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紅い龍騎士  作者: Ringo
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第5章 ドラグーン 後編

読みずらいかもしれんです…


 アギトの出現により場の状況が一変した。


 押されていた騎士達は天変地異が起きたようにその達位置はひっくり返されている。謎の男、アギトの力によって…。


 次々と現れてはアギトに向かって飛びかかるロゥファング。彼らの牙がアギトの肉に触れる後一歩の所で豪熱に弾かれてしまい、その身が黒く焼け焦げてしまう。


 無惨に死に逝く魔獣達をただ、呆然と観客しているだけのファルヴァン。彼の額から吹き出た汗は頬を伝って滴り落ちていく。


「相手になんねぇなぁ」


 そう呟いたアギト。振り払った右腕の残像が輝き、その前方へ向かって炎の火柱が立った。付近にいたロゥファングは成す統べなくその炎に包まれ、酷い死を迎えている。


 一瞬にして片が付いてしまった。遠くにいたロゥファングは勝算がないことを察し、アギトに背を向け逃げ去っていった。


「すげぇ…あいつ何なんだよ…!」


 感動と好奇心が騎士達の心を支配した。だが…。


「足りない。物足りねぇ…! これだけじゃおもしろくも何ともねぇ!」


 突如アギトは目を大きく開きながら、自分の腕を見つめて叫んだ。騎士たちの心にあった気持ちは吹き飛び、背筋が凍てつくような嫌な気分を覚えた。


「……はぁ……はぁ……アギトさん、早すぎです……」


 ようやくながらアギトの後を追っていたリーナが到着した。たが、運が悪いことに、もっとも最悪の状況時にきてしまったのだ。


 姿勢を低くし肩で大きく息をするリーナ。


「リーナ? 馬鹿、なんでおまえがここに!」


 リーナに向かって目を開けるのもままならない高熱を帯びた風が吹き荒れた。顔の前で腕を組んでその風を受け止めるが、腕が火傷する程高温で、皮膚が溶けていく感覚がした。


「え……」


 風は直ぐに止んだ。その直後、焼けた腕の皮膚一部から電撃の様に痛みが流れた。


「邪魔だぁ!!」


 恐ろしい形相をしたアギトが叫び、再び腕を振り降ろした。円を描くように炎が立ち上がり、アギトを包んだ。


「何だあいつ! 暴れ出したぞ?!」


 シドが振り向いたとき、ファルヴァンの姿が見あたらなかった。


「リーナ!」


 いつの間にか彼女の横へ駆け寄り、声を殺して苦しみ倒れる彼女を抱き上げた。右腕の肘から手首にかけての一部が焼けただれていた。あまりの激痛に声も出ないリーナは大粒の涙をこぼしながら短く呼吸している。


「クソっ! アギトォ!」


 無害の彼女を傷つけたことがファルヴァンの怒りを沸騰させた。叫びながら剣を引き抜き、炎の中へと飛び込もうと駆けだした。


 その瞬間炎はぴたりと消え去り、倒れ込むアギトの姿が現れた。


 またしても突然なことにファルヴァンは戸惑いを隠せなかった。倒れ込むアギトを見て不思議には思わざるを得なかった。


「アギト! お前……ッ!」


 倒れた体を無理矢理起こして訴えた。アギトは苦しそうな顔をして息が上がっていた。


「また、暴走かよ…」


 小さい声でアギトは言った。


「何だ…? お前リーナに何であんなこと!?」


 胸ぐらを掴んでファルヴァンは怒鳴った。


「くそっ…また来やがったな…」


 先ほどの活発的な態度とは真逆の弱々しい、貧弱化したアギトは掠れる声で呟いた。彼の視線の先には、アギトが逃がしたロゥファングが新たに頭数を増やし、反撃を挑んできたのだった。


 突然の強襲、アギトの出現、傷ついたリーナ。あまりに複雑で説明が足りない事柄が絡み合い、苛つくモドカシサがファルヴァンの心の中に生まれた。


「次から次に……ッ! 何なんだ!」


 ファルヴァンの背中で看護する騎士とテトの声が響く。戦力も極僅か。体力も限界を迎えている絶体絶命の状況。今まで出会うことがなかった本物の恐怖を知ったファルヴァンは手先が震え、全身から冷たい汗が噴き出し始めたのだった。


「おい、ファルヴァン」


 苦しそうな声でアギトが呼んだ。


「…体を貸せッ!」


「はぁ? 何言ってるんだ!?」


 ファルヴァンに強く訴えた。


「今の俺じゃまた暴走しちまう……だから、お前の体を貸せっていってんだよ!」


 ファルヴァンも目を大きく開いて叫んだ。


「ふざけんな! 何だ!? お前は一体何者なんだよ!? 訳が分かんねぇ、俺に何をしろって…ッ」


 言いかけたところを、アギトが制するように言った。


「あの女が死ぬぞ!?」


 言葉が喉で詰まった。その時妙にリーナの苦しむ顔が頭の中で思い浮かばれた。震えている手先を握り、生唾を飲み込んだ。





「おい、水をくんでこい!」


 シドがそう指示をして一人の騎士が民家へ駆け込んだ。リーナの横にいるテトが心配そうに彼女の手を握っていた。


「しっかりして!」


 その返事には痛みが勝り返すことが出来なかった。痛みから速まる呼吸、吹き出る汗。止まらない激痛。傷は右腕側面を大きく占めていた。一刻も早く助けなくては、悪化する一方だろう。


