第六十六話 元カノも遂に泣き出す
「うーん、どうしたものか」
今、奈々子と由乃さんの二人はシャワーを浴びているが、この間に逃げちゃおうかなーって事も頭に過ったけど、スマホを由乃さんに取られているので、身動きができない。
そこのバッグに入っているのかもしれないが、勝手に見るのは気が引けるしなあ……。
「しかし、二人が一緒に風呂に入っているんだよな」
もし、俺が風呂場に押し入ったら、どうなることか。
由乃さんは喜びそうだけど、奈々子は激怒すること間違いなしだな。
嫌がらせも兼ねて試してやろうかと考えたが、流石に犯罪になるので止めておくか。
由乃さんだけなら遠慮しないんだけどな……どうにか二人きりになれないものか。
「お待たせ。ゴメンね、時間かかっちゃって」
なんてクーラーの効いた由乃さんの部屋で考えていると、やっと由乃さんが戻ってきた。
「いえ。奈々子はどうしたんです?」
「あの子は自分の部屋に行っちゃて……ねえ、ウーロン茶でも飲む?」
「ああ、いただきます」
由乃さんは部屋着に着替えており、ペットボトルのウーロン茶を二本、テーブルに置いて、隣に座る。
「あの、俺のスマホは?」
「まだ返すわけないでしょ。返したら、陸翔、またAIに没頭しちゃうし」
すっかり信用をなくしてしまったみたいだが、自分は俺の隣に座るや、スマホを使い始めているので、さすがに不公平としか思えたが、やっぱりまだ返してくれないみたいだ。
「どうすれば返してくれるんですか?」
「そうね。今日、ウチで夕飯を食べていったら、返すわよ」
「それはちょっと……というか、どこにやったんですか?」
「私のバッグ見なかった? まあ、バッグにはないんだけど、私がちゃんと保管してあるから、平気よ。壊したら弁償するから、それでいいでしょう」
うーん、スマホを人質みたいに使うのは止めてほしいんだけどな。
「そんなに返してほしかったらさ……抱いてよ」
「はい? こうですか?」
「あーん♪ わかっているじゃない。へへ、ねえ……今、部屋の鍵かけているからさー……奈々子の事なら、大丈夫だよ」
早速、由乃さんの胸を後ろから揉んでやるが、もう恥じらいの反応も見せることはなく、むしろノリノリで誘ってきていた。
はあ……最初の頃の恥じらいのある反応は、演技だったのかね……ここまで変わるものなのかな、短期間で。
「あ、どうしたの陸翔?」
「いえ。由乃さんも随分と変わりましたね」
「そう? 陸翔も変わったっと思うけど。最初は結構、調子に乗っている感じだったけど、随分としおらしくなってきたじゃない。たまに今みたいに、体を求めてくることはあるけど、おとなしくなっちゃって」
おとなしくなったね……由乃さんが押せ押せになってきちゃって、困惑してしまっているというか。
というか、由乃さんと言い奈々子と言い、この姉妹は性格の裏表がありすぎじゃないかね。
裏表というか短期間に性格が変わり過ぎて、同一人物とすら思えなくなってきた。
(奈々子だって付き合っているときは、めっちゃ可愛らしくていい子だったんだけどな)
可愛くて明るくて、気配りも出来てさ。
最高の彼女だったのに、実際の姿はとんでもない性悪女のビッチだったという。
由乃さんも最初は優しいほんわかした甘々なお姉さんだと思ったのに、今や……。
「ほら、しようよー。今日、大丈夫な日だからさ。そうだ、奈々子と三人でしたい?」
「はは……冗談は……」
冗談でもこんな事をいう女性だったとは思いもしなかったよ。
もしかして、俺は騙されたのか二人に?
「何、ぼさっとしているのよ。こっち見る。せっかく、二人きりなんだから、しっかり私だけを相手しないと駄目よ。ん……」
何て頭を抱えている間に、由乃さんが俺の顔を強引にこっちに手で寄せてキスをしてくる。
そんなにしたいなら、こっちも遠慮しないでやろうかな……。
「んっ、ちゅ……んっ、ほら、来て」
「奈々子いるんで止めましょうよ」
「あら、見せつけてやりたいんじゃないの? ほうら、スマホを返してほしくないの?」
「わかりました。由乃さんも良いんですね? 俺みたいな馬鹿な彼氏が相手で」
「まだ根に持っているんだ。だったら、ベッドでそのうっぷんを晴らしなさいって言ってるでしょう。若いんだし、馬鹿みたいに性欲あるんだろうしさ」
ベッドに押し倒してやると、あからさまに見下した目でそう挑発してきたので、そこまで言うならやってやろうか。
奈々子が居ようが知ったことじゃ……。
「あ、やあん♪ ふふ、んっ……あん、その調子……」
ガチャっ! バンっ!
「へ? な、奈々子!?」
由乃さんをひん剥いて、彼女の体をまさぐっているところで、突然部屋のドアが開いたので何かと思うと、奈々子が睨みつけながら、押し入ってきた。
「な、何でここに……」
「…………帰れ」
「え? いや、これは……」
「帰れって言ってんだよっ! ここはラブホじゃないって言ったでしょ! お姉ちゃんになんてことしてるのよ!」
由乃さんがどうしてもって誘ってきたからと言い訳する間もなく、奈々子が鬼のような形相で俺のところにやってきて、ベッドから突き放す。
「ちょっ、何するんだよ。てか、どうやって入った?」
「鍵なんかかけても無駄に決まっているでしょうがっ! 私、お姉ちゃんの部屋のドアの合いかぎ持っているんだからねっ!」
「そ、そうだったの?」
「ふふ、そりゃそうよ。お互いの部屋の合いかぎ持っているんだもんねー? 何かあった時に備えて当然だと思わない?」
当然って事は、由乃さんも奈々子が合いかぎ持っているの知っていったって事じゃねえか!
もしかしてわざと奈々子にこのシーンを見せるために?
「言っておくけどさ。無理矢理やっていたりしないからな。由乃さんの方が……」
「うるさい、黙れ。その汚い口を開くな」
「もう、そんなに怒ったらだめよ。お互い合意の上でやったんだから、陸翔は悪くないよ。無理矢理だったら、奈々子にすぐ助けを求めているに決まっているじゃない」
「で、でも……」
由乃さんがタオルケットにくるまりながら、激高する奈々子を宥めるが、さすがに俺に無理矢理されようとしていたって事にはしなくて安心した。
「それにー、陸翔って十八歳未満でしょう。このケースだとむしろ、私の方がまずいのよね。だから、奈々子もお姉ちゃんが逮捕されたくなかったら、黙っていてくれる?」
「そ、そんなの誰にも……ど、どうしてこんなの庇うのよ」
「庇うも何もねー。陸翔は馬鹿でもウチの彼氏だしさ。くす、でも後先考えない子だから、奈々子に見せつけてやろうって思っちゃったのかしらね?」
「俺、そういうつもりじゃ……」
少しはあったけど、それを心配してくれた妹に俺の腕を組みながら言うのはどうかと。
「う……こ、こんなの嘘よ……こんなのっ!」
「あ、おいっ!」
奈々子がわなわなと震えて青ざめた顔をしながら、そう叫びこの場から逃げ出してしまう。
その様子をただ唖然として見つめるしかなかったが、由乃さんは気にすることはなく、
「奈々子、泣いちゃったわねー。ちょっと刺激が強かったかしら。んじゃ、今のうちにしようか」
と、俺の腕を引いて由乃さんが続きをせがんでくる。
これ……奈々子を完全に怒らせてしまったのでは……。




