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「せんぱい!」

作者: 猫ぞなもし



「あっ、そういえば課題!」

「ヤバイヤバイ~、先生今日までって言ってたよね」


 課題の紙を探し出し、長年愛用してきた机に置く。


「将来の夢を書きなさい……って言われてもなあ」


 問題の紙をぼーっと見ながら、星型のストラップがついたペンをクルクルと回す。

 小学生の頃も、中学生の頃も、いつでも二番目のやつを書いて誤魔化してきた。


「いっか、今回も」

(本当に大事なことは心の中で、じっくり育てたいし)


 さらさらとペンを進め、家を出る準備を進める。

 窓から陽射しが差し込んでいるのが、何故だか無性に気になって、輝きでいっぱいの窓を開けてみる。

 眩い光が視界に入ったのも束の間、顔を上げると晴天の空が広がっていた。


(わ~、めっちゃ快晴!)

(雨降るなんてゼッタイ起こらないよね……?)


 そんなことを考えていても、折り畳み傘を置いていく選択肢は無かった。

 万が一……があるかもしれないし、ね。


「さ、もうそろ出なきゃ~」


「いってきまーす!」


 いってらっしゃいとママの言葉を聞くや否や、通学路へと足を運ぶ。

 いつもの友達が待っているあの場所へ。



「おはよう、つむぎ」

「おはよう~!少し遅くなっちゃった?」


「いつも通りだよ、それに、時間遅くなったら間に合わなくなるよ?」

「間に合わなくなるって、なにが……?」


「はぁ~、なんでもないです」

「え、ええー?」


 そんな会話を楽しんでいると、いつもの交差点に到着する。

 友達との会話に集中する自分と、「先輩」がいないか目を追う自分がいて。

 目の前の信号が「青だよ」と言われるまで、全く気付かない自分がいて。


「ごめん、ちょっとうっかり」

「うっかりってあんたねえ、そんなの毎日でしょ」


 目線に滲むこの気持ち、隠しきれない?

 流石にもうバレバレかな。





――――――

――――――――・・・

放課後



 

 生徒会の業務が終わった後、二人きりになれるタイミングがあった。

 いつも肌身離さず持ち歩いているスマートフォンで、いつもの表情をチェック。

 駆け引きとか知らない自分でも使える、勇気の振り絞り方。

 カーディガンの袖、ちょっと伸ばして声をかけた。


「せんぱい! 一緒に帰りませんか?」


 先輩は面食った顔でたじろぎながらも、了承の言葉を告げる。


「え、良いんですか?」


 帰り道一緒だったようなと言われ、そこまで覚えててくれたことに嬉しさが隠せなかった。


「はい!そうなんです!」

「せんぱい!帰り道一緒ですし、どうせなら寄り道していきませんか?」

「行きたかったところがあるんです」


 先輩と一緒に色々なことを話しながら、お目当てのお店まで歩く。

 好きな人と近くで話せて、一緒に帰れるなんて、夢のような話だ。

 願わくば、恋愛関係になりたいなあなんて、夢のまた夢の話?


「せんぱい!こちらの新しくオープンした駄菓子屋さんです!」


 先輩が自分も気になってて、来たいと思ってたと少しテンションが上がってるように見えた。


「それじゃあ、一緒に色々選びますか?」


 せっかくだし、好きな物交換しようと先輩が言ってくれたので、自分の好きな駄菓子を選ぶ。

 子供の頃から好きだった、小さい桜餅に見かけた駄菓子。

 難点は、歯にくっ付くことがあるところ。


 おばあちゃんに会計を渡し、二人でベンチに座る。


 先輩が選んだ駄菓子はシガレット系の駄菓子。

 子供の頃、男子がタバコを吸ってるように咥えてたイメージがあった。


「せんぱい! そのお菓子好きなんですね」


 子供の頃良く食べていたことを話してくれる先輩。

 小さい頃、タバコを吸ってる真似をするのはどこでも同じみたい。


 お互いの駄菓子を交換して、先ほどのタバコの真似をしてみる。


「せんぱい、ふーーっ……、似合ってます?」


 子供みたいだって評価に、「お互い子供なんですからね!」と返す私。


 先輩と色々な事を話していると、あっという間に時間が過ぎて、綺麗なオレンジ色の木漏れ日が差す時間に。


 先輩がそろそろ帰ろうかと言うと、胸がズキンと響く。


「せんぱい! もっと話したいです」


 先輩もそう思っていたらしく、また一緒に帰ろうと言ってもらえた。

 また、一緒に帰ろう?


