第二十話 元カノの尾行していたら
「あ……」
「よう」
「おはよう」
翌朝、学校の前の通学路で奈々子とバッタリ会い、奈々子も素っ気ない返事で挨拶をして、俺の前を通り過ぎようとする。
しかし、今日はちょっと話があったので、
「ちょっと待て」
「何?」
「昨日の事で、話がある。駅で会っていた男はなんだ? 付き合っているのか?」
「さあ。陸翔にはもう関係ないじゃない。元カレだからって、保護者面するの止めてくれない?」
俺とは目も合わせず、突き放す様な口調で奈々子はそう答えるが、確かに奈々子が誰と付き合おうが、本当なら俺には関係ないし、足を突っ込みたくはない。
ただ、奈々子に何かあれば由乃さんに心配をかけてしまうし、下手すると由乃さんが巻き込まれる可能性があるので、どうしても無視出来なかったのだ。
俺の彼女を変なトラブルに巻き込んだら、たたじゃおかんぞ……。
「話はそれだけ? じゃあね」
「あ、おい……ったく……」
これ以上、話すことはないと言わんばかりの態度で、奈々子は俺の前から足早に立ち去っていく。
この場で奈々子を問い詰めても、何も話してくれなさそうなので、追いかけることはしなかったが、本当にパパ活しているんなら、バレたらマジでヤバイだろ。
あー、くそ!
何でお前は彼女の妹なんだよ!
おかけで、奈々子の事が無視できなくて、マジで頭が痛くなってくる。
放課後――
「うーむ……こうしてみると、何だかストーカーみたいだな」
奈々子の事なんかどうでも良いと思いながらも、由乃さんを心配させてしまう事態になっては困るので、帰りに奈々子の後をこっそりと付けていく。
位置情報アプリ、共有しておけば良かったんかな……付き合っている時に、俺の方からそう持ち掛けたこともあったが、奈々子の方が嫌がったので、やらなかったんだけど、そのおかげで、こんな尾行をする羽目に。
「ん? 何かキョロキョロしているな……」
駅前にあるコンビニの前に来た所で、スマホを持ちながら、奈々子が辺りをキョロキョロと見渡していた。
何をやっているんだ、あいつは?
また男と待ち合わせているんか? 別にどうでも良いんだけど、パパ活の現場にでも出くわしたら、どうすべきか……。
「よお、待った」
「あ、うん。今、来た所」
しばらくすると、金髪でヤンキーっぽい男が奈々子に声をかけてきて、奈々子と一緒に歩いていく。
(おいおい、まーた別の男を連れているよ……)
信じられん。あいつ、何股している訳?
既に俺が目撃しただけでも、両手で数えきれないくらいの男と関わっているんだけど、どんだけ男が好きなのあいつ?
「はあ……あいつ、本当に俺の彼女だったんか?」
溜息すら出てくるが、ちょっと不安だったので、二人の後を付いていく。
奈々子がどうなろうが知った事ではないぞ!
あんなガラの悪い男と付き合っていようが、何をされようが、関係ないが由乃さんが心配するから、ちょっと変な事に巻き込まれないか見張っているだけだ。
「ん?」
(やべ……)
何て思いながら、尾行を続けていると、奈々子が俺の気配に気づいたのか、こっちの方を振り向いてきた。
「どうした?」
「ううん。何か変な気配を感じたから……最近、このあたり、変質者出るんだって。知っていた?」
変質者だあ?
そんなの聞いた事もないけど、お前を襲う変質者なんて……まあ、居るかもな。
いかに性格が糞でも見た目は可愛いから、外見に騙されて襲う奴もいるんだろう。
もし、奈々子がそんな事になったらどうする?
正直、助けようなんて気は全くないけど、あいつに危害が加えられると、由乃さんが心配しちゃうから、やっぱり放置は……ん?
「スマホで……げえっ!」
スマホの着信が鳴ったので、誰かと思ったら、奈々子だったので、出ようかどうか悩む。
くそ、尾行に勘付かれたか……さっさと、逃げないと……。
「うわっとっ!」
慌てていたので、スマホを落としそうになり、態勢を崩してしまった。
あぶねー……落としたら、ひび割れするところだったぜ。
「…………何、やっているの?」
「ん? はっ!」
スマホを道路に落とす前にキャッチできたので、ホッとしていると、奈々子が仁王立ちして、俺の目の前に立っていた。
「あーー、えっと……よう、偶然じゃん」
「ま、まさか、ストーカー……ねえ、こいつよ! 最近、私を付け狙っているストーカーって」
「はあっ!? お、おいっ! 奈々子、てめえっ!」
急に奈々子が俺を指差して、そう叫ぶと、一緒に歩いていた男が俺の前にやってきた。
「ああ? てめえが、ストーカー? おい、奈々子に何をするつもりだよ?」
「ち、違うっ! つか、俺は別に……」
胸倉を掴んで凄んできたが、やべえ、思っていた以上にこいつデカくて喧嘩強そうだぞ。
「くすくす……」
(――っ!)
そして、奈々子は俺を見て、クスクスと見下すような笑みで笑っていた。
こいつにボコらせるために、わざと尾行させていたのか?
やる事、えげつなくて
「彼、前に付き合っていた彼氏なの……何度も言っているでしょう! あんたと寄りを戻す気はないのっ!」
「はっ? 俺、そんな事、一言も……」
「おい、ちょっと面貸しな。俺の女に手を出そうなんて、良い度胸してんじゃん」
「してねえよ! てか、お前、この女の本性知っているのかっ!? 元カレとして、一言、言っておくぞ! そいつは性格悪いビッチ女だから、止めておきなっ!」
「ひ、酷い……陸翔、彼の前でそんな誹謗中傷するなんて……」
「うるせえ、事実だろ! こいつの前で、てめえの悪行、全部バラしてやろうかっ!? お前が誰と付き合おうが、どうなろうが知った事じゃねえけどさっ! 由乃さんに心配かけるのだけは止めろ。俺まで迷惑するんだよ!」
胸倉掴んできてきた、ヤンキーっぽい彼氏らしき男にそう忠告していくが、男は予想外の言動だったのか、少し困惑気味だったみたいだ。
「と言う訳で、元カレとして忠告しておいたから。じゃあな」
「あ、おいっ!」
何とか胸倉を掴んでいた手を強引に離して、ダッシュでこの場から逃げ去る。
危なかった……ガタイが良くて、喧嘩強そうなヤンキーだったので、俺には敵いそうになかったが、あんなのとも付き合っているのかよ、奈々子は……。
「はあ、はあ……ここまで来れば大丈夫か」
一目散に逃げ去り、追いかけてきている様子もなかったので、一先ず安堵する。
危なかったが、今度は尾行も慎重にならないと……。
「しかし、あいつには何人の男が付いているんだ……?」
同級生から、大学生に会社員、ヤンキーまで……あらゆる男と付き合えるか、誰かと競っている訳じゃないだろうな?




