第六十八話 元カノへの未練がまだ?
「別に嫌なら良いんだけどさ。俺と二人が嫌なら由乃さんと一緒でも……」
『あんたとなんか嫌に決まってるでしょ! 何考えてんのよ、ったく』
まあ、嫌だろうなとは思っていたけどさ。
今ので奈々子がもう俺と二人でデートする気も微塵もないってのはわかった。
「じゃあ、由乃さんと二人で行ってくるわ。邪魔だけはするなよ」
『あんたにそんな約束する義理はないんだけど』
「ああ、そうかい。じゃあ、今日は悪かったな。それじゃ」
と言って電話を切るが、奈々子の機嫌も少しは直ったかな?
まあ、あいつが怒ろうがどうでも良いんだけど、いい加減、由乃さんとの関係を黙って見ていて欲しいんだがな。
次は由乃さんに電話しないと……。
『はーい』
「あ、由乃さん。ちょっと良いですか?」
『なに? あ、デートのお誘い?』
「そうなんですよ。今度、花火大会ありますよね? 二人で行きませんか?」
『うん。えへへ、楽しみだなー』
由乃さんを花火大会に誘うと即OKしてくれたが、やっぱり付き合っていると、すんなりOKが貰えるなあ。
奈々子も付き合っていた時はどうだったかな……用事があるからいけないって言われた事も何回かあった気がするが、まさかその頃から他の男と?
今更、どうでもいいけどさ。
「それでですね。実はさっき、奈々子と電話したんですよ」
『奈々子と? へえ、何話したの?』
「さっき、部屋で由乃さんとしようしているところを見せちゃったことを、謝ったんですよ」
『あら、そう。私がフォローするって言ったはずだけど、悪いわね』
「いえ、俺も悪いですし……」
由乃さんだけに任せるのも悪いというか、俺の方からも謝っておきたいと思っておいただけだしな。
逆に怒らせないかと不安になったけど、思っていたよりはきつく当たられなかったかな。
「あ、それでですね。実は花火大会に奈々子も誘ったんですよ?」
『奈々子も? 偉いわ、陸翔。やっとあの子と仲直りする気になったのね!』
と勇気を出して奈々子を誘った事を打ち明けると、由乃さんは嬉しそうに声を張り上げる。
「いやー、はは……ちょっとお詫びもかねて二人で行こうかって誘ったんですけど、断られちゃって」
『え? 奈々子と二人で? それって……』
う……やっぱり、怒っちゃうかな?
でも由乃さんも奈々子と二人でデートするくらいなら良いって言ったんだしさ。
「えー、ああ……デートって訳じゃないんですけど……」
『奈々子をデートに誘ったんだー。へえー、ふーん……」
と言い訳しようとしたが、由乃さんは怒っているのかおちょくっているのかよくわからない口調で、そう反応してきた。
「だ、ダメでしたか?」
「駄目っていうか……陸翔、奈々子と二股かける気?」
「そ、そういうんじゃないですよ! ただ、その……」
『くす、冗談よ。むしろ、あの子と仲良くしてくれようとして嬉しいわ。これからも、どんどん誘ってあげてね。あの子の好きなものも何でも教えちゃうから……あ、陸翔ならもう知っているか」
取り敢えず、怒られることはなかったのでホッとする。
由乃さん、そんなに俺と奈々子に浮気してほしいのか? ちょっと性癖が特殊というか、よくわからない性格しているな。
「本当に良いんですね、あいつとデートしても?」
『私が許可しているんだから、心配しないの。あ、そうだ。花火大会、私の方からも誘ってみるね。奈々子と三人でもいいでしょ? いいよね?』
「は、はあ……」
やっぱり、奈々子を誘った来たが、あいつが来るかどうかは微妙なところだな。
奈々子も俺と会うの嫌なら断ればいいのに、そんなに由乃さんの事が心配なのかね……。
そして花火大会当日――
「うーん、人が多いなあ」
