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紅い龍騎士  作者: Ringo
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第2章 一度あることは二度もある

物語のテンポがスイスイ進んでいきますよ~

「今日は随分遅かったけど何かあったのか?」


 見習いから一等騎士まで全員が集まり朝礼が行われる。よく分からない偉いおじさんが長々と話す最中、同期でありファルヴァンとは良き仲である“シド”が今朝のファルヴァンの様子について伺った。


「………居候の面倒見てたら遅れた」


「居候? お前一人暮らじゃなかったのかよ」


「それは2週間前までの話。今はまるで我が家に寄生してるかのように食っちゃ寝食っちゃ寝してる」


「どんな奴?」シドは興味津々に訊いた。


「20歳の眼鏡をかけたマイペースな女」


 聞いた瞬間、目をまん丸と開いて仰天していた。


「女!? お前見ず知らずの女と同居してるのか? しかも年下の!」


 驚いたせいか自然と声が大きくなりつつあったのを制するように口の前に人差し指を置いた。


「騒ぐなって!」


 ふと横を盗み見ると怖い顔して周囲の訓練生に睨まれた。


「なぁっ、その娘可愛い? スタイルは? 胸は?」


 女性であったことが刺激したのか、さらに興味深くファルヴァンに迫った。ファルヴァンは圧倒されつつたじたじになっていた。


「イヤ…別に可愛くないわけでもないし、スタイルも悪くない………でも胸は……っ!」


 自分の発言が自分らしくないことに気づき、頬を恥ずかしく染めた。


「ってお前何聞いてるんだ!」


「今夜お前の家あがらせろよ。眼鏡に天然と来たら俺の好みだ」


 シドの本性が現れていた。呆れてものもいえなかった。


「ではこれから女王陛下直々のお言葉がある。心して聞け!」


 珍しく女王陛下が自らお出になって話を始めた。この国・マクソン王国は王族中心の国家であるが、この数年間非常に国民からの支持を得ているのが現106代目女王、ヒメリアである。争いを好まず平和的解決を前提とし、隣国との関係を築き直した偉大な女王だ。


 女王が現れると周囲がざわめいた。もちろんシドも。女王ヒメリアはあまりの美貌と柔らか性格の持ち主でもあり当然国中の男の気を引く存在だった。


「皆さん、本日から5日後に控えた“聖夜祭”に向けての警備活動を執り行ってもらいます。100年に一度の流星群を祭るこの時期、流星群に反応して異常に活発化する大桜の樹があるのはご存じかと思います。大桜からこの時期に限り多量の魔力を放つことも判明しております。この強力な魔力に誘われて森の向こうから獰猛な魔獣や大桜を狙った集団がこの街に入り込む危険があります。それをアーテックの誇り高き騎士であるあなた達に守り抜く役を任せたいのです」


 シドが露骨にめんどくさそうな顔して言った。


「何だよ、つまんねぇ訓練をやらなくて済むと思ったら今度は街のお守りですかぁ」


 シドのつぶやきに念を押すように女王が続けた。


「この街だけではなくこの国を守る騎士団の活躍に期待をしていますよ」


 女王が優しく微笑んだ。それにつられて騎士達の頬が緩んでいった。


「お任せください女王陛下ッ」


 先ほどの無気力なシドが消え、新たに別のシドが現れていた。


「………お前、ほんと単純だな」






 一方、居候リーナはファルヴァンのベッドでゴロゴロと転がっていた。まったりとくつろぎ、窓から丁度良い日光を浴びながら間抜けにヨダレを垂らしてお昼寝をしている。


 こんな彼女でも、つい2週間前まで瀕死の状態だったのだ。彼女がこの街を現れたとき、巨大な山を3つも越えた際に食料も金銭も(もともと少なかったらしいが)底を尽き、まさに死ぬ思いをしてやっとたどり着いた。だがこの街に知人がいるわけでない上、財布の中身は飴玉が一つだけ。3日もろくに食事をしてない彼女の足は小刻みにふるえ、木を支えにして歩くのが精一杯だった。


 もう歩くことも出来なくなり、道ばたに倒れた。彼女はその時覚悟した。「もう、死ぬんだ」と。自分の夢で始めたこの長旅も大した結果を得ず幕を閉じるのだ、と。


 リーナの青い瞳から大粒の悔し涙が流れ、疲労と空腹に襲われながら彼女は静かに瞳を閉じた。


 ………どのくらい時間が経ったのか分からないが、いつの間にか暗闇から誰かが声をかけ呼んでいた。重い瞼をゆっくりと開くと目の前には黒髪の青年がいた。ファルヴァンだった。彼は道ばたで倒れていたリーナを自宅へ運び一所懸命に看護してくれていたのだ。


 全てを知ったとき、思わず涙が止まらなかった。感謝で一杯だった。リーナはその時に誓ったのだ。絶対、恩返しをすると―――。


 だが今の彼女はどうだろうか。2週間前まで自分が生死の境目をさまよったことを忘れ、自分の家であるかのように自由気ままに寝ている。彼女の頭の中にはもはや「恩」だなんて真面目な言葉は消去されているだろう。


「あと5日かぁ…」


 ぼそりと独り言を呟いてみた。5日後、聖夜祭が始まる日だ。彼女はその日を待ち望んでいた。


(………うまく描けるかな………)