 カーディガンの袖、ちょっと伸ばしたところで、

「もっと近くいっていいですか」なんて言えるはずもなく。


 こんなに先輩の事を知りたいのに、あと10センチまだ届かない。


「せんぱい! また一緒に帰りましょうね」




 帰宅後、すぐに今日あった嬉しいことを思い出す。


 他人に規定されない気持ちも空想も、

 お気に入りのペンでノートに書き殴って、何度も読み返してみる。 

 今日のことを思うと、それだけで幸せで。


 高尚な哲学も、達観した価値観も持ち合わせていないけど、

 この気持ちだけは、絶対に本物だ。





――――――

――――――――・・・

数日後



「雨降って来たよ」

「ほんとだ、予報では晴れだったのにね。持ってきてる?」

「あんたがいつ何時でも傘入れてるの見てから、私も折りたたみ傘入れるようになったからね……」

「え、そうなの!?」

「あんた、バレてないとでも思ってたんだ……」

「な、なんのことですか?」

「良い良い、早く行ってきな」


 隠しようがないこの気持ちも、先輩には伝わってるのかな……?

 

 下駄箱が見える周辺で、傘を差しながら待ってみる。

 先輩が誰かと付き合うことになったら、私もこんな風に泣いたりするのかな。

 そんなことを考えていても、先輩の姿が目に入れば、自然と体は動いていく。


「せんぱい! 傘持ってないんですか?」


 雨降らないと思ってたから持ってきてないと先輩が言う。


「それじゃあ、一緒に入っていきますか?」


 精一杯の笑顔で言ったつもりだったんだけど、なんか先輩の様子がおかしい。

 目を逸らされたので、顔を覗き込んでみた。あれ?


「せんぱい、なんか顔赤くないですか?」


 先輩が一緒に帰るハズだったグループの人に、

「可愛い罪で逮捕されないように気を付けてー」と声をかけられながらも、念願の先輩と相合傘をすることに。


「あはは、先輩ご迷惑じゃなかったですか?」


 少しだけ頬が赤い先輩が、目を逸らしながら迷惑じゃないと言う。

 傘貸して、と強引に傘を奪い取られ、私の肩が濡れないように気を使ってくれるところも、不器用で優しい先輩の一面だ。

 前とは違い、お互いに軽口を叩き合いながら帰路につく。


「せんぱい! 雨なかなかやみませんね」

「ちょっとだけ屋根あるとこいきませんか?」

 予報が変わってこれから豪雨だから、今日はこのまま送り届けると先輩。

 先輩の優しさを感じつつも、少しだけ膨れてみる。


 ちょっとあからさますぎたかな。

 相合傘でもあと3センチ、まだ届かない。


 


