第六十話 今カノに尻を敷かれ続ける羽目に
「はあ……」
なんだろうなこの虚無感は? 由乃さんとしたのに、何だかあまり爽快感もない。
「もう、どうしたの浮かない顔をして? 疲れちゃった?」
「いえ……」
「そう。陸翔も遠慮しないで良いのに。もう、何回目だっけ? まさか、飽きたとか言わないよね?」
「そういう訳では……」
由乃さんは下着つけながら、嘲笑うような口調でそう言っていたが、飽きたってわけじゃ断じてない。
だけど、今の由乃さんはなあ……やたら、積極的過ぎて
「陸翔って、攻めに弱いタイプなのかもね。こんなんじゃ、奈々子と付き合っていてもどっちみち上手く行かなかったろうなあ。あの子、弱気な男の子、嫌いって言っていたし」
「う……そうですかね……」
髪を整えながら、グサっと来るような事を由乃さんに言われてしまったが、よくもまあ、あいつの元カレである俺に対してそんな事を言えるな……。
「ちょっと、傷付いた? でも、私たちも一線越えた仲なんだし、言いにくい事もハッキリ言っても良いかなって。あの子に未練あるわけじゃないんでしょ?」
「それはそうですけど……」
奈々子とよりを戻そうなんて考えは、微塵もありゃしないが、その奈々子由乃さんが
「私と付き合う以上は奈々子とも仲良くしてもらうから。この先も三人で出かける機会は増やしていくし、あの子の面倒も陸翔には私の代わりに見てもらうよ。いいよね? 将来、義理の妹になるんだから、当然よね」
「だから、気が早いですって……」
もう俺と結婚する気でいるのか?
嬉しいけど、今からそんなことを考えるのはちょっとなっと思ったが、俺なんかは由乃さんを孕ますとか言っちゃったからなあ。
怒っているなら、素直に言ってくれればいいのに……何を考えているのかわからないのが辛い。
「んじゃ、もう行こうか。夏休み、そろそろよね? 私もこれから大学のテストがあるし、夏休みには塾の夏期講習とかサークルの合宿もあるの。それでも、週に一回は会いたいなーって思っているんだけど、予定は大丈夫?」
「はい、忙しいんですね」
「くす、そうね。できる限り、陸翔の都合にも合わせるようにするから。ムラムラして我慢出来なくなったら、遠慮しないで言ってね」
「は、はあ……」
ムラムラって、由乃さんも随分と品のないことを口にするようになったなー。
少し前までは想像もできない変貌っぷりだけど、どうしてこうなった?
(ああ、由乃さんとやってからだな……)
あれから俺のことを呼び捨てにするようになったし、ファッションも口調もなんかギャルっぽくなってきた。
奈々子ですらここまでは言ってなかった気がするけど、由乃さんもやっぱり奈々子の姉だったって事?
どうしようかな……奈々子の性格の悪さまで似てきちゃうとなると、俺も由乃さんとの付き合い方を考えないといけないし、何よりだ。
そのうち、他の男に走ってしまう可能性も……奈々子があんなでも、由乃さんは違うと思いたかったが、ここへ来て血のつながりはやっぱりあるんだなと思ってきてしまった。
翌日――
「それでは、明日から夏休みだが、羽目を外しすぎないように」
終業式も終わり、一学期の日程もようやく終了する。
夏休みといっても、部活がある奴はほぼ毎日学校行くようだし、夏期講習やら何やらもあるからな。
そういう俺は由乃さんの事が頭から離れなくて、夏休みの予定もぽっかり空いたままだった。
大丈夫だよな? 昨日もちゃんと……うん、考えすぎだ。
由乃さんだってそこまで極悪なことはしないよね?
「あ、奈々子。ちょっといい?」
「じゃあね」
「おい、無視をするなよ」
「私、友達と出かける予定なんだから、邪魔しないで」
教室を出たところで、奈々子を見かけたので、声をかけるが、俺とは目を合わせようともせず、スタスタと歩いていく。
「いいじゃん、仲直りしたんだろう?」
「してねーから。勘違いするな」
「由乃さんも仲良くしろって言ったじゃん。頼む、話を聞いてくれ」
「く……いい加減にしなさいよ。どうして、私にばかり声をかけるのよ」
虫が良い話なのはわかっているが、今は奈々子だけなんだよ、話を聞いてくれるのは。
「由乃さん、何か変わっちゃってさ……どうしたらいいのかなって思って」
「さあね。お姉ちゃん、何も変わってないと思うけど」
「そうなの? 最近、妙にギャルっぽくなっているっていうかさ。お前が服装とかアドバイスしているの?」
何とか近くの空き教室に奈々子を引っ張っていき、最近の由乃さんの事を聞いてみるが、案の定、奈々子は俺に対して敵意むき出しの顔をしており、とてもアドバイスなどしてくれそうにはなかった。
はあ……まあ、話聞いてくれるだけでもいいか。
「あんたにそんなことを教える義務はないわね。彼氏気取っているなら、別にお姉ちゃんがどんなファッションしようが雰囲気がどうとか気にするんじゃないわよ」
お、口調は悪いが、なんかアドバイスらしいことは言ってくれたじゃないか。
まあ、それでもいいんだよ。
「もう帰る。時間だし」
「あ、待ってくれよ……」
「触るなっ! 汚らしい……それでお姉ちゃんを……あんたは絶対に許さない。フラれたくらいで、当てつけでお姉ちゃんと付き合いやがって」
「まだそんなことを言っているのかよ、お前」
「ふん、死ぬまで言ってやるわよ。仲直りした? 冗談じゃないわよ。お姉ちゃんに言われて、仕方なくこの前はプールに付き合ってやっただけだっての」
それはわかっているんだけど、この前はナンパから助けてやったんだからさ……まあ、恩に着せる気もないけどさ。
「まあ、話を聞いてくれただけでも礼を言うよ。ジュースでも奢るぞ」
「いらない。私にかかわるな」
「でも、由乃さんもまた三人で遊びに行きたいって言ってただろ」
「その時はそのときよ」
と言って、奈々子は俺の後から足早に去っていく。
生意気な女だが、ファッションや雰囲気が変わったくらいで気にすることはないってのは確かだな。
別に前みたいに戻らなくても、由乃さんは由乃さんだしなー。
「ん? 由乃さんからだ……はい」
『陸翔。またライン送るのサボってっ! 毎日、一回は送れって言っているでしょ!』
「は? ああ、すみません……」
夜中になり、そろそろ寝ようとしたところで、由乃さんから電話がかかってきたので、何かと思ったら、そんなことか。
『今日は終業式だったんだから、話すことが何もないわけないでしょう。それとも、私と話すの嫌になったとかじゃないよね?』
「そんなわけ……学校でも毎日、由乃さんの事考えていますし」
『本当? じゃあ、明日会える?』
「え? ああ、はい……」
『明日、ちょうど家に誰もいないからさ。私の家に来てよ。何をするかはわかるよね?』
何ですかと聞こうとしたが、またですか……。
『週に一回はデートって言ったけど、訂正しようかな。週に一回以上は私を抱いてもらうよ。陸翔が本当に私を愛しているっていうならね。いい? 守らなかったら、陸翔との関係も考えるからね?』
「はい……」
ちょっとラインを送らなかったくらいで、これだもんな……。
由乃さんも態度が段々大きくなってきて、我慢が出来なくなってきたけど、明日会うっていうなら、そこでいろいろと話しておくか。




