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紅い龍騎士  作者: Ringo
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第5章 ドラグーン 前編

やっと出来ました…後編はもう少しお待ちをノシ

 その日の午後


 ファルヴァンとシド、あと何人か混ざった騎士は彼らの仕事である警備活動に勤しんでいた。街の一部の地区内任されたファルヴァン達。総重量10キロ前後の鉄の塊を身に纏い、その腰には鋭い剣が備わっている。


 巡回を始めてから一時間…が過ぎた頃。鎧の重量が歩き回る騎士の負担になり、疲れが見え始めた。中でもシドは足が前に進まず、ふらふらと思い通りに歩めなくなっていた。


 疲れからトーンが落ちた声でシドは嘆いた。


「…なぁ…そろそろ…休んでも…いいんじゃ…ない、か…?」


 それにファルヴァンが答えた。


「もう少し我慢しろ。俺も疲れてるんだ」


 というものの、彼の表情はシド程まで酷くはなかった。疲れを顔に見せず、言われた任務に専念する。それが彼の良いところだ。


(…くそ、優等生が…同じにすんなっ)


 シドが心の中で愚痴をこぼしたころ、リーダーの騎士が足を止め、休憩の時間をとると言った。丁度休憩の予定時刻だったのだ。


 騎士達が休憩をとった場所は街の中の広場だった。ベンチが沢山あり、老若男女問わず憩いの場として使われているとても賑やかな場所だ。すぐ近くには飲食店や花屋、八百屋、様々な店も並び非常に便利である。


 シド達が腰をベンチに下ろし体を休めていると、先ほどまで居たはずであったファルヴァンが見あたらなくなっていた。


 幾ら見回しても彼らしい姿は人混みに混ざっていなかった。


 その時、ふとシドの脳裏で何かが閃いた。


「あいつ…」


 シドは何か企むようかのように不気味に微笑んだ。








 ここは憩いの広場から直ぐの花屋。店先から中までずらりと並んだ色とりどりに咲く花達。そんな彼らに隠れるようにして、一人の男が現れた。花の手入れをしていた店員のテトはそれに気づき、事務的に声をかけた。


「いらっしゃいませ。お花をお探しですか?」


 声をかけられた男性は顔を真っ赤にし、何をするのか訳が分からずしどろもどろしていた。


「あっ、いつもお花を買ってくれる騎士さん…? えっと、確かファルヴァンさんでしたよね」


 その男の顔を覚えていた。胸の前でぱんっと手を打ち合わせ尋ねた。テトの瞳が、眩しすぎて直視出来ず顔を逸らしてしまった。小さく華奢な体は指先から足まで細くスタイル抜群。腰まで伸びた髪、整った顔つきは美しく、潤った唇は輝き、蒼く澄んだ瞳には吸い込まれる。そんな気がしていた。


 その男はせっかくテトから声をかけてくれたというのに、意気地なしで口から何も出なかった。


「今日もいつものお花ですよね?」


 そう言って彼女は幾つかの花を選んで包装し始めようとした。


「いっ、いやっ、今日は仕事中ですので…。今は近くまで来たので…少し寄ってみようかな…なん、て……」


 買いもしないのに来たのであればただの迷惑だ。ファルヴァンは一言謝ってこの店から、憧れの人の前から、逃げ出すように………。


「どうぞ、見ていってください」


 予想もしない返事に拍子抜かれ、間抜けな声を上げてしまった。テトはクスッと微笑んでいた。


「お花達も喜びますよ」


 その優しさに包まれた一言が、すーっとファルヴァンの心に溶けていった。感動のあまり涙まででそうだ。


「でもお仕事も忘れないでねぇ。ファ、ル、ヴァ、ンっ」


 背後からの不意をついた声。その主はこの状況に置いて最悪のお調子者・シドであった。先ほどまでテトの一言で心がいっぱいになっていたファルヴァンも、一瞬にして血の気が引かれていた。