「せんぱい!送って頂いてありがとうございました」

 傘を返そうとする先輩に少し怒り気味で言う。


「せんぱいが濡れちゃうじゃないですか。今度一緒に帰る時に返してください」

 それじゃあ次の晴れの日、屋上で返すと先輩が言ったのも束の間、またねと良い振り返る。

 いつもの笑顔で先輩を送り出す。

 また一緒に帰れるように。







――――――

――――――――・・・

次の日



「そういえば、昨日一緒に帰れたの?」

「うん、帰れた!」

「良かったね、どう?告白は?」

「ま、まだそういうのは早いっていうか……」

「あんたね、そんなこと言ってたら誰かに先越されちゃうよ。人気の「せんぱい」なんでしょ」

「そうだけど……」

「後悔先に立たずって言うでしょ」 

「むー……」 


 薄々、思っていたことを自覚させられ、どうしたものかと空を見上げながら思う。 

 自分の気持ちと同じ曇り模様だ。


 髪も爪も、自分のため。

 この気持ちも、全部自分のため。

 それ以上でも以下でもなく、全部が等身大の自分。


 もっと笑う顔見たくて、もっと笑う声聞きたくて、

 それは他の人が、先輩を笑わせることでも良いのかな。


 ううん、違う。

 他の誰でもなく、私が先輩の隣で一緒に笑いたいんだ。


 この気持ちは、正真正銘、自分だけのもの。

 先輩がどう思っていても、私の気持ちを伝えることで何かが変わるかもしれない。

 自分の気持ちを自覚した時、太陽を覆い隠していた雲が移動したのか、辺りには光が舞い降りていた。


 「晴れの日……!」




 約束の場所へと歩き出す。


 





 屋上の扉を開くと、さっきまで曇っていたのが嘘のように青い空が広がっていた。

 ベンチに腰掛、先輩は来るのかとドキドキしながら待つ。

 

 さっき決めたばっかりなのに、もう逃げようって思う心を留まらせる。

 今日も、あなたを待ってるって決めたばっかりなんだから。


 

 そんな自己問答のすぐ後、扉が開きその人はやってきた。




 「せんぱい!」


 急に晴れたから急いで来たんだけど、いないかと思ったという先輩に微笑む。


「えへへ、あーしも急いできたばっかり」 

 

 先輩が私の隣に腰を落ち着かせ、昨日はありがとう、いえいえ。なんて傘をやり取りする。

 お互い気恥ずかしく、十数秒も沈黙が続いた。

 昨日とは違い、ありったけの勇気を振り絞る技が私にはある。


「あ、あの!せんぱい! 手繋いでいいですか?」


 突拍子も無い話に、先輩の返答を聞くのが恥ずかしくなり、強引に先輩の右手を触る。


「せんぱい、手のひら柔らかいですね」


 手の甲は硬いんだと当たり前な事を思いながら、強引に手を繋ぐ。

 手のひらがちょっと湿っぽい気がするのは、空気が湿ってるからだと思うことにする。

 先輩がずっと私の顔を見てるような気は間違いではなく、衝撃を受けてるような、そんな感じだった。

   

「せんぱい!せんぱい? あーしの顔、何か付いてますか?」


 ハッと気が付いたような素振りでなんでもない、と狼狽える先輩の姿がどうにも恥ずかしく、

 何だか暴走しているんじゃないかと不安に思う。

 でも、ここまできたなら引き返せないし。


「せんぱい!ちょっとドキドキしますね」

「なんか、付き合ってるみたいですね」


 なんて、笑って話すけど、

 本当は泣きそうで、苦しくて痛くて、

 恥ずかしさで宙に浮かんじゃいそうで。

 

 だけど、あと1ミリメートル。

 ここまで来ても、まだ届かない。



 どうしようもなくて、繋いでいる手が震え始めた時に、

 先輩の声が聞こえた。




「ごめん、実はボク」


 



 ごめんの言葉で、瞳に涙が溢れてきた。

 泣く姿を見せたくなくて、懸命に抑える努力をする。

 でも、でも。 もう時間の問題かもしれない。

 だから、精一杯顔を逸らすことにした。

 






「つむぎのことが好きなn」


 




 

 全て聞き終わる前に、手を離して先輩の数歩前まで歩き出す。

 決して涙を見せないように。

 いつもの私で振り向けるように。

 カーディガンの袖に震えていた手を隠し、後ろ手に振り向いて声をかける。

  













「せーんぱいっ!」











最後までお読み頂きありがとうございました。

初めて投稿するので、不備等ありましたらコメント頂ければ助かります……!


誕生日にてぇてぇな楽曲にてぇてぇさせられてしまい、

気付いたら自己解釈多数な作品が生まれてしまいました……。


どの世界線でもつむぎちゃんには幸せであってほしい!


たまーにてぇてぇな短編書きたいなと思っています、たまーにね。

良ければ高評価、低評価お願いします!励みになります、です!





なんだ、かもしれないし、

なのだ、かもしれない。

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