第七十話 今カノとは一生離れられない
夏休みも終了し、まもなく文化祭になろうとしていた。
由乃さんとの交際はなんだかんだで順調に行っている。
奈々子の奴は相変わらず、俺にいやがらせをしてくるが、もう気にしてないし、半分諦めているのか、あまり強く当たらなくなってきた。
「ヤッホー、陸翔。来たよ」
「あ、由乃さん。来てくれたんですね」
ウチのクラスではクレープ屋を出店することになっており、ちょうど俺が屋台で店番をしているときに由乃さんがやってきた。
「奈々子は何処に居るの?」
「あいつなら、休憩中ですよ。友達とどっかに行っているんじゃないですかね」
「そう。じゃ、一つ貰おうかな」
「はい。何にしますか?」
「チョコレートクリームちょうだい」
由乃さんの注文通り、クレープの生地にチョコレートと生クリームを挟み、紙に包んで由乃さんに渡す。
「三百円です」
「はい」
「ありがとうございました」
後ろに並んでいる客が居たので、お金を受け取った後、すぐに由乃さんは店から去っていった。
「あ、いらっしゃいませー」
その後も客がどんどん来たので、客を捌いていく。
ひいい、思っていた以上に忙しいな。みんな、どんだけクレープ好きなんだか。
「休憩入っていいよー」
「はーい」
やっと交代の時間になり、クタクタになりながら、休憩に入る。
「さて、どうするかな」
ゆっくりと出し物を見たいけど、由乃さんは何処にいるのか?
由乃さんは美人だからナンパされたりしないだろうな……そう思うと、気が気ではなくなってしまい、すぐに教室を出ていった。
「今、何処に居ますか……あ、体育館に居るのか」
ラインで居場所を聞くと、すぐに由乃さんから返信が着て、体育館に向かう。
今、何をやっているんだっけかな……プログラムを忘れちゃったけど、現地に向かえばわかるだろう。
「えっと……今は吹奏楽部の公演をやっているのか」
体育館に行って中を覗いてみると、吹奏楽部が演奏をしているのが見えたが、中が薄暗く由乃さんが何処にいるのかよく確認できなかった。
うーん、いちいち座席を確認するのはちょっと難しそうだし……終わるのを待った方が早いか。
「こんにちは」
「わっ! って、由乃さん」
「えへへ、来てくれたんだ」
取り敢えず外で待っていようかと思っていると、由乃さんが後ろからポンっと肩を叩いて声をかけてきてくれた。
「あれ、中にいたんじゃないですか?」
「さっきまでは居たんだけどね。そろそろ陸翔が来るかなって思って」
「そうですか。すみません、何か気を遣わせちゃいましたかね?」
「何言ってるの。来てくれてうれしいよ。クレープ、おいしかったわよ。へへ、陸翔も結構手際よかったじゃない」
「はは、そう言ってくれたならうれしいです」
生地を作っているの俺じゃないんだけど、喜んでくれたのならよかった。
「でも懐かしいなー、高校の文化祭。私、二年の時は演劇をやったんだよ」
「へえ。見てみたかったですね。何をやったんですか?」
「何だったかしら。ロミオとジュリエットもどきの演劇? ゴメンね、なんかうまく説明できなくて」
よくわからないが、恋愛ものの演劇っぽいな。
ふふ、由乃さんはどこの恋愛もののヒロインよりも美人だけどな。
ちょこっとだけ性格には難がある気がするけど、それももう愛嬌だと思えばいいさ。
「この後、後夜祭とかあるんでしょ? 陸翔は出るの?」
「どうしましょうかね……別に強制参加でもないんで、出なくても良いかなって」
去年は参加したけど、あんまり面白くなかったというか……有志のバンドの演奏があったりするんだが、仲のいい奴が出るわけでもないしなあ。
「一緒に回りたいんだけど、奈々子と約束していてね。取り敢えず、陸翔の顔は見れてよかったかな」
「あ、はい。体育館にいないんですか?」
「今、友達といるんだって。そろそろ待ち合わせの時間なんだけど……」
じゃあ、俺は邪魔だな。
二人で見て回りたかったけど、今日は奈々子に譲ってやるか。
「じゃあ、俺はこれで」
「んもう、もうちょっと一緒に居ようよ」
「あんまり学校でイチャつくと、奈々子に怒られそうなんで。文化祭、四時には一般公開終わるんで、その時にラインしますね」
「うん。またねー」
由乃さんと二人で話できただけでも十分だったので、この場を去り、文化祭の出し物を見学していく。
ふと思ったんだけど、由乃さんと同級生だったら、俺達どうなっていたんだろうなあ……付き合っていたりしたんだろうか?