花火が良く見える河川敷へと向かい、由乃さんを待つ。
ふふ、浴衣姿とか見れたりするのかな……めっちゃ、楽しみ。
「あ、由乃さ……って、奈々子かよ」
「…………来てたんだ」
人ごみの中で由乃さんに似た女性を見たので声をかけると、何と奈々子であったので、拍子抜けしてしまった。
「由乃さん、どうしたの?」
「バイトでちょっと遅れるから、先に行ってくれって」
「え? ああ、そうだったんだ」
バイトがあるから遅くなるかもとは昨日、言っていたけど、遅くなるならラインで送ってくれれば良いのにな。
「お前、一人なんだ?」
「そうだけど。別に一人でも余計な心配しなくていいわよ」
「いや、変なナンパに絡まれたら困るだろ。俺が一緒に居てやろうか?」
「恩着せがましい事を言うんじゃないわよ。別にナンパなんかこわくないって言ってるでしょ。むしろ、今、正に変なナンパに絡まれている状況なんだけど」
「俺は由乃さんと間違えて声をかけただけだよ。てか、お前らよく似ているな……」
ノースリーブのブラウスにベージュのスカート、髪をちょっと茶色く染めて後ろに束ねており、ファッションも何もかも由乃さんっぽくなってきていた。
「いちいち話しかけるんじゃない。私、向こう行くから。やっぱり、友達誘えばよかった……」
「まあ、いいじゃん。あ、花火始まったぞ」
俺を避けようとした奈々子の手を取って引き留めると、花火が始まった。
うーん、綺麗な花火だな。
間近で見ると、花火ってすごく良いものに思える。
出来れば由乃さんと二人で見たかったんだけど、まだ来ないのか……。
「…………」
隣で花火に魅入っている奈々子に目をやると、花火の光に照らされた奈々子がすごくきれいに見えてドキっとしてしまう。
「ねえ、夏休みになったら、花火とか見に行かない?」
「ああ、いいね。はは、もう今から楽しみだよなー」
「うん。へへ、花火も良いし、プールもいいよねー」
と、奈々子と付き合っていた時に話していた何気ない会話を思い出し、急に胸が締め付けられる気分になる。
ああ、そうだよ……本当なら今頃、奈々子と花火見たり、プール行ったり、楽しい夏休みを……。
確かに奈々子と花火大会には行けたけど、こういう形では……。
「――っ! 何するのよっ!?」
「え? あ、わ、悪い……」
思わず隣にいた奈々子の手を握ってしまうと、奈々子が悲鳴を上げて、手を振り払う。
し、しまったっ! つい雰囲気に呑まれて……。
「最低……お姉ちゃんと付き合っているのに、私なんかと……やっぱり、あんたお姉ちゃんの事好きなんかじゃ……」
「ち、違う。本当悪かったよ。俺はただ……」
「はーい、二人ともお待たせー。ゴメンね、遅くなって」
「あ、お姉ちゃん!」
奈々子が怒り心頭といった顔をして、俺に詰め寄ってきたところで、由乃さんがニコニコ顔で俺たちのもとにやってきた。
「い、今の見た? お姉ちゃん、陸翔が私の手を……」
「んー? ふふ、良いじゃない。陸翔も奈々子と仲直りしたかったんでしょう。ほら、お姉ちゃんも一緒に手を繋いであげるから、二人で仲よくしなさい」
「は? いや、その……」
由乃さんも今、俺が奈々子と手を繋ごうとしている所を見ていたっぽいが、怒る奈々子を宥めながら、奈々子の手を握り、もう片方の手で俺の手を握る。
「ふふ、陸翔も奈々子と仲良くしようとしているんだから、あなたも少しは答えてあげないと」
「わ、私は別に……」
「きゃー、花火綺麗ね。奈々子や私みたい。そう思うでしょ?」
「は、はい……」
彼氏が自分の妹と手を繋ごうとしたってのにむしろ嬉しそうにはしゃいでいる由乃さんを見て、奈々子以上にわからん人だなと思ってしまったが、
大きな花火が打ちあがると、由乃さんも




