第五十七話 今カノはよりを戻させたい?
「うーん、やっぱり混んでますね」
流れるプールに入ったが、夏らしい暑い日のせいか人でいっぱいであり、ボケっとしていると二人とはぐれてしまいそうだった。
奈々子はどうでもいいが、由乃さんはしっかり見てないとな。
「きゃー、凄い人ね。奈々子もはぐれないようにお姉ちゃんにしっかり捕まっていてね」
「子供じゃないんだから、平気だよ」
俺のすぐ前で由乃さんと奈々子は腕を組みながら、流れるプールを歩いていく。
こうして見れば仲良しの美人姉妹に見えるし、実際にそうなんだろうけど、この二人に最近は振り回されていて、ちょっとまいってしまっている。
「ほら、陸翔も。こっち来なよ」
「あ、はい」
由乃さんに促されて、俺も由乃さんの隣に歩いていく。
「えへへ、陸翔もしっかり捕まらないと」
「はは……わかりました」
彼女に近づくと、由乃さんに手を掴まれて、ゆっくりと歩いていく。
嬉しいといえば嬉しいシチュエーションだが、奈々子の視線が痛すぎる。
もう親の仇以上に恨まれているなこれは。
「ほら、奈々子も陸翔と手をつなぐ?」
「嫌に決まっているでしょう」
「あらあら、照れちゃって。いいわよー、その分、お姉ちゃんが陸翔とイチャついちゃうから。ねー?」
「は、はは……そうですね」
奈々子に見せつけるように、俺の腕を組んで体を密着させてきたが、妹の前でよくこういうことが出来るなと感心してしまう。
ま、由乃さんとイチャつく分には構わないけどね。
「もう一周しちゃったわね。ね、今度は何処に行く?」
「由乃さんと二人でウォータースライダー滑りたいです」
「そうね。奈々子は?」
「お姉ちゃんと一緒に滑りたい」
「まあ。じゃあ、そうしようか」
おいおい、俺が由乃さんと滑りたいって言った矢先にそれかよ。
どんだけ俺達の邪魔をしたいんだこいつは。由乃さんも由乃さんだよ、あっさり奈々子の誘いに乗って。
「あのー、由乃さん。俺と滑るんじゃなかったんですか?」
「まずは奈々子とやって、後で陸翔と一緒に。それで、その次は奈々子と陸翔の二人で滑ったら?」
「はあ? 何で俺が奈々子と?」
「あら。今日は私たちとのデートじゃない。だったら、奈々子の相手もしないとね」
いやいや、奈々子はあくまでもおまけみたいなもので、今日は由乃さんと二人きりのデートしたかったんだけど?
てか、自分の彼氏が妹と二人で、しかも元カノと一緒にウォータースライダーやるっていいの?
「私も嫌なんだけど」
「あら。奈々子も前に陸翔と一緒にプール行くとか言ってなかったっけ?」
「あ、あれはまだ……」
奈々子と一緒に……ああ、付き合っているころにそんな話はした記憶はあるな。
夏になったらプール行きたいねー、奈々子の水着も見たいなって話はしていたけど、まさかこんな形で実現するとは。
「まあ、取り敢えず、最初は陸翔と滑るわ。さ、並ぼう」
「は、はい」
奈々子となんか絶対に嫌だと思っていたが、由乃さんに手を引かれて、ひとまず由乃さんと一緒に滑ることにした。
「結構、高いわねえ……じゃあ、私が前で良い?」
「はい」
「へへ……じゃあ、行くよ。キャーーーっ!」
由乃さんと一緒にウォータースライダーに並び、滑り台の上で由乃さんを膝に乗せる形で一緒に滑っていく。
ちっ、どさくさ紛れにおっぱいでも揉んでやろうかと思ったが、スピードがあったので無理だった。
「きゃー、すごいスピードだったわね♪」
「ですね」
あっという間に下のプールに着水してしまい、二人でプールサイドの上がる。
「それじゃ、次は奈々子ね♪ ほらー、ボーっとしないの」
「あ、もうくっつかないでよ」
即座に由乃さんは奈々子の腕を掴んで、もう一度、奈々子と一緒にウォータースライダーの列に並ぶ。
全く二人でイチャついちゃって……姉妹だから別に良いんだけど、どうも複雑な気分だな。
ザブーーーーンっ!
「きゃー、楽しかったわね♪」
「ゲホ、ゴホ……お姉ちゃん、大丈夫だった?」
「あら、平気よ。奈々子、こういうの苦手だっけ?」
「苦手じゃないけど……」
しばらくして由乃さんと奈々子が一緒に滑って着水し、せき込んでいた奈々子の手を引いて、由乃さんがプールから上がる。
「お疲れさま」
「ふふ、私はもう終わったから、次は二人の番ね」
「い、いえ……奈々子とはちょっと……」
「んーーー? 奈々子とは何? ハッキリ言って? 返答しだいじゃただじゃ済まないけど」
嫌だと言おうとしたら、由乃さんはあからさまに怒っているような態度でそう迫ってきたので、
「わかりました。奈々子は良いか?」
「く……わかったわよ」
「ふふ、じゃあいってらっしゃい♪ 奈々子との浮気、しっかり楽しんでってねー」
浮気ってさあ……冗談でも笑顔で彼氏に言うことじゃないでしょうに。
「はあ……混んでいるな」
「そうね」
「お前、本当にいいの?」
「いいわけないでしょう。お姉ちゃん怒らせるの嫌だから、従っているだけ」
「へえ。そんなに由乃さんに頭上がらないんだ」
「お前には関係ない」
並んでいる最中にそんな会話をするが、お前だってさ。
言葉遣いも荒くなってきたなー……昔は本当に可愛いこぶっていたのによ。
「まさか、こんな形でお前とプールに行くことになるとはな」
いつだったか、付き合っているときに一緒にプールに行こうって話はしていたけど、その時は奈々子と別れてそのお姉さんと付き合うことになるなんて夢にも思わなかった。
何でこうなったんだか……奈々子も付き合っているときとは別人みたいだしさ。
「おっ、俺たちの番だぞ。お前先に滑る?」
「あんたが先に行け」
「はいはい。じゃ、行くよー」
奈々子に促され、俺がまず先に滑り、そのあとに奈々子が続いて滑っていく。
二度目だったので、着水まで実に味気なく、あんまり楽しくもなかった。
「あれ? 由乃さんどうしたんです?」
プールから上がると、由乃さんが俺たちを待っていたが、何故か由乃さんは頬を膨らませて、
「何で奈々子と一緒に滑らなかったの?」
「はい? いや、滑りましたけど」
「嘘よ。二人とも別々に滑っていたじゃない。それじゃ、駄目。ちゃんと二人で体を密着させながら、滑らないと駄目よ」
「は、はあ? 何でそこまで……」
と由乃さんが思いもかけないことを言ってきたので、俺も奈々子も戸惑っていたが、
「二人ともちゃんと仲直りしないと駄目よ。全然楽しそうにしてなかったし、やり直し。私と滑った時みたいに奈々子をしっかり抱えて滑りなさい」
「お、お姉ちゃん。どうしてそこまで……」
「そうじゃないと嫌なの。奈々子も言うこと聞けるよね? 陸翔もよ。もっと私に見せつけるくらいに仲良くしないと」
おいおい、見せつけるくらいにってどういう事?
まさか、奈々子と寄りを戻せとかいうんじゃあるまいな?
いや、そこまでは……ないと思いたいけど、
「わかった?」
「……