「シドッ! 何でココに…ッ」


 後ずさるファルヴァンを面白そうに見物しながらほくそ笑むシド。その顔は正に悪魔が楽しげにイタズラする表情であった。


「お前のことだから、どうせここのかわいい店員に会いに来たんじゃねぇかなぁ〜ってな。案の定ここにいたってわけ。アホみたいにニヤケながら」


「何でお前…ッ」


 ファルヴァンが誰にも口にしていないことをコイツは見破っていた。


「そんなの見りゃわかるっつーの。顔に書いてあるぜ。あの娘が好…っ」


 寸前のところでシドの口を両手で堅く押さえつけた。


 ファルヴァンも必死であった。彼女に聴かれれば一巻のおしまいだろう。珍しく“本気の眼”をみせ、その意志が本物であることを証明した。


「冗談、冗談。からかっただけだってぇ。本気になっちゃってー。本当にお前あの娘の事を…っ」


 シドの軽い口から滑りそうになった言葉が漏れる直前にファルヴァンは左手で彼の首を思いのまま絞めた。


「ったく、油断も隙もありゃしない…ッ」


 色白な表情のシドを絞めていた手をおろした。ふとテトが可愛らしげに小さく笑顔を見せていた。


「お二人とも、仲がいいんですね」


「えっ…! いや、まぁ…」


 彼女から声をかけてきた驚きと始めてみた微笑む姿の愛らしさ。それらに気を取られ濁ったように答えた。


 その時思った。今なら、彼女に訊くことが出来るのじゃないかと。


 四日後の聖夜祭を共に過ごしてくれないかと。


 一瞬だが彼女と並んである姿を浮かべただけで、ファルヴァンの頬が紅潮し始めたのだ。


「あの…っ」


 思わず滑って口に出した一声。テトの大きな瞳がこちらの瞳の奥を覗いてくる。余計緊張が高まったが、男の見せ場と心に誓い、口を開いた。


「聖夜祭…よ、よろし…っ」


 まだ言い出した初めだというのに、ファルヴァンの口はテトの一言により中断された。


「あっ、そうだ。最近どうですか? リーナさんと」


「………は?」


 訳の分からないテトの台詞にポカンとしてしまっているファルヴァン。


「リーナさん可愛らしいですものね。お似合いですよ。あ、聖夜祭にお渡しするお花だったらご用意させてくださいね」


 何故だか、ファルヴァンと居候・リーナは同居していることから交際していると勘違いしているそうだ。


 しかも、よりによって憧れの女性に。


「付き合ってるんですよね?」


 あまりに衝撃的であったためファルヴァンの手先は小刻みに震え、安定を保てずにいた。必死に弁解しようとするが、憧れの女性にあるはずない関係を築いていると思われたショックが勝り、ハッキリと声に出なかった。


「あの、あいつのこと何で…」


 やっと出た一言の問。テトは満面の笑みを浮かべて言った。


「だって、同居してるじゃないですか〜。一つ屋根の下」


 ……何かが崩れる音がした。


 意識を取り戻したシドがファルヴァンの背中でぼそりと呟いた。


「俺もな、前思ったんだよ。男と女が同じ家で暮らしてるだなんて聞けば、誰もが勘違いするよな…って」


 追い打ちをかけるようだった。


 もはや、平常を保つことなど不可能なファルヴァンは情けなく滝のように涙を流した。


 彼自身がそれに気づかなかったことが、こんな事態を招いた原因だったのだ。


 すると、遠くで大勢の騒ぎ声が響いた。何かと思って店外にシドは出る。


「…なっ、嘘だろ…っ!?」


 憩いの場は一変、悲鳴の嵐。人々は恐怖に我を忘れて逃げまどい、それを追って狼に似た魔獣“ロゥファング”が襲い掛かっている。鋭く大きな牙をむき出し、女子供境なく飛びつき、その牙で首を咬みちぎる。鮮血な血が噴水のように吹き出し、その身を真っ赤に染める。


 一体この短い間に何が起きたのか、理解などできるはずがなかった。


「緊急事態だ! 西城門がロゥファングどもに襲われ突破されてしまった! 応戦しろ!」


 応援に駆けつけた騎士がシドに教えてくれてようやく事態を把握した。すぐさま腰に備えた剣を引き抜き、仲間の戦う元へ駆けだした。


「初めての実践がいきなり絶体絶命かよっ!」


 訓練でみっちりシゴかれたかいあってか、襲い来る魔獣に十分対抗できていた。これも皮肉ながらクソ教官に教えられた成果だろう。


 シドの剣横一振り。飛びついてきたロゥファングの顔を裂く形で刃がすっと滑った。2メートルを越す巨体は地面に無様に落ち、顔面には一筋の肉が裂けた線が開いた。多量の血を吹き出し吠える魔獣。何となく罪悪感が残った。


