第五十一話 今カノの新たな推し
「さっきの由乃さんの……」
ゴム付けていても出来る時は出来るってやつ……。
家に帰ってからもあれはどういう意味なのか、考えてみる。
まさかと思うが、穴を開けていた?
夢中だったんでいちいち確認もしてなかったんだが、もしそうだとしたら俺……。
「は、はは……まさかな。由乃さんがそんな馬鹿な真似をするはずが……」
ないと信じるしかないが、もし万が一というのを考えると、マジで気が狂いそうになる。
子供なんて出来たら、完全に人生詰むじゃん……由乃さんだってまだ学生なのに、それがわからないはずはない。
そうなると、由乃さんとはもうしばらくやらない方が良くないか?
避妊してても安心出来ませんってなら、そうする以外にないじゃんか。
クソ、俺が調子に乗ったせいで、あんな事に……いや、もしかして既に手遅れだったり?
そう考えると、血の気が引いてしまい、冷や汗が止まらなくなるが、落ち着け……由乃さんを信じないと。
今はそうする以外、気分が落ち着かなかったが、とにかくしばらくは由乃さんとの性行為は避けなければと思うことにした。
「では、テストを返します」
テストの返却日になり、期末試験の答案が返却されていく。
くそ、どれもイマイチだな……由乃さんや奈々子の事が気になったから……ってのは言い訳か。
赤点はないけど、これではちょっと受験も心配だな……志望校どうしよう?
そもそも大学行けるのか?
悠長に自分の進路を心配している場合ですらなくなってきている気がするが、由乃さんにまた週末に誘われているんだよなー……。
何か最近、やけに由乃さんの方も積極的になってきている気がするし、このまま流されないようにしないと。
『ちょっと、陸翔。明日デートの約束しているってのに、どうして電話してこないのよ』
「え……はは、テストの返却とか色々ありまして。ほら、今日は球技大会があったんですよ。俺、サッカーに出たんです」
夕方になり、由乃さんがまた俺に電話してきたが、今日はバイトがあるっていうからこっちも遠慮したのに、何で文句を言われないといけないのか。
一日一回はラインを送って来いとか、奈々子の様子を教えろとか、態度もどんどん居丈高になってきているし、あのほんわかした由乃さんは何処に行ってしまったんだろうか。
ああ、地味にストレスが……どうしよう?
『そうやって、言い訳するの本当好きだよね。陸翔がどんな言い訳を言ってくるのか私も段々と予想できるようになってきたし』
「あのー、由乃さん。この前のデートの事なんですけど、いいですか?」
『何?』
「その……子供が何歳になったら欲しいとかどうとかって」
『ああ。今欲しくなってきた?』
「う……そうじゃなくてですね! 急にどうしたんですか? 子供が欲しいなんて……」
まずそれが聞きたかったので、小声で訊ねると、由乃さんはクスっと笑いながら、
『明日になったら教えてあげるよ。ちょうどデートなんだし、二人きりで話したいでしょう」
「ああ……そうですね」
何だか上手い事、誘導された気がするが、まあ直接会って話をした方が良い事ではあるか。
翌日――
「こっち、こっち」
待ち合わせ場所に行くと、由乃さんが笑顔で手を振って俺を招く。
今日も可愛いなあ、由乃さん……夏だからか、モデルみたいな服装しているな。
キャミソールにジーンズに髪を束ねて、麦わら帽子をかぶった姿はもうファッションモデルみたいな格好良さであった。
「さ、行こうか」
「は、はい……」
俺を見るや、がっしりと腕を組んで歩き始めるが、もう最初の頃みたいな由乃さんは戻ってこないんだろうか……。
今の由乃さん、ファッションも奈々子を意識しすぎて、何か複雑なんですけどー。
「取り敢えず、二人きりになれる場所に行こうか。何処のホテルが良い?」
「いきなりホテルですか……」
「あはは、ゴメンね。陸翔ならそう言うのかと思って。ね、今度一緒にプール行かない? 新しい水着かったんだしさ。陸翔にも見せたいの」
「あ、いいですね」
由乃さんの水着は見たいので、プールは楽しみかも。
「行きたい場所がないなら、ちょっと付き合ってくれない?」
「いいですけど、何処ですか?」
「そんな警戒しないの。カラオケボックスだよ」
「あ、そうなんですか」
カラオケか……まあ、二人きりになれるし、あそこならエッチな事も出来そうにないからちょうどいいか。
「ちょっと待っててね」
「ん? どうしたんですか?」
店の前まで行くと、由乃さんはスマホを取り出して、画面を何度かタップする。
何だ? 誰かと連絡を取っているのか?
「ふふ、見つけた……陸翔はそこで待っていて」
「はい? あの……」
由乃さんは俺を置いて一人で店に行き、そこでレジの店員を何か話していた。
何だ……誰かと待ち合わせしているのか? 有り得るとしたら奈々子だが……。
「こんにちはー。ななでーす。やっと期末テスト終わったの」
カメラの前でいつものように愛想を振りまきながら、配信を始める。
最近、動画アプリを使って、配信してキモオタの男どもに愛想を振りまいて、雑談するのが日課になってきた。
『ななちゃん、期末テストどうだった?』
「うーん、イマイチだったかも♪ ちょっと勉強苦手でねー」
チャット欄に流れるコメントに適当に配信しながら、かわい子ぶった口調で答えていく。
視聴者は百人ちょいか……少しずつ増えて来たけど、まだまだ。
はあ、男なんて本当チョロイ生物。
現役女子高生だって言えば、それだけで食いついてきやがるし、適当に太腿でも見せれば信じられないくらいバズリやがる。
実際に男と絡むのは飽きてきたけど、ネットでの動画配信を通じてなら、
「あ、投げ銭ありがとうー。愛しているよ、みんなー」
早速、五百円投げ銭してきたのがいたので礼を言う。
収益化も出来たし、
『ななちゃーん、こんにちは。今日も最高に可愛いね』
「あ、ゆっくりさん、いらっしゃい。きゃー、いつもありがとう」
最近、やたらと配信に来ているフォロワーさんが来たので挨拶すると、早速千円の投げ銭をしてくれた。
何処の誰か知らないけど、気前がいい人だなあ。
文体が女子っぽいが、どうせキモイネカマとかなんだろうけど、良い鴨だから丁重に扱わないとね。
「あ、そうそう。今日はうた配信をしようと思っているの。丁度、カラオケボックスに来ているしー♪ みんな聞いてくれる?」
「ふふふ……」
「あの、さっきから何見てるんですか?」
カラオケボックスに入る直前から、由乃さんはやたらとニヤニヤしながらスマホを眺めているんだが、
「最近、見つけた配信者さんの動画なの。現役の女子高生らしいんだけど、とっても可愛くて、今、一番の推し」
「はあ……」
由乃さんにも推しの配信者なんか居たんだなと思ったが、女子高生の配信なんぞ別に興味はないし、今はどうでもいい。
「くすくす、加工アプリやコスメを使っているけど、バレバレよ〜〜……あなたは素顔が一番可愛いんだから」
「はい?」
「んー? 何でもない。歌も上手ね〜〜……将来、フォロワー何十万のインフルエンサーになれるんじゃないかしら」
何やらブツブツ言っているが、そんなに面白い配信者なのか?
まあ好きにすれば良いか。
由乃さんが動画見ている間はちょっと落ち着けるしな




