第六十四話 今カノと元カノとのダブルデート中に
「はあ……今日も暑い」
夏休みだってのに夏季講習のために学校に行くことになり、暑い中、家路に着く。
何だか家に居ても落ち着かなくてなあ……由乃さんは今は大学の試験があるらしくて、遊びには行けそうにないらしい。
そろそろ終わるらしいけど、今度デートする時は奈々子も一緒とか言い出しているから、憂鬱なんだよなあ。
なんであいつなんかと……と思ったが、断わると由乃さんを怒らせちゃうんで、俺も従うしかなかった。
友達も部活やらバイトやら塾やら何やらで、予定が入ってるんで、俺は何をやってるんだかなあ……。
「ん? 由乃さんか……はい」
『陸翔、こんにちわ。今、いい?』
「なんですか? デートのお誘いなら、嬉しいですけど」
『きゃー、そう言ってくれると嬉しいわ。うん、試験やレポートも一段落かさたし、今度また奈々子と三人で遊びに行きたいと思って』
「あー、はは……そんな事、言ってましたね」
由乃さんから電話が来たので何かと思ったけど、その話か。
何で彼氏とのデートに妹を同席させたがるんだろうなこの人は。
『くす、何だか凄く嫌そうな声をしているけど、奈々子と仲良くしないと駄目って言っているでしょう。たまには二人で遊びに行っても良いんだけど、そういう予定はない?』
「ないです」
『はいはい。そんなだから、私と一緒じゃないと駄目だって思っているのよ。取り敢えず、今度の土曜日ね。ちゃんと忘れないように』
「はーい……」
あいつと一緒だと、楽しさが半減どころじゃないんだが、由乃さんは本当に楽しいのかな。
彼女が何を考えているときはどうすれば良いのか……こういう時は困った時の……。
「彼女が何を考えているのかわからなくて困っています。どうすればいいですか?」
家に帰った後、ノートパソコンを立ち上げた後、早速、AIちゃんに聞いてみる。
もう困った時のAI様と言った感じだが、本当に便利なんだよなあ。
どんな相談にも乗ってくれるし、他愛もない世間話もしてくれるし、勉強でわからない事を聞いてもすぐに答えてくれる。
これがあれば、もう人間いらなくね?
いや、これを作ったのも人間なんだけど、それくらい便利で楽しすぎるのよ。
無料体験終わったらどうしようかな……月額三千円は安い買い物ではないし、何より十八歳未満は親の同意がないと加入できないらしいのだ。
あーあ、全く世知辛い世の中だよ。
高校生だって色々と使いたいんだよなあ。
受験勉強にも使えるだろうしさ……無料プランだけじゃ制限があってきついのよ。
「ん? なになに……彼女としっかり話し合うか、もしくはアプローチ方法を変えてみましょう。親睦を図ってタイミングを見計らう。そして、質問の仕方を工夫するなどしましょう。なるほどねー」
模範解答なのかもしれないが、こんなあいまいな質問にも即座に答えてくれるのは実に素晴らしい。
人間のカウンセラーでもこうは行かないだろうな。
あー、無料体験が終わるのが惜しい。どうにか継続できる方法はないか考えないとな。
そして土曜日――
「陸翔、こっちよ」
約束通り、由乃さんと奈々子の三人でデートに行くことになり、待ち合わせ場所に行くと由乃さんが大きく手を振って、俺を招く。
「すみません、遅れましたね」
「いいのよー。私たちも今、来たところだし。ねー、奈々子」
「そうね。陸翔なんか別に来なくてもよかったけど」
「もう、ダメよ、そんな事を言っちゃ。そうやって、ツンツンしているナナちゃんも可愛いけどねえ。私も今日、ちょっと準備に手間取っちゃって」
「は、はあ……あの、髪染めました?」
「あ、わかるー? 茶色に染めたのよー。ついでに、マニキュアとピアスもしたの。へへ、似合う?」
「え、ええ……」
おいおい、すっかりギャルっぽくなっているけど、もしかしてその準備のために?
