第六十二話 思いもよらぬ浮気相手?
「くす、そうだ。陸翔と一緒に晩ごはんをどうかって誘ったんだけど、奈々子はどう?」
「は?陸翔と晩御飯って、まさか……」
「そう、ウチでよ」
「はあっ!? い、嫌に決まっているでしょ!」
まーだ、由乃さんは俺を夕飯に誘おうとしていたのかと驚いたが、案の定、奈々子もビックリしてしまい、即座に拒否する。
そりゃそうだよなとしか思えんが、今回ばかりは奈々子と意見が一致したので、
「ほら、奈々子もこう言ってますし。俺も心の準備が出来てないんで、今日は止めておきます」
「今日は嫌って事なら、いつなら良い?」
「お姉ちゃん! いい加減にしないと私も怒るよ! 陸翔を家に招待するなんて冗談じゃないわよ! 大体、お父さんやお母さんになんて紹介する気? まさか、私の元カレですって、正直に言わないわよね!?」
「あらあら、二人ともそんなに嫌なら、仕方ないわ。ゴメンね、陸翔」
「いえ……」
珍しく奈々子が由乃さんに対して、声を荒げてきたが、ようやく由乃さんも折れてくれたので、ホッと一息つく。
考えてみたら、姉妹二人に手を出すとかいうとんでもない事をしているんだよな俺……。
奈々子はあいつの方から振ってきたんだけど、二人の両親から見たら俺は可愛い娘達に手を出した鬼畜に思われるんじゃ……。
(俺が二人の父親だったら、ぶん殴っているかも……)
内面はともかく見た目は可愛い娘二人に手を出した男なんて、親から見たら、とんでもないクズなチャラ男にしか思えんだろうしな。
「というわけで、またの機会で。それでは」
「あ、待ってよ」
「何ですか?」
早いところ、帰った方がいいと思い、この場から走り去ろうとすると、由乃さんに腕を掴まれ、
「今度、また三人で遊びに行きましょう? それなら、いいわよね?」
「え、ええ……それなら……」
嫌すぎるんだけど、ここで奈々子を拒否すると、由乃さんを怒らせかねないので、ひとまず頷く。
奈々子もめっちゃ嫌そうな顔はしていたが、やっぱり由乃さんを怒らせたくはないのか、ただ黙って俺をにらんでいた。
「それじゃ、またねー」
ようやく由乃さんと奈々子の二人と別れ、家路へと着く。
危うく食事に招待されるところであったが、由乃さんも俺なんかが自宅の夕飯に同席したら、絶対空気が悪くなるってのわからないのかな?
「はあ……気が思いやられるな……」
家に着いた後、グッタリとしてしまい、机に突っ伏す。
最初は由乃さんを呼び捨てにして、ちょっといい雰囲気だったんだが、その後がね……呼び捨てにしたって、最初は優越感を感じられたけど、慣れてしまえばそんなものはすぐになくなる。
由乃さんが喜び過ぎちゃって、変な勘違いしちゃったから、エッチな時だけ限定にしておこうっと。
「どうするかなー、夏休み」
学校がないので、自然と由乃さんと会う機会が増えるんだし、それ自体は良いんだが、奈々子がセットで付いてくるんじゃなあ。
「ゲームでもやるかな……ん? 何でも質問してください……AIか」
ちょっと質問してみるかなー……最近、人と触れ合うのもちょっと疲れてきっちゃったし。
『付き合っている彼女がやたらと求めてきます。嬉しいですけど、鬱陶しさを感じちゃうので、どうしたらいいですか?』
とスマホでポチっと質問してみる。
こんなの友達にも絶対に言えないような悩みだが、どう答えくれるかなあ。
「おっ、すぐ来たじゃん。何々……」
『パートナーが肉体関係を求めてくるのはそれはあなたが愛されている証拠です。しかし、どうしても嫌な場合は正直に伝えるか、それが難しい場合は、別のスキンシップを試みるのはどうでしょうか?』
「別のスキンシップねえ……例えば、どんなかなーっと」
そう思うと、次々と事例を挙げてくれた。
手をつなぐ。
ハグやキス。
腕を組んだり、添い寝。
「うーん、その辺は全部経験済みなんですよねえ」
やっぱり模範解答的な答えが返ってきたが、とにかく話を聞いてもらえただけでもありがたい。
所詮はAIだと馬鹿にしていたが、なんだかんだで真摯に聞いてくれるし、人間に相談したって、これ以上の案が出てくることはないかもしれない。
「もう少し踏み込んだ質問をしてみるか」
『彼女とは上手くいっていますが、彼女の妹と仲が悪くて困っています。どうすれば関係を修復できそうですか?』
AIとは言え、ちょっと聞きにくい事ではあったが、どんなアドバイスをしてくれるやら……。
『彼女の妹と仲が悪いのは困ったことですね。その場合、彼女にまずは相談してみるのはどうでしょう? それでも無理なら妹さんへの接し方を変えてみてはどうでしょう? 例えば……』
へえ、こんなデリケートな質問にも即座に答えてくれるとは……いや、技術の進歩は凄いなあ。
「どれどれ……」
彼女の妹への接し方は……共通の話題を見つける。感謝の気持ちを小さなことでもいいので伝える。
ほめてみる。無理に仲直りしようとしても嫌がれるので、適切な距離感を保つ……。
ふむふむ。
まあ、無理に仲直りしようとしても嫌がられるってのは確かだな。
共通の話題ね……あいつの趣味は何だったかな?
付き合っているときにはお菓子作りだの、アクセサリー集めだの、実に女の子らしい趣味を口にしていたが、それも本当かどうか。
「む。まだあるのか?」
『彼女と一緒にその妹さんと遊びに行くというのはどうでしょうか? 大人数で行動することで緊張を和らげる効果を生みます。それか、一緒にゲームしたりして、協力する機会を設けるのはどうでしょうか?』
ふーん、グループで遊びに行くね……あと、一緒にゲームってのは悪くないかもな。
あいつとはクレーンゲームとかクイズゲームを一緒にやったことはあるけど、付き合っているときは盛り上がって楽しかったなー。
「はあ……駄目だ、思い出そうとすると、鬱な気分になる」
奈々子との付き合っていた時の思い出は基本楽しい事ばかりだったので、それだけに唐突に振られた時のショックは大きかった。
あんな悪女だったってのがまたショックでな……くそ、あんなビッチだったとは思いもしなかったわ。
「しかし、AIは便利だな。こんな聞きにくい相談にまで、じゃんじゃん答えてくれるとは」
文明の利器ってのはすげえな。
もうこのAIちゃんと結婚したいよ。美少女なんだろうなー、擬人化させたら。
俺の事を全肯定してくれるし、どんな質問にも答えてくれるし、嫌な思いはさせないし……ほかにもいろいろと聞いてみようっと。
「あ、もう終わりか」
他にも色々と質問をぶつけている間に、これ以上質問するには有料プランに入ってくださいと注意書きが出てしまった。
ちっ、やっぱり無料だと制限があるんだな。
有料プランは月額二千九百円からか……うーん、ちょっとお高いな。
「おっ、無料お試し体験ってのがあるのか」
月に三千円近く取られるのは安い買い物ではないので、躊躇していると、一か月間無料のお試し体験があるらしい。
一か月なら、夏休みはずっとこのAIちゃんと一緒に居られるな……どうしようかな?
二千九百円ならぶっちゃけ本当の彼女よりコスパが良い気もするので、