「何? 何の騒ぎ…」


 外の騒ぎを察したテトが無謀にも店外の戦場化している地帯に現れてしまった。逃げ遅れていた彼女に気づいた一頭のロゥファングが牙をむけ、彼女に飛びつこうとした。


 恐怖に叫ぶ彼女をかみ殺そうとした瞬間ーーー。


 鋼鉄の盾が彼女の身を危機一髪のところで防いだ。次に日の光で輝いた刃が振り降りて魔獣の首を切り裂いた。返り血を盾全体で受け止め、彼女には一つも汚れが付かなかった。


 閉じた瞳を開いて前を見ると、そこにはファルヴァンがいた。


「ファルヴァンさんっ」


 頼もしい助けに涙を少し見せながら喜び、彼の名を呼んだ。だが返事をしない、どころかそのまま微動もしない彼にもう一声かけた。先ほど心に深い傷を負ったファルヴァンは滝のように涙を流し続けていたままだったのだ。


「バカッ! 何落ち込んでやがるッ!」


 シドが遠くから叱るがファルヴァンの涙は止まることはなかった。


「大丈夫。あなたなら倒せるわっ」


 何を勘違いして心配してくれたのだろうか。テトの心ある優しい一言が返ってファルヴァンの傷を広げていった。


「何でこうなるんだぁ…」


 運のないファルヴァンは、喚きながら立ち上がりテトの護衛と魔獣への応戦を開始したのだった。






「ちょっと待ってくださいよぉー! どうしちゃったんですかぁー急にぃー!」


 ファルヴァンたちの交戦している所から少しばかり離れた位置にあるファルヴァンの自宅に居たリーナ。だが突然アギトが何かを感じ取った様に家から飛び出していった。リーナもその後をとりあえずは追ってみたものの、彼女が幾ら運動神経が良くないとしても、明らかにアギトの足の速さは尋常じゃなかった。風を裂くように町中を駆け抜けていく後ろで、リーナとその差が開いていく。


(間違いない…この感じ…)


「もぉぉぉ! 少しは返事しろぉー!」


(…魔獣ッ!)





 広場では市民は避難しきったものの、未だ刃と牙のうちつけあう音が響いていた。


「くそ、切りがねぇぞ!」


 一人の騎士が魔獣からの猛攻に耐えながら叫んだ。


「応援が足りねぇぞッ」


 魔獣を振り払った剣を降ろさず構えるシド。その後ろファルヴァンと、二人は互いの背中を預け死角を庇あっていた。


「あともう少しッ」


「その“あともう少し”が耐えられそうにもないんですけ…どッ!」


 執念深く再び飛びかかる魔獣の腹に潜り、剣の柄で突いた。内臓が圧迫され魔獣は派手に転がった。


 その激しい攻防戦の真っ直中、一人の民間人が現れた。その男はゆっくりとした歩みで魔獣たちへ向かっていく。男の存在にいち早く気づいた騎士が警告した。


「お、おい! 民間人は下がって!」


 騎士の必死の警告は男の耳に届かなかった。良く見ればその男はこの状況に釣り合わぬ笑顔を浮かべていた。


 紅い髪の男。その男は紛れもないアギトだった。彼はは心の底から沸き上がる思いを手に握り、一歩一歩確かに歩いていた。


「そうだ…この感覚…」


 彼の脳裏で本能的に何かが奮い立った。ゾクゾクする感覚が彼の背筋を通る。


「俺が有一覚えてる……この感じ」


 一頭の魔獣がアギトに飛びかかる。遠くで気づいた騎士が叫んだ。


「逃げろォッ!」


 自慢の鋭く大きな牙を剥き出し大きく開いた口でアギトを咬み殺そうとした。その瞬間だった。


 アギトが振り払った右手の軌道は目映い光を放ち、そこから灼熱の炎が弾けるように爆発した。爆発のエネルギーに大きな巨体が吹っ飛び、体を焦がしながら身動きせず倒れたのだ。


「……殺し合いだ!」


 アギトの放った爆発にファルヴァン達も気づいた。


「お、おい。あいつ確か昨日の助けた奴だろ!? 今何しやがったんだ?!」


 彼の人ならぬ技を目撃したファルヴァン達は目の前の一瞬が、嘘であるかのように思えた。


「アギト…!?」


 その場に一人だけ釣り合わぬ微笑をし、アギトは言った。


「…楽しませてくれよ…」




 第5章 ドラグーン 前編 完

よかったら感想とかお願いしまーす。

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