良いのかよ、茶色に染めちゃったりして……もうすぐ就活なんじゃなかったっけ?
「奈々子はセンスがあるからねー。陸翔もこういうファッションの方が好みらしいし、私も頑張っちゃった。結構いいわよね、こういうの。開放的な気分になれて」
開放的になりすぎじゃねえかと思ったが、ちょっと付き合っていた当初の由乃さんと変わりすぎて、付いていけない。
はあ……どうしてこうなったんだ? どこかで選択肢を間違えたんだろうか……。
「何、溜息ついているのよ。気に入らないわね」
「別に」
「まあまあ。今日は映画を観に行くんでしょう。まだ少し時間あるわね。そこのお店で涼もうか」
三人で映画を観に行くことになっているのだが、相変わらず奈々子はムスっとしているし、由乃さんは垢ぬけ過ぎちゃうしで、何だか悪い夢を見ている気分だ。
前みたいにほんわかした由乃さんとイチャイチャしたいなー……どうすれば、戻れるのか教えてほしい。
「あ、ここのソフトクリーム美味しいんだって。食べてみる?」
由乃さんと奈々子は二人で密着しながら、あちこちの店を回っていき、俺はその後ろをトボトボと付いていく。
彼氏がいるの忘れないでほしいんですけどねえ……。
(AIちゃん、何か気まずいんだけど、どうすれば良いかな?)
何となく気まずい気分になったので、スマホでAIちゃんに今の状況を打開する方法を聞いてみる。
『彼女と女友達の三人と遊びに行っていますが、女同士で話していて、なかなか間に入れません。どうすればいいですか?』
さーて、どんな回答が返ってくるかなー。
こうやってスマホでも気軽に聞けるのが良いところだね。どんだけ頭のいい美少女なんだろうなあ、人間にしたら。
『それはお困りですね。会話に割って入りにくいであれば……』
「え? あ、ちょっと何するんですか!?」
まだ回答を見終わらないうちに、前に居た由乃さんが無言でスマホを取り上げてしまい、ニコニコしながら、
「陸翔。あんたも懲りない男ね。この前、注意したばかりなのに、またスマホで……何をしているのかと思ったら……へえ、またAI。どんだけハマっているのかしら」
「あ、いや、これは……」
しまった。また由乃さんを怒らせてしまった。
でも、由乃さんも悪いんじゃないかなあ。奈々子と話してばかりで俺の相手をしてくれないじゃん。
「二人に間に入れないですって? そういう言葉は陸翔の方から一回でも声をかけてから言いなさい。まあ、しょうもない彼氏よね。本当、幻滅しちゃった」
「す、すみません……」
「お姉ちゃん、何やっているの?」
「あ、奈々子。陸翔がまたAIで遊んでいて」
「ふーん。またなの。マジキモイ男」
「そうよね。ゴメンね、ウチのバカが迷惑かけて」
「は?」
奈々子が前から駆け寄った際、由乃さんが耳を疑う言葉を発したので真っ白になる。
「あ、あの……今のって」
「ん? ああ、陸翔の事に決まっているじゃない。馬鹿な彼氏を持ったって意味よ。だってそうじゃない。美人姉妹とデート中にAIに夢中なんて、こんな男が馬鹿じゃなかったら、何なのよ?」
「う……で、でも……」
さすがにきつ過ぎないかとおもったが、それを見た奈々子は、
「ぷ……そうよねえ……言った通りでしょ、お姉ちゃん。そんなバカな男は止めておけって」
「奈々子の言ったとおりだったわね。でも、馬鹿な子も可愛いっていうじゃない。お姉さんが少しは教育して上げないと駄目ね、こんな出来損ないは」
もう考え付く限りの罵詈雑言を俺に由乃さんは浴びせ、奈々子もそれを愉快そうに笑ってみる。
この姉妹……そんなに俺を馬鹿にして楽しいのかよ。




