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第五十二話 主導権は完全に今カノに

「ねえ、何か一緒に歌わない? せっかくカラオケに来たんだし、二人で歌おうよ」

「あ、そうですね……えっと……」

 注文したウーロン茶を飲んでいると、由乃さんが体を密着させてきて、タブレットを差し出しながらそう言ってきたが、やっぱり間近で見ているとスタイル良いなあ。

 夏だから結構大胆な服装しているし、こんな密着されると、つい手がでてしまう。


「あ、もう……またおっぱい触ってえ」

「はっ! す、すみません。つい手が出てしまって! ああ、手が止まらないですう!」

「やあん、もう♪ こら、調子に乗らない。くす、陸翔のそういうノリの良い所も好きよ♡」

「はは、そうですか」

 胸を後ろから鷲掴みしてやっても由乃さんは嫌がるどころか、むしろノリノリで身体を委ねる。

 なんか嬉しいような悲しいような複雑な気分だな……。

 いくら付き合って既に体験済みとは言え、もうちょっと前みたいに恥じらいのある反応を期待していたんだが、今や由乃さんの方がノリノリだからな。


「んもう、やっぱり歌より、エッチの方が良い?

「うーん、ここだとまずいですよね?」

「陸翔がどうしてもってなら、ホテル行こうか。ん、ちゅ……」

 胸を揉まれながらも由乃さんがまた軽くキスをしていくが、このまま流されてしまおうかな……。


「はっ! あの……やっぱり、まずいですよね、はは!」

「あん! くす、そう。でもそんなんで後、五年も六年も耐えられる?」

「何がですか?」

 由乃さんが顔を少し離したら、俺の右手の指を掴み、

「陸翔の方こそ、大学卒業するまで私とのセックスを我慢出来る? 無理よね。だったら、無理しなくて良いんじゃない? 今すぐ私と既成事実作っちゃっても」

「いやいや、勘弁してくださいって……怒っているなら、本当謝りますんで……」

「むしろ、私の方が我慢出来ないな。グズグズしていると、陸翔に悪い虫が寄って来そうだし。ねえ、やっぱり今からホテル行こうか?」

 と、色っぽい笑みで由乃さんがそう誘ってきたが、彼女の顔は俺には刺激が強すぎるくらいの艶やかさで、ちょっと怖いくらいだった。


「はは、すみません、俺、ガキなんで」

「まあ。都合のいい時だけ子供ぶるんだ」

「俺、高校生なんですよ。由乃さんだって万が一の事があったら、まずいんじゃないですか?」

「そうね。でも、子供が出来ても構わないと思っているんだけどね。私は大学生だけど、成人は迎えているし。陸翔だって来年はそうでしょう? 今は十八が成人よね」

 だからって、十八歳になって即子供作ってもOKなんて話にはならないと思うんだが……。

 やべえ、ちょっと話が通じなくなってきている気がする。

 この強引さは奈々子にも感じられなかったので、どうしたら良いのかわからない。


「ま、どっちみち陸翔は私の物だしね。返事を引き延ばしている間に逃げようなんて思わない事ね」

「え……」

 由乃さんが手を離し、烏龍茶を口にしながら、思いもよらないことを言ってきたので言葉を失う。

 俺は私の物って……由乃さんがその言葉を平然と口にしたのが、何か地味にショックだった。

(あれ、普通なら嬉しいはずなのに……)

「ん? 私、何か間違った事言った?」

「いえ……」

「そう。あ、もう終わったみたいね。陸翔、ちょっと付いて来てくれる?」

「え? 何処へですか?」

「ふふ、来ればわかるよ」

 おれのてを引いて、由乃さんは部屋から連れ出していったが、何処へ連れて行く気だ?

 何だか嫌な予感がするんだが……。


「はあ~~……全部で、三千円ぽっちか。これじゃ、小遣いにもなりゃしない」

 歌配信が終わり、投げ銭の総額を見て、溜息をつく。

 こんな可愛い女子高生のライブを聞いておいて、これっぽちしか払わないなんて、けち臭いクソオスばっかり。

 やっぱり、コスパ悪いかなー……男どもに媚び売るのもうざいし、金にならないんじゃやっても疲れるだけだし

「ヤッホー、ナナちゃん」

「へ? お、お姉ちゃんっ!?」


「ふふ、こんにちはー♪」

「なあっ! 奈々子っ! 何でお前が……」

「陸翔まで……そ、それはこっちのセリフよ!」

 一階に降りると、何と奈々子が一人で部屋から出て来たが、まさかこいつもここに居たとは……。

「私達はデートよ。ナナちゃんは?」

「わ、私はその……」

「お前、まさか一人でカラオケやっていたのか?」

「わ、悪いっ!?」

 いや、別に一人カラオケもやる奴はいるけど、まさか奈々子にそんな趣味が……。

「ちょうどいいわ。ナナちゃんも一緒にどう? ほら、料金は私が追加しておくから。陸翔も良いよね?」

「え? いや、その……」

 由乃さんは奈々子を見るや、奈々子の腕を引いて、強引に俺達が部屋へと連れて行く。

 おいおい、とんだ邪魔が入っちまったな……まあ、ある意味助かったか。

 あのままだと由乃さんに何をされるかわからなかったからな。


「さあ、どうぞ。私の奢りよ、ナナちゃん」

「ありがとう……」

 奈々子を部屋に入れると、由乃さんは嬉しそうに奈々子を隣に座らせ、ジュースを差し出す。

 何だかキャバ嬢が接待しているみたいだが、奈々子が着て本当にうれしそうにしているな……。

 俺にもあんな笑顔を見せてない気がするが、どんだけ奈々子が好きなんだろうな。

「あのー、由乃さん。奈々子も何か迷惑そうにしている気が……」

「そんな事ないわよねー?」

「迷惑しているのはこっちなんだけど。あんたが帰りなさいよ」

「何でだよ。俺が由乃さんとデートしていたんだけど」

 折角、由乃さんと二人きりだったのに思わぬ邪魔が入ってしまった。

 まてよ、由乃さんもしかして奈々子がここに居る事知っていたのか?


「ナナちゃん、さっきの歌良かったわよ」

「は? 歌って? まだ一曲も歌ってないけど」

「ふーん、まだ気づかないんだ。そっか、子供の頃は『ナナちゃん』って呼んでいたものね。改めて自己紹介するわ。私、『ルーナ』です。ナナちゃんのフォロワーなの。今日は緊急のオフ会ね」

「…………はいっ?」

 由乃さんが笑顔で何かよくわからない事を言ってきたが、奈々子は鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をして呆気に取られていた。


「あの、何の話をしているんですか?」

「紹介するわね。この子、私の推しの配信者のナナちゃん。ほら、さっき言ったでしょう。この子よ。超可愛いでしょう」

「…………え?」

 由乃さんがスマホを見せて、さっき見ていたらしい女子高生配信者の動画を見せる。

 な、なんだって? 奈々子が動画の配信をしていたって事?

 あまりの展開に理解が追い付かず、頭が混乱していたが、それは奈々子も同じようだった。

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