間違いなく惚れてはいただろうけど、今みたいな関係になっていたかはわからないし、そもそも付き合うきっかけを作れただろうか。
同級生だと奈々子みたいな女子になっていたりは……その片鱗を少し今でも見せているけど、想像するのは止めておくか。
その後、文化祭も終わり、体育館で後夜祭が始まる。
行こうか迷ったんだけど、友達に誘われたので、軽く見学はしていき、用事があると言って一人で抜け出してきた。
当然、その用事というのは……。
「すみません、お待たせしちゃいましたか」
「くす、遅いよ。どうしたの?」
由乃さんと学校近くのコンビニで待ち合わせをし、彼女のもとに駆け寄る。
「いやー、結局後夜祭ちょっと見学することになっちゃいまして」
「そう。楽しかった?」
「まあ、思っていたよりはですかね。それより、由乃さんと会いたくて」
「もう、お上手ねー。そこの公園でちょっと休まない? ジュース奢るから」
「あ、はい」
自販機でジュースを買った後、二人で近くの公園に行き、そこのベンチに並んでイチャつくことにした。
「お疲れ様。ふふ、屋台で働いている陸翔、結構かっこよかったよ。ああいう仕事、向いているんじゃない?」
「そうですかね? じゃあ、将来二人で店でもやりません?」
「陸翔がそうしたいっていうなら、付き合うよ。まあ、学校の先生になりたい気持ちもあるけど、陸翔がどうしてもっていうなら」
「はは、いや、由乃さんがしたいようにしてください」
そういえば、先生になりたいって言っていた気がするが、由乃さんなら良い先生に……なるかな?
意外に厳しそうな気がするが……どっちにしろ俺も由乃先生に教わりたかったなー。
「奈々子とも楽しく見学できたし、陸翔ともこうして会えて来て良かった」
「だったら、嬉しいです」
「あの子とは仲良くやっている?」
「いやー、どうですかね……前ほど、喧嘩はしなくなっているような」
「だったら、良し。将来、義理の妹になるんだから、ちゃんと可愛がってもらわないと。あんな美人の妹が出来るかもしれないんだから、嬉しいでしょう」
元カノで性格が悪いって点を除けばだけどな……はあ、まさかあいつが義理の妹に……なるの嫌ではないというか、むしろそうならないようにしないとな。
「それに陸翔はもうすぐお父さんになるんだし。しっかりしないと」
「は……?」
由乃さんがさらりととんでもない発言をした気がするので、言葉を失う。
「えっと、何ですって?」
「ん? 今、言った通りよ。私ね……出来ちゃったの。陸翔の」
と、ニコニコ顔で由乃さんが俺に告げ、頭が真っ白になってしまう。
は? え……いや、嘘だよね?
「は、はは……冗談……ですよね?」
「んーー? 本当だったら、どうする?」
「ほ、本当だと困るっていうか……いや、責任は取りますけどっ! じょ、冗談ですよね?」
「あはは。今の言葉聞けただけでも安心した。陸翔」
由乃さんがジュースを飲んだ後、ベンチから立ち上がり、
「好きよ。ちゅっ♡」
と、軽く頬にキスをする。
今のでもう責任取っても良いかなって思うようになってしまったのであった。