 ベッドに顔を沈めているうちにまた睡魔が襲ってきた。しばらくするとリーナは静かに寝息を立てていた。






「あぁーっ。つっかれたあぁぁぁ!」


 アーテック王城内にある騎士達の更衣室で一日の仕事を終えた見習い騎士が一斉に喚いた。午前と午後に分かれて街の警備活動。その後から始まる訓練に体中が悲鳴を上げていた。


「何で一日中鎧着て街中歩き回った後に重っ苦しい槍振り回さなきゃならねーんだ! 昼食休憩以外まともに腰下ろしてないぜ!?」


「仕方ないだろ、訓練生なんだし。まだ俺ら騎士として認められてないだからさ」


「でももう少しぐらい休憩くれたっていいじゃねぇか! それにあのクソ親父、良い歳して喧しいっつーのッ」


「…それは悪かったな」


 シドの愚痴に返事をした低い声の主をはっと振り向いた。肩幅が広く体つきの良い初老の男が、堂々たる威圧を放ちながらシドの後ろにいたのだ。


「グ、グラン重上等騎士団長ッ!? なぜココにッ…」


 怯えて声の震えるシドを、グランは鋭い目つきで見下ろしながら言った。


「廊下を歩けば何やら三等騎兵から上官への苦情が耳に入ってな。親切に聴いてやろうと思った訳だ」


 グランの皮肉な行動に一層シドは身が震えた。グランはアーテック騎士団の中でも最年長の騎士であり、また騎士団長を勤める用は“最も偉い騎士”なのだ。また最近は新人騎士(三等騎士)の教官も自ら指揮を執っている。


「グラン団長殿、こ…これはその…冗談という奴でして…あの決して心からの言葉でなくてですね? あの、その…ッ」


 焦りと緊張でシドロモドロになっているシドの瞳をグランの濁った瞳がしっかり捉えていた。蛇に睨まれた蛙とは、この事を言うのだろう。


「腰抜けが。そんな甘い考えじゃこの街を守るどころか自分の身すら危ういな。格好ばっかつけて、上官の一言一言にはいちいち文句を付け、訓練にも集中できない…」


 的を得た指摘に悔しく、シドは下唇を噛みしめた。その時、突然グランが更衣室全体に響くよう大声で怒鳴った。


「貴様等全員だッ! 貴様等は何のために騎士を目指している?! 本物の戦を知らんからそんな甘い事を言ってが叩けるのだッ! いいか、次一人でも俺に逆らってみろ。俺が本物の地獄を教えてやるッ! いいなッ!?」


 張りのある声に全員が切れよく返事を返した。悔しそうに噛みしめたまま睨むシドに踵を返したところ、丁度目のあったファルヴァンに言った。


「そうだ、貴様。ファルヴァンと言ったな」


 不意に名を呼ばれて緊張が全身の筋肉の動きを制した。グランは突如ファルヴァンに顔を寄せ、低い声で警告するように言った。最も迫力のある教官の顔が目の前に迫り、妙な緊張から息を飲んだ。


「図に乗るなよ、小僧」


 そう吐き捨ててシドは部屋を去った。何か教官の逆鱗に触れるような愚かな真似を自分がしたのだろうか?だがいくら記憶を掘り起こしても、先の台詞を聞く理由になるような出来事は一つも思い当たらなかった。気づけば、ファルヴァンとシドの額からは汗の滴が垂れ流れていた………。








 帰り道、ファルヴァンとシドは夜空の星が綺麗な下、揃って不機嫌な顔をしていた。


「ヴァン、お前さっき何言われてたんだよ」


 シドは自分のことよりも親友のファルヴァンを心配していた。あまり答えたくなさそうに、ファルヴァンは顔を逸らした。


「………“図に乗るなよ”だとさ………」


「はぁ? 何それ。俺が言われるなら分かるけど、何で成績優秀のお前が言われなきゃならねーの?」


 シドが庇ってくれたことには心から感謝した。だが、それで自分が調子に乗るのも違うと思った。


「自分の実力にのぼせ上がるなって意味かもな。…俺、グラン隊長に嫌われてるのかもしれない…」


 ファルヴァンの後ろ向き思考の癖が出た。シドはまたか、の意味を含む溜め息を吐いた。


「そんな後ろ向きに考えるなって! きっと何でも出来るおまえを羨ましくて吐いた台詞だろ? 寧ろ自信持てよ!」


 トーンをあげて励ますものの、変わらずファルヴァンは下を向いていた。


 会話をしてる内に気がつけばもうファルヴァンの家のすぐそこまで来ていた。


(………ん?)


 街灯の光が僅かにファルヴァンの家の前にある物体をうっすらと映していた。辺りが暗闇でシドの気のせいなのか、それとも本物なのか、家の前の物体をファルヴァンに訊いた。


「おい、あれ………人じゃないか?」


 シドの指さす先を眉間にしわ寄せながら見つめた。


「…嘘だろ…」


 一度あることは二度もあるのだろうか。間違いなく、人間がファルヴァンの家の前で倒れている。


 二人はそれに駆け寄って体を揺さぶった。二人と歳は同じくらいの紅に染めた髪の男だ。その男に幾ら声をかけても返事が帰ってこなかった。


「こいつ、死んでるのか?」


「いや、息はしてる」


 すると返事代わりなのか、男の腹から虫の音が響いた。


「こいつ…腹減って倒れてるだけかよ……ッ!」




 第三章へ続く…。

ブログもよろしくね。

http://ameblo.jp/ringo724f

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