第五十五話 今カノの誤解?
「あ、えっとこれは……ち、違うんです! これは奈々子が……」
や、ヤバイ! これは非常にヤバイ状況じゃないか!
「り、陸翔……これはどういう……?」
「違います! 奈々子がいきなり……」
「お、お姉ちゃ〜〜ん!」
慌てて弁解しようと起き上がると、奈々子が先にソファーから立ち上がり、泣きながら由乃さんの下に駆け寄って行った。
あ、あのアマっ! まさか、これを狙ってっ!?
俺が奈々子を無理矢理襲っているような場面を由乃さんに見せつける為に……。
だあああっ! 奈々子の野郎! そこまでして、俺と由乃さんの仲を妨害したいのかよ!
「え、えぐ〜〜……お、お姉ちゃん〜〜……」
「奈々子……陸翔、これはどういう事かしら?」
「いえっ! 俺は何も……奈々子が無理矢理、俺を……」
「…………陸翔」
「は、はい!」
由乃さんら部屋のドアをバタンと閉め、奈々子の頭を撫でた後、ゆっくりと俺の方へ向かっていく。
お、終わった……のか?
奈々子のくだらない猿芝居に嵌められたせいで、
「どうして、奈々子にこんな事をしたのっ!?」
「違います! そいつが……」
「いくら、奈々子が可愛いからって、私に黙ってそんな事しちゃ駄目じゃない! 奈々子もよ! 陸翔に未練があるなら、お姉ちゃんにちゃんと言ってくれないと!」
「はっ? いや、未練とかそういうのじゃ……」
ん? 何を言ってるんだ由乃さんは?
「ましてや、カラオケボックスの中でなんて……駄目よ、店員さんだって見ているかもしれないんだから」
「あ、あの……お姉ちゃん、何を言っているの? 私、陸翔に……」
「陸翔に? わかったわ。取り敢えず、ここじゃ何だから家に行きましょう。そこで詳しい話は聞かせてもらうから」
「え? でも……」
「ほら、陸翔も」
「あ、はい……」
どうも由乃さんと話が噛み合ってないので、俺も奈々子も混乱してしまっているのだが、取り敢えず由乃さんに話を聞いてもらいたいので、二人の家に行くことにした。
「さて……まずは陸翔、どうして奈々子と浮気しようとしたのかしら?」
「う、浮気? いや、あれは奈々子が……」
「そ、そうよっ! 別に浮気なんかじゃ……こいつが私を無理矢理……」
由乃さんと奈々子の自宅に行き、由乃さんの部屋で、俺も奈々子も由乃さんの前に正座させられる。
「んもう。二人ともー。やっぱり、まだお互い未練があったんじゃない。でも、奈々子も駄目よ。今、陸翔はお姉ちゃんの彼氏なんだから」
「はあ? あのだから……」
「えっと、由乃さん。別に俺達は浮気していた訳じゃ……」
「そうよ! 陸翔が無理矢理、私をっ!」
「あらあら。言い訳しなくてもいいのよ。奈々子も陸翔の手を掴んでいたじゃない。奈々子もやっぱり陸翔の事、まだ好きだったのよね?」
「なっ!」
み、見ていたのか?
奈々子が俺の腕を引いて、強引にソファーに引き寄せたって所を……だったら、話が早い。
「あ、あれはつい……」
「くす、奈々子も陸翔と仲良くしたいと思っているのね。いいのよー、その気持ちはむしろ嬉しいから。でも、ああいう事はやっちゃ駄目よ。奈々子は良い子だから、わかるよね?」
「う……」
奈々子を抱き寄せながら、由乃さんは奈々子の頭をなでなでして、優しく諭していく。
はあ……どんだけ、奈々子を甘やかしているんだよ、この人は……。
「陸翔も陸翔ね。奈々子と仲良くしたいなら、せめて私に事前に言うか、見てない所でやる事ね」
「はあ……あの、俺は何もしてないんですけど……」
「言い訳しないの。ほら、これで二人とも仲直りって事で良いわね。はい」
「あ、あの……だから……」
由乃さんが勝手に都合のいいように解釈して進めてしまい、俺も奈々子も何一つ納得できないままだったが、これ以上言い訳しても無駄と観念したのか、取り敢えず由乃さんに手を掴まれるがままに、二人が握手をさせられる。
前から思っていたが、由乃さん……やっぱり、おかしい女性だ。
天然というか、何を考えているのかさっぱりわからない。
しかし、最悪の展開だけは避けられたと思っておくか。
そして夜中になり――
『はい。陸翔じゃない、こんばんわ』
それから帰宅した後、夜になってもう一度、由乃さんと話をしたいと思い彼女に電話を掛ける。
「あのー、今日の事なんですけど……」
『ああ、奈々子の事。大丈夫よ。私の方からちゃんと言っておいたし』
「あ、いえ……ありがとうございます。でも、浮気をしていたわけじゃ……」
『ふふん……奈々子が可愛くて、我慢できなかった?』
「は、はあ? そんな訳……」
また何を勘違いしているんだ、この人は?
奈々子に未練があって、ああいう事をしたって本気で思っている?
『駄目よー、浮気は。奈々子は可愛いし、最高の妹だから、あの子に浮気しちゃう気持ちはわかるけど、私の目の届く所でやっちゃ駄目』
「…………」
いい加減、頭が痛くなってきた。
今の由乃さんの話を聞く限りだと、由乃さんの目の届かない所で、あいつと浮気しても良いって話になりそうだが、それでも構わないって事?
『学校ではいくらイチャついても構わないから。それで、我慢できる?』
「しませんよ。奈々子だって、そこまでしたくないでしょう?」
『えー? そうかなー……たまには二人で遊びに行きたいとか思わないの?』
「思いませんよ。俺は由乃さんしか……」
寄りにもよって、奈々子と浮気何て冗談じゃない。
あいつが何より嫌だろうし、俺の事を都合よくポイ捨てした最悪の元カノだろうが。
『まあ、それは嬉しいけど、奈々子とも仲良くしないと駄目よ。あの子は将来、あなたの妹になるんだしね』
相変わらず気が早いな……まあ、由乃さんと結婚したら、実際にそうなるんだけどさ。
『そうだ。今度、プール行かない?』
「プール? ああ、良いですね。由乃さんの水着、見たいです」
『くす、正直ね。良いよ、見せてあげる。ついでに奈々子も一緒で良い?』
「は? な、何であいつまで?」
プールのお誘いを受けたので、即座に飛びついたが、奈々子まで誘うと言い出したので、
『いいじゃない。三人で遊びましょうよ』
「俺、由乃さんと二人が良いんですけど」
『私は三人が良いの。奈々子とも仲直りしたんだし、良いじゃない。二人ともこっそり浮気しちゃうくらい、仲良くなっているんでしょう?』
だから、仲直りなんぞしてないってのに、奈々子にもそう言われているはずだが、駄目だ……。
由乃さんと全く話が通じないし、俺にはもうどう彼女と付き合っていけばいいのかもわからなくなってきた。
『嫌なの?』
「由乃さんと二人が良いです」
『じゃあ、無しね。陸翔ともこれっきりにするから」
「は、はい?」
きっぱりそう答えると、由乃さんが耳を疑うようなことを言ってきたので、
『だから。奈々子も一緒にプールに行ってくれないと、陸翔と別れるって言っているの。それでも良いの?』
「…………は、はあっ!? な、何でそうなるんです?」




