第三十一話 今カノとの秘密特訓
「はあ……あいつとの二人三脚とか、嫌だな……」
自分で立候補しておいて何だが、やっぱり今考えると、憂鬱すぎる。
絶対嫌がらせしてくるのが目に見えているからな……俺がどこまで耐えられるかだけど、由乃さんにちょっと注意してもらえば、少しは自重してくれるだろうか?
「あ、由乃さん……はい」
『こんばんは。陸翔君、今、良い?』
「ええ」
『よかった。今、奈々子から聞いたんだけど、体育祭で二人三脚やるんだって?」
「はい。何かそうなっちゃって」
『そう。もしかして、二人とも仲直りしてくれた?』
「え? いえ、仲直りした訳では……奈々子と一緒なら、あいつの事、傍で見てやれるかなって思って」
『くす、そうだったんだ。ありがとう』
仲直りなんかしたくもないが、俺と一緒なら由乃さんも安心だろうと思い、敢えて一緒にやる事をしたんだ。
『仲良くしてくれると嬉しいんだけど、別に無理に友達になろうとはしなくていいから、ちょっとだけ気にかけて欲しいなって。ちゃんとお願い聞いてくれて、嬉しいわ』
「はは……由乃さんの頼みですから」
でなきゃ、あいつの事なんか、絶対に構ったりしない。
出来れば縁を切って、金輪際関わりたくないんだけど、由乃さんと付き合う以上は……ああ、考えただけで、頭が痛くなる。
『当日は観に行けないけど、がんばってね』
「はい。あ、そうだ。由乃さん、二人三脚の特訓に付き合ってくれませんか?」
『え? 私が』
「いやー、俺、二人三脚初めてなもんで。上手くできるか心配なんですよ。だから、ちゃんと練習した方が良いかと思って」
『で、でも奈々子と一緒にやるんでしょ? だったら、奈々子と練習すれば……』
「由乃さんとやりたいんです! 本番で恥をかかないようにってのと、これを機に由乃さんの体に密着して、あちこち触りたいですし。はっ、つい本音が」
『もう、隠す気ゼロじゃない!』
てへへ。どさくさ紛れに由乃さんとのスキンシップを堪能してやろうっと。
「あはは、それでどうですか?」
『むう……いいけど、真面目に練習するのよ』
「もちろん! あ、何かの拍子でおっぱい触っちゃっても許してください」
『~~……と、とにかく真面目にやってね。それで、何処でやるの?』
うーん、何処でやろうかな。
二人三脚の練習をするなら、公園みたいな広い場所だけど……。
「河川敷とかどうです? 結構広いですし」
『うん、わかった。じゃあ、日曜日にでも会おうか』
「はい。二人きりで練習ですからね」
『はいはい』
間違っても奈々子を連れてこない様に、由乃さんに念を押しておく。
ふふ、楽しみだなー。奈々子との事でイラついても、由乃さんと会えるだけで癒されるから、
日曜日――
「あ、こっちこっち」
「どうも。早かったですね」
待ち合わせ場所の近くの河川敷の広場に行くと、由乃さんは白のTシャツとジーンズに運動靴という格好で待っていた。
運動しやすいようにか、髪もポニーテールにしているし、こんなお姿もお美しいなあ。
「へへ、じゃあ、早速やりましょうか」
「何か、顔つきがエッチなんだけど……」
「とんでもない! 今日は由乃さんとの特訓が楽しみで仕方なかったんです。ささ、足を縛るんで屈んでください」
下心を隠すつもりは毛頭ないし、由乃さんもそれを承知で来ている以上は、こっちも遠慮しないぞ。
といっても、人目もあるから、程々にしないとね。
「んしょっと……こうですかね」
早速、二人の足を持ってきた手拭いでキツく縛る。
うーん、何か上手く結べないけど、まあ良いか。
「うん。私、二人三脚ってやった事あったかな……」
「まあ、体育祭でもない限り、やらないですよね。さ、肩を組みましょう」
「う、うん……きゃっ! ちょっ、変な所触らない」
「あ、すみませーん♪ こうでしたっけ?」
「ひゃっ! も、もうわざとでしょ!」
まず、由乃さんの腰とお尻の辺りに手をやり、ついでに胸も触っていく。