 苦しみ悶えるリーナだが、小さな声で何かを呟いた。テトが気づいて耳すませた。


「え、そんな…」


 そんな事をしてる間に、ロゥファングの群は到着し、次々と騎士たちへ飛びかかってくる。シドも彼女二人を守るべく剣を抜いた。


「どうにかしろぉ!」


 疲労と困惑でもう体が言うことを聞かなくなり始めていた。それでも奥歯を噛みしめ、体のそこから力を振り絞った。




「手を貸せ」


 素直にアギトへゆっくりと手を伸ばしていく。


「どうする気だ」


 その質問にアギトは鼻で笑った。


「俺を見ろ」


 手を借りて立ち上がったアギト。顔をあと数センチ足らずでふれ合う間際まで寄せ、互いに瞳の奥を覗いた。吸い込まれるようにファルヴァンの意識は薄れ、視界が真っ白に染まった。直後、強い風と柔らかな光が二人を包み込んだ…。


 その光の正体…魔獣達は自らの動きを止め、その光を見つめた。紛れもなく、その優しく暖かみのあるきらびやかな輝きは”魔力”以外何物でもなかった。人には感じられない魔力だが、魔獣達にはその力を感じることができる。そして瞬時に判断した。その魔力が、あまりに強大であることを………。


 光が弾け、花火が散るように先の輝きは失われていく。やがて、その光に包まれていた者が姿を現した。


 アギトが消え、ファルヴァンがそこに一人立ちすくんでいた。


「ファルヴァン…?」


 シドが訊いた。ファルヴァンはゆっくりと瞼を開いた。その瞬間、目の前に大きく口を開き巨大な牙で噛みつかんと飛びかかるロゥファングがいた。気づいたときには距離が短く、逃げる術は無かった。


 だが、ロゥファングの牙が届くことはなかった。直前の所で目の前に光が現れた。小さな光は一瞬で膨張し、真紅炎を撒いて爆発した。顔を焼かれたロゥファングは二度と動くことはなく、吹き飛ばされた。


「ははっ、本当に同化出来るとはな。どうやら俺たちは相性がいいかもな」


 ファルヴァンの姿をしているが、その声の主はアギトであった。


(何だ…この感じ…体中が熱い…)


 アギトの頭の中でファルヴァンの声が響いた。


「俺の魔力は強すぎてな。一人じゃ負担が大きすぎて扱いきれないんだよ…。それを二人で山分けするって訳だ」


(魔力? 俺の体に魔力が宿ってるのか?!)


「つべこべ言うな! 行くぞッ」


 威勢良く地面を蹴り駆けだした。腰に携える剣を引き抜き、立ち向かってくるロゥファング達に一振りーーー大地を割るかのような勢いで振り降ろされた一撃は空を裂きながら灼熱の炎が繰り出された。瞬く間にロゥファングの大半を焼き付ける攻撃だった。


「あぶねぇ、当たるところだったぞ! ファルヴァンッ」


 間一髪の所で強烈な一撃を避けることができた騎士たち。またしても一瞬にして決着がついてしまった。何体かは騎士が倒し、大方ファルヴァンとアギトの力で倒してしまったのだ。


「どうやら片づいたな。民家に火が移らなかっただけよかったもんだ」


 一息ついた時、目の前の景色が大きく歪んだ。何が起きたのか理解する前にアギトは倒れ込んだ。


(お、おいっ! アギ…ッ!!)


 アギトの内側から呼んでいた最中、ファルヴァンも似たような感覚に襲われた。だが彼の場合目の前が歪んで見えたのではなく、ファルヴァンの見たこと無い古い記憶の一片が瞳に映し出されたのだ。


 誰もいないところに一人、ぽつんと立っているだけの小さな龍。悲しそうな目をして、どこかを見つめている。さめざめと涙を流しながら………。


 ファルヴァンはハッと我へ帰ってきた。気がついたらいつの間にか体の主導権が自分のものになっていた。


「動くなッ!」


 突如彼の目の前に鋭く輝く刃が突き立てられた。何人もの上位騎士がファルヴァンを取り囲んでいた。ファルヴァンの隣にはアギトが気を失い横たわっていた。先ほどの映像を見た瞬間、二人は元に戻っていたのだ。今頃になってのこのこと現れた応援の騎士達に対する苛立ちを交えながらシドが割って入った。


「お、おい! まてよそいつは…ッ!」


 弁解の間も与えずシドに刃が向けられた。思わず言葉を飲み込んでしまうシド。


「我々に楯突くか? 後悔してもしらんぞ」


「ファルヴァン・アルバート、貴様とこの赤髪の男は城で詳しく話を聞く。ついてこいッ」


 ただ事情を聞き出すにしてはファルヴァンに対しての態度が乱暴すぎた。


「まってくれ! なんで俺が…っ」


 疑問を口にしてしまったが、思い当たる節が一つあった。


 先ほどの、アギトに体を貸した事だ。


「事は重大だ。なにせ貴様は絶滅したと言われた“龍”と接触しているのだからな」


 その一言でファルヴァンは事態の大きさをようやく知った。


「龍…?」


 横たわる人の姿をした彼は、実は龍であったのだ。自分が一体何を間違えたのか、どこでどう間違えたのか。すべてが真っ白になりかけながら、言われるがまま城へとつれてかれた。


 ふと、周りを見れば、衛兵が苦しむリーナを手当していた。


(…リーナ…)




 第6章へ続く

よかったら感想とかお願いしますノシ

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