれるとき、特別になれた気がするから」


 すぐに返事が返ってくる。


「(戦闘不能)負けた、この勝負は遥の勝ち」


 思わず小さく笑ってしまう。誰も見ていないのに、布団の端を噛んで、溢れそうな幸福を必死に押し込めた。


「第四問。もし将来、私たちがケンカしたら……星奈はまた自分から会いに来てくれる?」


 今度はすぐに返事が来なかった。数秒の間を置いてから、画面がようやく光った。


「行くよ。遥が返事をしてくれなくても、携帯を切っても、隠れても、絶対に見つけ出す。だって、一人で泣かせたくないし……私たちの未来を、ある一度の沈黙で止めたくないから」


 その文字を見つめていると、目の奥がじんわり熱くなる。


「……星奈」


「どうしたの?」


 深呼吸して、指先を震わせながら、そっと打ち込む。


「本当に、星奈のことが好き」


 少し間を置いてから返ってきた言葉は、まるでずっと胸の奥にしまってあったもののようだった。


「知ってる。だって私は遥より少しだけ早く、『最後まで好きでいる方法』を考え始めてたから」


 スマホを抱きしめ、枕に顔を埋めながら、笑い声が漏れてしまう。心臓がやさしく包み込まれるように震えていた。


「じゃあ、次は星奈の番だね」


 しばらく間が空き、何かを思いついたように、新しいメッセージが届く。


「第五問。もし私がどうしても遥にひとつだけ『親しいこと』をするとしたら……遥はどれを望む?」


 その一文を見つめた瞬間、心臓が一拍抜け落ちたように感じた。


「ま、待って……この質問、本気なの?」


 返事はすぐに返ってきた。


「うん、本気だよ。もちろん、遥が望んでくれるならって前提だけど」


 私は布団を頭までかぶって、唇を噛みながら必死に考える。抱きしめる? 手をつなぐ? キス……? どれも欲しいに決まってる。でも、今この場で一つ選んで答えるなんて……。


 長いこと迷った末、私は一文字ずつ打ち込んでいった。


「……後ろから、抱きしめてほしい」


「何も言わずに、ただ静かに寄り添っている感じで」


 送信ボタンを押した瞬間、顔が一気に熱くなり、耳まで湯気が立ちそうだった。まるで沸騰寸前のやかんみたいに。


 スマホが震えた。


「……遥、可愛すぎ。ごめん、今ベッドの上で思わず転がっちゃった」


 顔を両手で覆いながら、真っ赤になって返信する。


「それ、言うなら……さっきの質問をしたのは星奈でしょ……」


 彼女はイタズラっぽい笑顔のスタンプを送り、そのあとすぐに続けた。


「だって知りたかったんだもん。今度デートするとき、何回こっそり抱きしめられるかって」


 その文字を見た瞬間、心臓がふわふわした綿に包まれるように柔らかく、くすぐったく痺れた。


「じゃあ、次は私の番だね」


 わざと落ち着いたふりをして、最後の質問を打ち込む。


「第六問。もし私たちがずっと一緒にいるとしたら……十年後、私たちはどんなふうになってると思う?」


 すぐに返してきた。まるで前から答えを決めていたみたいに。


「十年後も、一緒に家に帰りたい。一緒にコンビニで『どのお弁当にする?』って話したい。くだらないことを、ずっと一緒に笑っていたい」


「でもね、一番大事なのは——十年後も、今と同じ声で、『本当に星奈のことが好き』って言ってほしい」


 星奈からの返事を見つめながら、胸の奥が幾重ものやさしさに包まれていくようだった。まるで夜が静かに降りてきて、窓の外から吹き込む風にそっと触れられるみたいに、そのやわらかさに、不意に涙がにじみそうになる。


 夜はすっかり更けていたのに、少しも眠くならなかった。スマホを握りしめたまま、心臓はまだ彼女の言葉の重みに応えて鼓動を刻んでいる。


 恋人同士の問答は終わった。けれど——私たちの物語は、これからが始まりだった。

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