うーん、由乃さんスタイル良いから、ついついセクハラしちゃうなー。Tシャツから彼女のふくよかな胸もより強調されているんで、ついね。
「うう……こ、ここは人も通るから……」
「あ、はは……ですよね」
「そういう事は、誰も見てない所でやってね」
「え? じゃあ、密室で二人きりの時なら、良いんですね? わかりました」
「そ、そういう意味じゃなくて~~……ほら、やるよ」
顔を真っ赤にして泣きそうになったので、流石にちょっと自重し、そろそろ本当に練習を始める。
俺もすっかり悪代官みたいな性格になってしまったが、由乃さんもまんざらでもなさそうな反応するから、つい調子に乗っちゃうのだ。
「じゃあ、行きますよ。いーち……」
二人で肩を組み、合図とともに一斉に縛られた足を出して、走り出す。
うーん、意外に難しいなあ……由乃さんとは少し身長差もあるから、余計にね。
「いち、に……」
「…………こんな感じですかね」
「うん……結構、難しいね」
何十メートルか走った後、一旦足を止める。
「由乃さん、身長どのくらいですか?」
「私? 162センチだよ」
「俺とちょうど10センチ差ですね」
162か……奈々子は、157㎝って言っていたから、由乃さんの方が少し高いんだな。
あいつとの身長差を考えると、本番はもうちょっと俺の方が屈まないと駄目っぽいな。
「運動、あんまり得意じゃないから、やっぱり上手く出来そうにないなー。奈々子の方が運動は得意だから、やっぱりあの子ともちゃんと練習した方がいいよ」
「まあ、体育祭の前日に練習あるんで、その時にやりますよ」
奈々子と二人三脚……付き合っている時だったら、これ以上ないくらいの幸せを感じたシチュエーションなんだけどなあ。
「じゃあ、もう一回やりましょうか」
「うん。きゃっ、こらまた胸を……」
「あ、アハハハ……いや、手が滑っちゃって」
「もう、エッチなんだから……」
どさくさ紛れに由乃さんの胸に手をかけ、もう一回、二人で走り出す。
いいねえ、こうやって二人で一つになって頑張るの。
これぞカップルという至福な一時だが、本番では奈々子とやらないといけないと考えると、その度に陰鬱な気分になっていった。
「ちょっと、休もうか」
「はい。あ、スポーツドリンク持ってきましたよ」
「ありがとう」
ちょうどベンチがあったので、二人で座り、一休みし、ペットボトルのスポーツドリンクを由乃さんに手渡す。
「ん……はあ……冷えてて、美味しいね」
「凍らせて持ってきたんで。んじゃ、俺も……」
「あ、もう……間接キスになっちゃうよ」
むしろ、それが目的なんですけどね。スポーツドリンクはもう一本持って来てあるから、足りない事はないだろう。
「ゴメンね、私、走るの遅いし、鈍くさいから、あんまり練習にならなくて」
「いえいえ、とんでもないですよ。俺のワガママに付き合ってくれただけでも嬉しいです。それに、足も遅くはないんじゃないですか?」
「そんな事ないよ。クラスでも遅い方だったし……奈々子の方がずっと速いよ」
確かにあいつは、結構足は速かった気がする。
あんなに性格悪いのに、運動も勉強もそれなりにこなすのがムカつく。
「でも、奈々子と少しは仲良くするつもりはあるんだね」
「いえ……まあ、俺は良いんですけど、奈々子が俺達の交際、反対しているっぽくて」
「くす、気にしなくても大丈夫よ。私にも最近、お姉ちゃんなら陸翔君よりももっと良い人いっぱいいるよって言ってきているけど、別に気にしてないし。私が上手くやれるか心配なだけだと思うよ」
あいつ、由乃さんにも言っているのかよ。
由乃さんは随分と楽観的だけど、俺への当たりがどんどんきつくなってきているので、やっぱり心配だな。
「大丈夫だよ。何かあったら、すぐ私に言って。ね?」
「は、はい」
由乃さんは俺の手をぎゅっと手を握って、そう言ってくれたので、一先ず安堵する。
そうだよ、あいつが何を言おうが気にする事はないな。




